チョコ色のボディバッグ
そろそろ15年の付き合いになる。
僕がオンもオフも日常的に使っている、革のボディバッグと過ごしてきた時間のこと。
社会人になって2年目だったと思うけれど、土屋鞄製造所の自由が丘店で購入した。駅から店舗までの道のりは少しあった。
その日は良く晴れていて暖かく、汗ばんだ記憶も鮮やかによみがえる。本当は別のモノを買うはずだったような・・。
件のボディバッグは、パソコンの画面越しには見たことがあった。ビジネス用としては小さく、サブバッグとしては大きな、中途半端な大きさと、四角くも丸くもないぼやけたフォルムをみて、金額的にもデザイン的にも好きではないなと思った。
今となっては、店舗に何を探しに行ったのか覚えていないけれど、足を踏み入れたとき、革製品の存在感と安定感に感動し、そしてなんとも言えない匂いが店内を満たしていたのは思い出せる。
そこに、ボディバッグが並んでいた。ほかのカバンとは違い、余計な装飾がない。強いて言えば、ジッパーを引くための取っ手が、飾りのように見えた。
ベルトも太く、全体的にのっぺりとしたデザインのバッグは、シャープな印象はないものの、革独特の温かみを感じるような気がした。
ネットで見たバッグには、颯爽と笑うモデルがいた。僕が好きじゃなかったのは、そのせいだったのかも知れない。
黒、カーキ、その中間にあるチョコ。気が付けば、僕はチョコを手に取っていた。中はどのくらいスペースがあるのか、肩への当たり方、背中とのバランス、本革のバッグを買うためのノウハウがないままに、思い当たる吟味を重ねた。
やや硬い革の質感はひんやりとして、なんだか緊張してしまう。値札を見ても、その緊張は和らぐどころか、高まった気がした。
ほとんど睨むようにバッグを見つめていた僕は、ちょっと驚いて店員さんを見た。(宝石を買うときに太陽光に当ててみる・・とは聞いたことがあったけど・・)
カーキとチョコを持って店の外に出てみると、本当に違った。カーキとチョコの差ではない。
チョコの色合いが、店内とはまったく違った。
店内では黒寄りのブラウン、深いこげ茶色だと思っていたが、太陽にあたると、赤味の強いカーキのような色合いに見えた。
ハッとしている僕を見て、店員さんがたたみかける。
音が重なると気が付いたのか、店員さんが言い直したのが、特に響いた。一体、どんな風に変化するのだろうか。
「手入れすると、どのくらい持ちますか」店内に戻りながら、聞いていた。
普段から買い物はほとんどしないし、シンプルなカバンを探していたのだと口実を作って、購入を決めた。そのあと、革の原料価格高騰や、モデルチェンジなどもあり、そのバッグは廃版になったのだとか。
気が付いたときにクリームを塗り、盛夏にはベルトで汗ジミがでるから休ませて、いつの間にか仕事用のカバンとして持ち歩くようになり、プライベートと仕事で使うようになっていった。
これまで、水筒からコーヒーが漏れ出し、シミを作ること2回。不思議なことに、ジュースも水も、お茶も、漏れたことがない。チョコだから、相性の良いコーヒーが飲みたかったのだと思うようにしている。
あれ、いつのまにか、10年以上使っている。
なかなか写真が撮れず、ようやく公園で。ベビーカーに載せた。赤に映える。ガーナチョコみたい(笑)
キズは模様となって、背中に当たる面は、ツルツルすべすべである。目立った破損はないけれど、中の生地が破れていたり、接着していた部分が外れているところもある。
夏になったら、修理に出したい。
かつて、別のお店(鎌倉店だったかな)で「その鞄、もう作ってないんです。長い間使っていただいて、ありがとうございます。」と言っていただいた。その店員さんは、ちょっと驚いていた。だから、僕は感謝をこめて返した。
「手入れしたら、だいぶ持つんですよ。きっと10年以上使っています。」
僕は、このバッグを買った時に聞いた言葉を思い出して、伝えた。
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