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午前四時の憂鬱

自販機横に設置されたゴミ箱にねじ込められたコカ・コーラのペットボトル。ネズミ色の箱の中には沢山の塵がある。先日トイレに吐瀉物を垂れ流す前の自分と重なる。舗道の隅にあった赤くぼやける明かりは数時間前に落ちた太陽に似ている。

 机に座り、棚からレコードを引っこ抜いて針を落とした。部屋を這うように音が広がり、その中に立っていたら一日が終わっていた。目の前に紙とペンがある。なにか書いてみようと思ってペンを持ち、紙にインクを落とした。点を打ち込んで、その黒点が滲んで終わった。紙の中央。
書くことがない。訳ではないように思う。けれどそれを書いてとして誰が読むのだろう。そんな風に思った。そうしたら書く意味がなくなって、ペン転がした。暫くするとコツンと音がした。右足の親指になにかが当たった。確認するまでもないことだったので、黒点を一度覗いて白紙を両の手で丸めた。出来の悪い雪だるまの片割れができた。僕はもう一度それを開いて、くしゃくしゃになったことを確認した。そしてまた、なんとなく丸めてゴミ箱に投げた。
 水を一杯飲んだ。月は出ていて、二年前月と金平糖という題で小説のようなものを書いたことを思い出した。あの頃はまだ学生で友人もいた。確か受験生だった気がする。毎日学校の近くにある公共施設で勉強をしていた。目の前を市の職員が行き交う、今思えばあまりいい環境ではなかったように思う。けれども僕らは塾に行く金もなかった。だからその場所が唯一の勉強スペースでたった。僕はそこである友人と夏から冬に掛けて勉強した。二月になり、彼は合格して僕は落ちた。それからは僕が一人で勉強して、たまに彼が横に座ってゲームをした。そんな風に一ヶ月が過ぎて三月の後期試験に望んだ。僕はまた落ちた。
 それから高校を卒業して、その一ヶ月後に一度彼に会っただけでそれ以降は会っていない。というか誰にも会っていない。連絡もその年の冬から取らなくなった。

 月と金平糖は個人的に気に入っている。
でも今読み返すと太宰の女学生の影響が強すぎて臭すぎる。

月はぼんやりと見るのは何故だか心地がいい。眠れない夜に布団のなか発狂しそうな時、窓の方を見るとこちらを穏やかな表情で空に浮かんでいるやつと目が合う。そんな時、少しだけ安心するのだ。それから夜が深くなったときに街の奥の方で鳴っては近づいてくる新聞配達のバイクの音にも安心を覚える。きっと誰が見てくれている。

立って月を見ている。もう少しで雲に隠れる。風が強く吹くことを祈るが、今日は庭に咲く花すら揺れない。誰かに電話してみようかなと思う。やっぱり電話はきついから別の方法でとも思う。でも誰に連絡したらいいんだろう。
部屋の真ん中に月の溜まり場ができていた。
カーテンが少し揺れたからだ。だから二度瞬きしたら消えた。なんだか少し疲れてきた。

 時刻は丑三つ時。夏のことをひとつ思い出した。夢を見た。夢の中が現実のようだった。
僕は青く透明な空の下を歩いて家に帰る途中だった。裸足だった。後ろを振り替えると靴が落ちていた。見知らぬ靴だった。その近くを猫が通った。色は灰色だった。家について部屋にはいった。蝉の声で目の前が揺れた。クリーム色のカーテンがゆらゆら揺れて、その下から熱風が僕の肌にあたって溶けた。すこし立ち眩んで、天井から丸太が生えてきた。僕はなんだろうと近づいてみ手触ってみるとパラパラと木片が床に落ちて消えた。ザラサラとした手触りの丸太を撫でていくと次第に掌が滑るようになっていった。僕は丸太全身を撫でるために椅子にのっておこなった。
 一心不乱に行うと全身がつるつるになった。僕は身体中に満足感を覚えて、水を飲もうとした。僕は物事の区切り目として水を飲むのだ。
 日差しが部屋に入る。蝉が鳴く。夏風が吹いて頬に当たった。そこで汗が冷えた。汗を脱ぐって丸太を見た。
天井から女がぶら下がっていた。その下には拳銃があった。なんだかその光景が当然のことのように思えた。丸太を磨いて人間になって、そのためにそぎおとした部分が拳銃になった。
僕は近寄って拳銃をこめかみに当てて撃ち抜いた。女の顔に見覚えはなかった。

僕はベットに潜り込んだ。月はもう見えない。孤独や不安が身を縛り付けていく。
朝?夜?昼?どんな時間だって死にたくなる。
今何歳でしたっけ?21です。
なにしてるのー?応答なし。
ごめんなさい。 ……
        ……
疲れた。考えることが。高校を卒業してからもう考えないことにした。そしたら物凄く考えないといけないことが増えた。そうすると考えず生きてきたから、その大事なことを考える脳みそがなかった。 
爆発した。すみませんでした。

死にたくなってきた。もう誰とも話したくない。中途半端な関係、それが辛い。いっそ全部切れて独りでいい。貴方は独りです。と烙印が押されたら、決定事項として揺るぎない確信の下平穏な心で生活できるというのに。

枕を敷いて頭をねじ込ませる。
 午前四時、眠れない。
眠らなければならない。起きなければならないからだ。何時だろうと朝は眠い。

毎日マックポテト食べたいです