目指す姿

 メルトダウン(ひきこもり)期を少しずつ早く抜けられるようになってきて。やっとこさ気付き始めたのは、活動期に入るには毎回、ある一つの想いが重要なきっかけになっていたのだということだ。

「格好よく在りたい」

 現実のしんどさに疲れ果て。
 空想の約束された栄達に耽溺し。
 しかし道中の深い谷も、乗り越えられるのだと勇気を欲する。

 それ故に、いつも俺は物語の中に逃げ込む。
 そして勇気を貰って、俺も斯く在りたいと願い、現実に戻ってくるのだ。

 圭一に、ライナに、ルルーシュに、オカリンに、才人に、白銀御幸に、バナージに、古城に、優一郎に、グレンに。
 ルーデウスに、エイギルに、ウィルクに、アルノルトに。
 ヨシュアに、ロイドに、レクターに、リィンに、ヴァンに。

 仲間の為に。家族の為に。好いた女の為に。
 泣きながら笑いながら、悩みながら喚きながら、傷つきながら傷つけながら。
 精一杯絶望的な状況に陥りながら、あるいは死の淵に立ちながら、自分の守りたいものの為にどれだけ見苦しくても足掻き続けて、最後には望むものを勝ち取る、守り抜く。
 そんな主人公たちに憧れて。俺もあんな風になりたいと願って、願う気持ちがいつも俺の生きる原動力になる。
 彼らはいつも恥や外聞なんて投げ捨てて、自身の純粋な願いに向かってひたむきに動いていく。
 常識に囚われ続けていた俺は、ずっと憧れ続けていた。

 結局のところ、俺は誰かのヒーローになりたいんだ。
 別に万人に理解される正義の味方になりたいわけじゃない。
 たった数人でもいい。
 誰かの閉塞した絶望を打ち破って、笑ってやれる男になりたいんだ。
 きっと俺は生涯厨二病にかかったままだ。

 そして多分、30近くになってようやく、俺のなりたいヒーロー像が見えてきたんだと思う。なれるかもしれないヒーロー像が見えてきたんだと思う。
 それは多分、『劇薬』なんだと思う。

 変わらない日常を守る者を正義と呼んで、変化を促す、強要するものを悪と呼ぶのであれば、きっと俺は悪役なのだろう。
 今のままが良いと安穏としたい人達を恫喝し、挑発し、嘲笑する。
 考えろと、自覚しろと、願えと、行動しろと、ケツを蹴り回す。

 アクシズを落とそうとしたシャアが悪役であるように。
 ラグナレクの接続をしようとした皇帝が悪役であるように。
 世界統一を強引に進めたルルーシュが悪役であるように。

 どれだけ高い理想があったとしても、最終的にはその選択が正しかったとなるかもしれなくても、大多数を占める一般人が強引だと感じたらその時点で悪なのだ。
 だから指導者は欺瞞であろうと嘘を言い繕い、凡愚共を宥めすかして正義を標榜するのだろう。

 でも、俺にはそれは無理だ。
 嘘はつけるが、嘘をつき続けられない。それ程メンタルが強くないのだ。
 必要な嘘もあると理解しながら、嘘をつき続けることに耐えられない軟弱者だ。

 だからまぁ、俺は別に悪で良い。
 「惡」の一文字を背中に背負うのも一興さ。
 世間に非難され、憎まれ、叩かれ、拒絶され、最後には「正義の味方」様に打ち倒される。
 そして俺の悪行の後遺症によって少しだけ社会が変わり、悪者のせいにして変化を受け入れる。
 でも、それでいいじゃないか。
 ほんの数人の人に理解して貰えたなら。
 「どうだ、狙った通りだろ?」ってニヤリと笑いながら死ねるなら。
 俺はそんな生き様を最っ高に格好良いと思うし、それが出来るのならこの人生を賭すに値する。死ぬに値する。
 即ち、初めてこの世界が生きるに値する。

 極めて独善的で、不器用で、厨二的な理想だと思う。
 30近い成人男性が言ってると思うと、恥ずかしくて目も当てられない理想だと思う。
 でも本当にそれを成し遂げられたら、このクソッタレな現実世界で成し遂げられたなら、格好良いと思わないか?
 少なくとも実現はともあれ、それくらいでっかい事を目指さないんなら、俺はこの現実に生きる意味を見出せない。

 だから俺は言い続ける。

「考えろ」

 と。
 楽が出来る技術という飴で飼いならされて気付かないうちに、世界は猛スピードで変わり続けているんだぞ、と。
 歴史上百年単位で変わっていたレベルの変化が、生きているうちに何回も起きる時代にもうなってるんだぞ、と。
 「平たく和やか」な時代というのは、変化と衝突の少ない時代というのは例えロシアが停戦したってもう訪れないんだぞ、と。
 万人に通じる価値観なんてのは最早なく、一生涯通じる価値観なんてのも最早ない。
 それぞれが自分の生きる理由を見つけて、それぞれがその生きる理由の為に戦い合わないと、幸福は掴めないぞ、と。
 そしてそれは決して悪では無いのだと。

 常識ってのは偉大だった。
 悩まずとも与えられたそれに従っていれば「平たく和やかに」、「変化なく衝突なく」生涯を終えられた。
 でも資本主義はそれを拒否する主義だ。競い合うことを是とする思想だ。
 もはや善悪を議論する段階ではない。それを前提として動かなければならないのだ。
 我々はまだエルフにはなれない。文明を、情報更新のスピードを手放せない。

 だからこそ、常識に疑問を持ちながらも手放した先が見えなくて、怖くて動けない人のモデルケースに、着地場所になることが俺の生まれた意味だろう。いや、生まれた意味だと、定義する。

 ほんと、29にもなって何夢見がちなこと言ってるんだと自分でも思う。
 でも、繰り返すがそれくらいを目指すのでなくては生きる価値を感じないんだから仕方ない。
 これだけの大望、その道のりは困難でしなければならない事は山ほどあるだろう。


 ただまぁ、今日はこれ書いて満足したのでこれで終わり(酷いオチ

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