【 桜の香りと、君の足音 】 (短編小説/超短編小説)


隔離された一室で、君の肌を想ふ

おもむろに想う。

急に、いきなり

君の肌を想う。


なんの前触れもなく、何の突拍子もなく

君のことを、想う。


桜の花びら、舞う季節だと思い出す。
桜の香りは、どんなだったか。
そもそも、感じたことはあったか。

木の割れるような音と共に
君の足音は僕に近づいた。

君が死神であることを、 僕は早々に気がついていた。
それでも、 恋をしていたんだ。 恋をした。

僕の負けだ。


「 勝ち負けなんて、らしくないわね。」

また君は僕に知った口をきく。

また一度、
パキッと木の割れるような音が響く。

もう一歩、
君が僕に歩み寄る足音も聞こえる。


その音を何度でも聴かせてはくれないか。

僕はその音で、なにかメロディーを奏でられそうな気がしているんだ。


君の白い指が、僕の口元に触れる。
死なんて今更、怖くない。


お願いだ。


もう一度あの音を聴かせてはくれないか。



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