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【自作、短編】オムライス

目が覚めた。

いつもより硬い枕で寝ていたせいか少し首が痛い。

どんな夢を見ていたんだろう。
1人の一生を体験するような長い夢を見ていたような気もするし、
ビルから落ちるだけの短い夢だったような気もする……

ぼんやりとしていた頭は徐々にフライパンの上で音を立てて焼ける黄色い卵の映像に支配されていく。

そうだ、僕はオムライスが食べたかったんだ。
彼女が帰ってきたら作ると言っていたのにまだ帰ってこない。

大学で出会った彼女とはつい数ヶ月前に狭いワンルームマンションを借りて同棲を始めた。

たまにケンカもするけどまだ学生気分が抜けずお互いにふざけあって毎日が楽しい。


それにしても帰りが遅いな。

「冷蔵庫に卵あったかな」



待てなくなった僕は自分で作ることにした。
電気をつけるリモコンが見つからなかったがまあいい。
ベッドから脚を下ろした時に何かを踏んだ。
少し弾力のあるものが足の下で潰れた。

何かがへばりついたような気がしたが僕はさほど気にせずカーペットに擦り付けて冷蔵庫に向かう。

「よかった、3つ卵があった。これならアイツの分も作れるかな」

僕はそのうち帰ってくるであろう彼女の分も作ることにした。



僕は冷蔵庫に無造作に放り込まれていた肉の塊を包丁で切ることにした。
しかし包丁がひどく汚れていた。
水で流しても落ちなかったけれど諦めた。

なんだか今日は深く考えると頭が痛くなる。


包丁を洗っているときに気がついたが、腕に尖ったものでひっかいたような傷があった。
しかし不思議と痛みは感じなかった。


肉の塊はひどく固くなかなか切れなかった。
ゴリゴリと半ば強引に叩き切ったが骨が入っていたようだ。

どこで買った肉かは忘れたが、いつか文句を言ってやろうと思った。

冷蔵庫にあった食材を適当に集めチキンライスを作った。

待ちに待った卵を焼く時だ。

ぼんやりと溶き卵が焼けるのを見ていた。

何か忘れてる気がしても頭をかきむしるくらいイライラしていても

卵を焼いていると落ち着く。

あー、僕は本当にオムライスが好きなんだな。


出来上がった二人分のオムライスを小さなコタツに運んで僕は真っ暗な部屋でアイツの帰りを待つことにした。


……

東京某所で殺人事件が起きた。
被害者の女性は以前から警察にストーカーについて相談をしていたようだ。
彼女が帰ってこないと交番までやってきた男性は服が真っ赤になるほどの返り血を浴びており手に包丁を持っていたためその場に取り押さえられた。
男が話すアパートにたどり着いた警察は頭と胴体だけになった女性の遺体を発見した。


(終)

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