夜行温泉
逃げているわけではないけれど、心が落ち着かない。
早く目的地に着かなければ・・焦る気持ちで運転するのは危険だと分かっているから、半ば諦めにも似た心境で、やや慎重にアクセルを踏む。夜の高速道路を走る車たちは少ないが、とにかく速い。慌てず、落ち着いて・・車には家族が乗っている。
毎週月曜日には、旅の記録を書いている。
こんなに遅くなったのは、たぶん初めてのことだ。
子どもたちには秘密にして「直前に空いていたら行こう」と覗いた旅行サイト。運よく、空いている宿があった。しかし、チェックイン前日の予約だったこともあって夕食はなかった。
必要事項を入力していく、旅行サイトに登録していた個人情報を確認しつつ、宿からの質問項目に視線を落とす。
チェックイン予定時刻は・・・「18:00」かな。
いつもの温泉地へ、いつものようにドライブで向かう。おおよそ2時間程度かかる道のりを思い浮かべては、あまり得意とはいえない運転のことを思う。今回も安全に向かいたい。
子どもがいると、なかなか予定が決められない。特に、家族として動く時には僕たちの機動力は落ちてしまう。我が家の場合、とにかく遅くなってしまうのだ。
その日、小学生の上の子は土曜日だけれど授業があった。真ん中の子は、習い事が午後の早い時間にある。それを終えてから出発すれば間に合う時刻・・・のはずだった。
しかし、蓋を開けてみれば、上の子は授業の後、また学校に戻って検定試験を受験するとか、学年のPTAが企画したイベントに参加するといったイレギュラーがあった。
出発前夜に予約したこともあって、誰も旅行の準備ができていない状態だったので、結局すべての子どもたちの予定を終えてから旅の支度を始めたのである。
かなり無理があった。
時間は無情にも過ぎていく。
焦る大人たち。子どもは暇を持て余してピロピロと音を立ててゲームに夢中。
何度か、親である僕たちの心が折れそうになった。「今回はやめにするか・・」
しかし、キャンセル料もかかるし、せっかくみんな元気なのだから、と声には出さず自らに言い聞かせ準備を進めていく。ようやく荷物と家族が車に収まったのは、宿に告げたチェックイン予定時刻の、2分前だった。
高速道路の入り口までの道すがら、妻が宿に電話を入れる。
何を話しているのかは分からなかったけれど「大丈夫ですよ」と答えていた。宿から「大丈夫ですか?」と聞かれたのだろう。確かに、チェックイン予定時刻に遅れそうになったら電話連絡せよ、とは言ったけれど、チェックイン予定時刻に遅れるどころか、出発したなんて連絡はあまりないだろう。
結局、暗くなってしまった道のりをひた走り、宿に着いたのは、予定時刻の18時から1時間30分後だった。事故なく到着して、車内では拍手が起きた。
普段は決してしないのだが、現地に向かうまでに疲れてしまうことを見越して、家からカップラーメンを人数分持参していた。夕食はそれでしのぎ、翌朝のバイキングにすべてを賭ける作戦だった。
そんなわけで、カツカツの滞在時間だった割には、人によっては温泉に3回入るなどして、満喫していた。朝食バイキングでお腹いっぱいになった後の、朝風呂の家族風呂は、初めての経験だった。
そのあと、近所の公園のマルシェを冷やかしたり、大きな公園で遊んだりしながら、帰ってきた。
寒さはそれほどでもなかったけれど、やはり準備は大切であることを大人になっても痛感した旅となった。
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