「真実」と「答え」

 色々と自分の思考を整理している中で、「真実」という言葉と「答え」という言葉を似た意味で、しかし全く異なる意味合いで使い分けているなと思ったので整理していく。

 突然だが、この整理の中で毎回思い浮かぶワンシーンがある。
 それがこのシーンだ。

和月伸宏「るろうに剣心」16巻(1997年

 「るろうに剣心」というそれなりに古い漫画で、実家には全巻置いてある。というか今発行年書いて気付いたが、俺が生まれた頃の作品だ。
 確か読んでいたのは小中学校の頃だった気がするが、それはもう何度も読み返した記憶がある。間違いなく俺の人間形成の一部に影響を与えた作品で、上記のシーンは確実に今の俺のコアになっている。

 上記はるろ剣で最も有名な志々雄真実編の1シーン。志々雄の側近、天剣の宗次郎との決着のシーンである。
 この瀬田宗次郎という青年は、酷い幼少期を過ごしており、その地獄を志々雄真実の「強ければ生き、弱ければ死ぬ」という「答え」に救われ、以来天性の才能を用いて明治の高官達(作中では板垣退助も)を暗殺したりしている敵役だ。
 漫画1話分とはいえ、描かれた彼の過去とめぐり合わせは「強ければ生き、弱ければ死ぬ」という「答え」に縋るに足る、いや縋らざるを得なかったと納得させられる過去で、絵と構成で、迫力で。たった一話分の間に自分も「強ければ生き、弱ければ死ぬ」と思い始めてて、その彼に同調することでどこまでも「不殺」を貫き通す剣心への苛立ちも共感出来て。
 そして激戦の末負けることでようやく「剣心の不殺が正しくて自分が信じた弱肉強食が間違っていたのか」と納得しようとした矢先に正しさなんてないと梯子を外されて。

「簡単に答えを出させてくれないなんて、志々雄さんよりずっと厳しいや……」

 そうやって少し救われたような顔で笑う宗次郎の顔が、滅茶苦茶刺さりました。

 そうなんですよ。僕もそう思うんです。
 真実なんて人の数だけあって、それぞれが自分の人生の中で見つけなければいけない上に、それが一生涯通用するわけでも無い。なのに自分でその意味を見つけるのはとてつもない苦痛と時間を要する。自分の心のぜい肉をそぎ落とす苦痛が、何年も絶えず自身を苦しませる。しかも途中で逃げ出すことも出来ない。半端なところでなぁなぁで折り合いをつけようとすると、事態はより悪化する。

 だから、唯一絶対不変で普遍の「答え」という幻想を見る。あってくれと願う。
 それを見つける事が出来れば悩む必要が無くなるから。悩む意味がなくなるから。それを疑わずに信じることで、自分の真理を探すなんて苦行をスキップ出来るから。悩んだ末の答えが間違っていないかと更新に悩む必要も無いから。
 「答え」が与えられる宗教と言うのはだから、本質的に優しいものだと本心から思う。生きていく上での最も辛い苦行を無に帰してくれるのだから。
 逆に自分で見つけろというのは、相手の事を思いやっているようでいてとてつもない苦行に立ち向かえという厳しい言葉でもあるのだ。

 自分にとっての「真理」はたった一つの戦いで得られるようなものではない。長い苦悩と、試行錯誤と、一期一会の出会いと、誰かの言葉と、自分の選択決断行動の結果と、その時の自分の感情と、誰かの優しさと、誰かの厳しさと、誰かの裏切りと、誰かの感謝と。
 そんな色んなモノにずっと真摯に向き合ってようやくそれらしきものに見当をつけて、「キミに決めたっ!」って言うものだ。
 でもそれもたった一回の出来事や、たった一つの技術革新で脆くも崩れ落ち、その度に修正を迫られる代物だ。

「わからない、俺には、わかりませんよ。
でも、わからないからって、悲しいことが多すぎるからって、
感じる心を、とめてしまってはだめなんだ。
俺は、人の悲しさを、悲しいと感じる心があるんだってことを、
忘れたくない。
それを受け止められる人間になりたいんです!」

バナージ・リンクス「機動戦士ガンダムUC」

 それでも、感じる心を止めてはダメなんだ。
 悩むことを嫌って、その絶対性が揺らぐことを恐れて、自分の価値観と異なる人を否定し、自分の正しさを押し付けるのは。
 勿論人は弱い。その恐ろしさに負けて、他人を否定することでしか自分を守れない時もある。今の俺なんかまさにそうだ。
 それでも感じる心だけは止めちゃダメだ。今はまだ受け止められなくても、いずれ価値観のアップデートをする時が来るかもしれない。その時に役に立つかもしれない。感じる心を凍らせずに、石化させずに、自分で考えることで真摯に向き合い続ける用意だけは絶対に辞めてはいけない。

 「真理」ってのは十人十色諸行無常な、その時その人にとっての世界のルール。
 「答え」ってのは唯一絶対不変で普遍な、あらゆる場合あらゆる人共通する世界のルール。

 そんな風に使い分けているんだろうな、という整理でした。

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