見出し画像

素朴さと重さを見つめて #書もつ

この作家の書く野球が、好きだ。

とはいえ、僕自身は野球の経験もなければ、ルールらしいこともあまり知らない。スポーツとして楽しんだことがないのに、この作家の書く野球にはキラキラとした景色が浮かぶ。それは、空想している架空の世界のようでもあり、僕が欲しかったスポーツ経験への憧れかもしれない。

毎週木曜日は、読んだ本のことを書いている。

きっと、この作家と出会った物語が野球を描いたものだったからだろう。この物語もまた、野球の場面から始まった。勝っても負けても、この作家の野球を読みたいと、やっぱり思えた。

透き通った風が吹いて
あさのあつこ

高校生が3人登場する。男子2人と女子1人。・・それだけでもう物語になりそうな感じがする。さらに、幼馴染であることも加わって、地方の温泉街で・・と、もはや僕の知っている世界は殆どなくなってしまった。けれど、日本に必ず残っていそうな景色と暮らしが描かれていた。

影のある存在として数人が物語に登場し、読み手はその度に緊張してしまうけれど、経験を通じた学びや他人への理解のようなものを描いている気がして、うまくいえないけれど、物語が進んでいく力になっていた。

部活の引退試合、しかも負けが決まる場面から始まる物語は、どこへいくのだろうと思った。単なる恋愛小説でもないし、みずみずしい青春小説とも異なっていた。

あまり栄えているとはいえない温泉町の、つましい暮らしの中で自らが形作られていく、そのことを受け入れつつも、見たことのない世界への憧れを募らせる、そんな不安定な高校生に勇気をもらえた。

大人と子どもの境界ってどこだろう、幼い頃そう考えたことのある人は少なくないはずだ。いつの間にか大人になってしまうのか、きっかけがあって自覚していくのか、この物語には明確に答えが書いてあった。彼らが、この先幸せになってほしいと思えた読み終わりだった。

別の投稿でも書いたことなのだけれど、この作家が出演されている番組をたまたま知って、視聴したことがあった。作家が参加者に向けて「書くこと」の意味を語っていた。

「書くことは、書き出すこと、自分の中から”掻き出す”ことなんです」

毎日書いていると、この言葉に何度も励まされる。書くことが見つからなくなったとき、何かあるだろう、どこかに残っているだろう、と隅々まで探す。家族のこと、仕事のこと、自分のこと、読んでくれるかどうかは置いておいて、書き出してみる。

この物語を選んだのは、作家から励ましてもらうつもりだったからだ。昨年の夏に書き始めたエッセイがあって、それがなかなか進まないので、書き出せる(掻き出せる)ように買った作品だった。


読み終えて、勇気をもらえたような気分だった。掻き出すこと、向き合わなければ。

透き通った風、もしそれが感じられるとしたら、それはきっと自分が変わっていく合図なのかも知れない。


野球のイラストがかわいいサムネイル、infocusさんありがとうございます!

#推薦図書 #高校生 #温泉



この記事が参加している募集

#推薦図書

42,508件

最後まで読んでいただき、ありがとうございました! サポートは、子どもたちのおやつ代に充てます。 創作大賞2024への応募作品はこちらから!なにとぞ! https://note.com/monbon/n/n6c2960e1d348