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おじいちゃんが亡くなって


酷暑の合間の酷く涼しい日、おじいちゃんが亡くなった。

父方のおじいちゃんは東京で一人、ヘルパーさんにお力添えいただきながら暮らしていた。
息子を連れて遊びに行くとすごく喜んでくれて、旦那とも色々な話をしてくれて。
私たちなりになんとか時間を作って会いに行っていた大好きなおじいちゃんだった。

母から訃報を聞いた時はピンとこず、なんだかよくわからず、落ち込むこともなかった。
だってこの前会いに行った時だって顔色も良くて、喋ることもはっきりしていて、部屋もすごくきれいだったから。
私は一人暮らしもしたことがないので、その整理された部屋を見るたびに立派なひとだなぁと思っていた。
ただ、91歳と高齢だったため、いつまでも元気でいてくれそうだなという思いと、いつ亡くなってもおかしくはないなという思いが常にあり、実際自分がかなりのショックを受けているということは、毎日の睡眠不足と酒量をもって思い知らされた。


お通夜に行くと、おじいちゃんが息子をぎゅっとした時に撮ったニコニコ顔が遺影になっていた。
家族でおじいちゃんの家に遊びに行ったときに私が撮ったもので、叔父から、『この写真がなかったらもっと古くてしかめっ面の写真を使わなきゃいけないところだったよ』と言われ、なんだか誇らしい気持ちになった。
写真に寄せてしてくれたという死化粧は自然で、どこまで理解しているのかわからない4歳児は『おじいちゃん、いっぱい遊んでくれてありがとう』と言うし、早く受け入れないと置いていかれてしまうという焦燥感に駆られた。
じっとしていられない子どもを見ながらの参列は大変だったが、行って良かったと思った。
お焼香をあげている途中に勢いよく風が吹き込んできたり、帰り道には見事な満月が浮かんでいたり、全てが何かのメッセージなような気がしてその風景を心に留めておこうと思った。

家に帰ってきて雨戸を閉めようと窓を開けたら大きな虫が入ってきた。
ついさっきあんなに死を悼んだのに、私は咄嗟に殺虫剤を掴んで追いかけまわした。
翌日再び斎場を訪れると、昨日退治したのと同じ虫が壁にくっついていて、ああやっぱりおじいちゃんだったか、昨日はごめんね、今日はやっつけませんと平謝りした。
この日のお坊さんはなんともお坊さんらしいお坊さんで、告別式が始まる寸前まで母方のおじいちゃんに健康体操のアドバイスをしてくれた。
昨日と同じ場所、昨日も聞いたお経、昨日と同じ動きに息子は早々に飽きてしまい、全く落ち着きがなくなってしまい、なんとか席に座っていてもらうことに必死だった。

お経の読み上げが終わり、参列者でおじいちゃんを囲んだ。
棺に生花とあんドーナツ(甘いものが好きだったかららしい)を入れた。
心を穏やかに、お別れまでのひと時をお過ごしくださいとアナウンスされたが、この時も私は必死で僕がやる!とはしゃいで花を撒く子どもを押さえていた。
母方のおばあちゃんが『おじいちゃん、幸せね、よかったね』と言葉にしてくれていたおかげで自分の気持ちが迷わずに済んだ。
プランナーさんから触れても大丈夫ですよとの声があり、父と叔父、母が順におじいちゃんを撫でた。
叔父が『冷たい』と声を漏らした。
理解はしているが、そうか本当に、と思った。
私も触りたいと思いながらもなかなか足が出ずにいると、お孫さんも是非と促してくれて助かった。
弟が忙しくて来られなくてごめんねと言った。
特に何を言おうか考えてなかったので、一番気になっていたことが口をついて出た。

火葬場に案内され、最後の最後にやっと自分の気持ちを伝えられた。
おじいちゃんの元気さにみんなであまえていてごめんなさい。
大好きだよ。ありがとう。
係りの人たちが鉄の扉の中に棺を押し込むと、息子が『これなに?エレベーター?』と言った。
あながち間違ってないなと思った。
火葬が終わるまでみんなでお菓子を食べながら待った。
極端に悲しんでいる人もなかったが、決して盛り上がることもなく色んな話をしながら待った。

プランナーさんからの案内があり、火葬場に戻るとおじいちゃんはすっかり骨になっていた。
ここでもおばあちゃんが『真っ白できれいな骨だ』と言ってくれたので、そうか、そういうものなのかと思い一々ありがたかった。
骨上げは一人ずつ、浄土真宗ではそうらしい。
幼い頃ひいおばあちゃんのお葬式に行って以来、ありがたいことにみんな健康に暮らしてきたので、親しい身内の骨を拾うことは初めてのことだった。
温もりも冷たさもないなと思ってまた泣けた。
足たった10人で順番に骨を拾ったあと、係の人がこれはどこの骨で〜と説明してくれたが、よく覚えていない。
見るからに強力そうな磁石で棺に使われていた釘を拾っていたのがかっこよかった。
喉仏の説明と足の骨から壺に入れるということは、素直にへぇ!と思ったが、その後は彼が次々と骨をしまっていく手つきの鮮やかさに見惚れてしまった。

そんなこんなあって先日、おじいちゃんが40年育てていた亀が我が家にやってきた。

甲羅干しをする凛々しい姿


旦那に、亀が残されて…という話をするとじゃあうちでと率先して動いてくれたので本当に感謝している。
知らない場所で色んな声のする中ストレスもあるだろうに、よく食べよく動く頭のいい亀。
これからも元気でいてほしいなと思う。




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