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舐めときゃ治る。

唾は万能の薬

私は、舐めときゃ治るの母親に育てられた。
擦り傷も、切り傷も、なんなら火傷も全部舐めたら治ると教わった。
そんな母は、蜂に刺されて瀕死状態の私にも、舐めときゃ治ると言い放った。
元カレが家に遊びに来た時には、目が痛いという元カレの眼球を舐めようとした。必死に阻止したが、別れた原因は母だったと確信している。

我が家が異常だったのは確かだか、私が子どもの時代、多くの家庭でも唾は薬だったと思う。

何でこんな話をしているかというと、最近「舐めときゃ治る」って時代を思い出させる出来事があったからだ。
それは、友人宅に子連れで遊びに行った時のこと。
友人宅にはかなり広い庭がある。テニスコート4つ分くらいの大きな庭は工場の倉庫に隣接している。倉庫の近くには割れたガラスや、釘なんかも落ちていたので側に行かないように子どもには言い聞かせていた。
その日は天気の良い日で、子ども達は外で遊び、大人は家の中でコーヒーを頂いていた。
友人の子どもが、倉庫の近くで鳥の巣を見つけたと話しているのを聞いて、嫌な予感がした。そしてその嫌な予感はみごとに的中した。

突然、大慌てで家の中に入ってきた私の長男。
「りく君(友人の子ども)の足になんか刺さった!」
案の定、子ども達は鳥の巣を探しに倉庫の近くに行っていたらしい。
倉庫の近くに行くと、りく君が泣いていて、足裏からは血がぽたぽたとたれていた。
板に刺さっていた釘を踏んでしまったのだ。はいていたのはサンダルで、釘はサンダルを突き破って足裏に刺さったのだ。
すでに釘は取れていたが、刺さったのは錆びた5㎝以上の長さの釘だ。血がかなり出ている。

舐めときゃいい…。突然頭に浮かんだ。

でもまさか、そんなことをいう私ではない。
もう3児の母だ。そして時代は令和!
破傷風を起こす可能性もあるから、病院に連れて行くべきだということくらい知っている。
友人ともすぐに病院に連れて行こう、という話でまとまった。
そこにたまたま友人の夫から、友人へ電話が入る。
友人がことの経緯を説明すると、何やら2人がもめ始めた。友人が電話のマイクをふさぎ私に言った。
「ちょっと、この人頭おかしい。」なかなか話に折り合いがつかない様子。
友人が再びマイクをふさぎながら、「夫の話聞いてくれる?」と言ってきた、何事かと動揺しながらも承諾する私。
友人夫はサーフィンが趣味の会社経営者だ。工場の倉庫も彼の会社で所有しているもの。
「ちょっとまっ子に変わるから、それ説明して。」と友人から電話を受け取り、友人夫に「どうしたの?」と聞く。

友人夫「りくが釘踏んだんだって??病院行かなくていいよ。思いっ切り金槌で患部叩いて、おしっこかけとけば大丈夫だから。あいつ(友人)に言っても聞かないからさー。」

お前は正気か?

金槌で叩いて、おしっこをかけろ・・・

だと?

それは治療ではなく、何かのいじめか?
それとも罰ゲーム?
虐待ではないのか?

とりあえず電話を静かに切る。

もちろん彼の話は聞かなかったことにして、友人は颯爽と息子を病院に連れて行った。

帰宅した私の頭からは「金槌とおしっこ」が離れなかった。とりあえずネットで調べてみると、あったのだ!
釘を踏んだ患部を金槌で叩くと、患部から血が出てくる。その血と一緒に中に入ったばい菌が排出されると信じていた人たちがいたらしい。もちろん実際には治療にはならず、患部をより悪化させるだけらしい。

なるほど、なるほど。
友人の夫も、そんな話をきっと両親から聞いて育ったのだろう。

しかし「釘を踏んだら尿」をかけるという話については見つけることができなかった。それでも尿で治る何かがあるのではないかと、必死に尿治療について検索する素敵なアラフォー。
そして、ついに発見!
科学的根拠も効果も全くないらしいが、昔は蜂に刺されたら尿をかけろ!と言っていたらしい。

なるほど、なるほど。
蜂のとげも釘も、身体に刺さることによって菌や毒が身体に入る。だから友人夫は釘が刺さった息子の足にも尿をかければよいと思ってしまったんだろう。
ちょっとこじつけすぎかもしれないが、そうやって自分を納得させた。

そんなことを就寝間際、布団の中で考えていると、たくさんの疑問が沸き上がってきた。
問題はどうやって患部に尿をかけるのか、という点だ。
今でこそ、夫婦共働きや、主夫もいるが、昔はほぼ女性が家で子どもの面倒をみていたはず。子どもが蜂に刺された場合、どうやって主婦である女性が尿をかけるのか。女性がピンポイントで患部に尿をかけるのは至難の業。それ以前に、女性が野外ででパンツをいきなり脱いで放尿したら、警察沙汰ではないか?
ということは、トイレで何か容器に尿を入れてそれを患部にかけていたのだろうか。。。
そんなことを永遠と考えていたら、深夜をまわってしまった。
結果的に抗生物質のある現代に生まれる事が出来て、私は本当に幸せだなあ、と感謝することで心は落ち着き、無事就寝することができた。

昔の人の知恵は素晴らしい。豊かで、便利な現代があるのは昔の人の知恵があったからこそだ。たくさんの知恵が受け継がれ、今でも変わらず実践されているのはすごく喜ばしいことだと思う。私も母が祖母から教わったという、料理や病気に使える昔ながらの教えを今も使っている。
核家族が増える今、こういった知恵が次世代に引き継げなくなるのは寂しいことだ。だが、ケガした時に唾や尿をかける知恵だけはすぐに忘れべきだ。決して次世代には引き継がせないように各家庭、いやむしろ学校で教えたほうがいいんでないか。と思った私であった。





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