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期待の合コンに舞い上がったアラサー、井浦新似イケメンを誤爆して地獄を味わう

当時3〇歳で独身、彼氏なしだった私は、日々行きつけのバーで逆ナンを仕掛けて営業活動をする傍ら、会社の同僚や高校時代の友人にも営業先を広げて出逢いの場を求めていた。

救世主はすぐ近くに? チャンスをものにせよ!

ある日、会社で一番仲の良い男子と居酒屋で飲みながら雑談していた。その男子とはこの日のように仕事終わりによく飲みに行くし、プライベートトークもする間柄だった。彼は私の唯一まともな異性の友人といえる貴重な人物で、これまでの私の合コン経験(主に自爆)も面白おかしく話していた。

私のダメ女っぷりをよく知っていたので、そんな私とまさか合コンをしようと言ってくれるとは思ってもいなかったのだが……その日の話の流れで、共同幹事で合コンをしてみよう!という話になった。

彼は歌手の忌野清志郎に似たアラサー男子だ。この清志郎、一部上場企業の正社員として真面目に働いており、酒は飲めるがギャンブルも女遊びもしない、タバコも吸わない。私のような飲んだくれ30女とも仲良くしてくれている、とても心の広い男子だ。

し・か・も

清志郎が集める男子メンバーも、皆職業が安定した同年代とのこと。

その内訳は、
①メーカー勤務の爽やかメガネ男子
②最近彼女と別れたイケメン公務員
③清志郎
の3人。

男が言う「イケメン」が本当かどうかはさておき、清志郎も含めた手堅いラインアップは、私たち30代やさぐれ女子にはもったいなさすぎる面子だ。

灯台下暗しとはこのことか。

突然降ってわいたチャンスに、期待に胸を膨らませた。

ロマンスの神様 この人でしょうか


合コン当日。

私は「残業しません、今日だけは」をスローガンに、心を鬼にして仕事の手を抜いた。ほかの同僚や上司にもあらかじめ「今日は合コンなので残業はしません」と強引に宣言し、面倒そうな他部署問い合わせにはあえて終業間際に返信した。

そういったことが許されるキャラで本当によかったと思う。同僚も上司も苦笑いで協力してくれたおかげで、その日中に完了しなければいけないタスクだけに集中して業務を終えた。

一方の清志郎といえば、真面目で責任感の強い性格が災いし、いつも通りに面倒な対応に追われて残業を余儀なくされていた。

終業時間を迎え、私は仕方なくひとりで先に店に行くことになった。一応、私と清志郎が幹事なのでどちらかひとりは時間通りに店についているべきだと判断したのだが……

この判断が、後に悲しい結末を生むことになるとは夢にも思わなかった。

参加者たちには現地集合と連絡してあった。皆ほぼ時間通りに到着すると連絡が来ており、遅刻は清志郎ただひとりだ。

私が店に入ると集合時間より少し早かった。案内された席に目をやると、男子がひとり、ぽつんと座っていた。

本日のラインアップを復唱する。

①メーカー勤務の爽やかメガネ男子
②最近彼女と別れたイケメン公務員
③清志郎

目の前にいるのは、細身の長身、メガネで色白の男性だ。①メーカー勤務の爽やかメガネ男子だろうか?華やかさはないが清潔感のある、井浦新に似た好青年だ

私は舞い上がり、「ロマンスの神様」のイントロが脳内で鳴り響いた。

一呼吸置き、ターゲットを不気味にロックオンした目線を解除して、笑顔で「こんばんは」と井浦新に声をかけた。

新は私と目が合うと、ニッコリと爽やかに笑いかけてくれた。


きゅん。

好きだ。

クシャッとした笑顔に私は瞬殺された。そして、なんてメガネが似合うんだろう。彼が①メーカー勤務の爽やかメガネ男子で間違いないだろう。私は一瞬で恋に落ちた。

残業を一切拒否して本当によかった。ファーストコンタクトでいい印象を残せれば一歩リードかもしれない。

私は新の対面の席に陣取り、軽快に話しかけた。

私「お待たせしちゃってすみません」
新「いえいえ、今来たところなんで!」
私「迷いませんでした? 私会社がこの近くなのに、いまだに駅の反対側だと迷子になっちゃうんですぅ」
新「僕はこの辺初めてで、飲み屋さんがたくさんあって楽しいところですね」
私「お酒好きですか? ぜひぜひいつでも飲みに来てください!」

私は自己紹介もしないまま、前のめり気味にトークを繰り広げようとした。

「あなたのどこがイケメンなんですか?」


ちょうどそこで、清志郎以外の男性陣と女性陣が到着しはじめた。

私は女子たちに手を振り招き入れながら、なんとかもう一声、新とお近づきになれないかと焦った。

そして、言った。

「私〇〇(清志郎)さんの同僚のスズキです。(そちらは)△△(メーカー名)に勤務されてるんですよね? 私最近そこのアイマッサージャー買ってめちゃくちゃ良くて……」

新は笑顔を少し歪めて訝しげな顔をした。

「え? 僕違います。〇〇(清志郎)の紹介で来たんですが」

新は戸惑い、両手をぶんぶん振った。

なんと、てっきり①メーカー勤務の爽やかメガネ男子だと早とちりしたが違ったようだ。

となると、②最近彼女と別れたイケメン公務員の方か? 紛らわしいじゃないか! なんで②がメガネかけて来るんだよ! 合コンでキャラ被り禁止だろ!

私は焦った。そして、とんでもないことを口走ってしまった。

「あ、そうだったんですね!すみません。〇〇(清志郎)さんのお友達が2人いらっしゃると聞いていて、△△(メーカー)勤務の方と、もうひとりイケメンの公務員と伺っていたもので……」

……

新は真顔で押し黙った。

もう一度本日のラインアップを整理しよう。

①メーカー勤務の爽やかメガネ男子
②最近彼女と別れたイケメン公務員
③清志郎

私はメガネに注目するあまり、目の前の新を勝手に①メーカー勤務の爽やかメガネ男であると決めつけて話をしたわけだ。

そして勘違いしていたことが発覚するや、まったく言う必要のない「イケメン公務員と伺ってましたので」と言ってしまった。

つまり、出会って数十秒の、最近彼女と別れたばかりだという人の好さそうな男性に、「あんたのどこがイケメンなわけ?(要約)」と無神経に言い放ったということだ。

他のメンバーがぞろぞろと楽しそうに着席する中、私と新は別れ話のピークを迎えたカップルのような顔で凍りついていた。

私は、取り返しのつかないことをしてしまったとわかっていながらも、何とか弁解とフォローを試みた。

「あ、あの、メガネがあまりにも素敵だったので……。ところで、井浦新に似てるって言われませんか? 私の世代って『ピンポン!』のARATAが大好きで、地味なんだけどよく見たらイケメンっていうギャップに弱いというか……イケメンって定義難しいですね、ハハ」

などとまったくフォローになってないフォローを捲し立て、「地味」というネガティブワードまで繰り出して無礼のおかわりをした。

その時、本物の①メーカー勤務の爽やかメガネ男子が、②最近彼女と別れたイケメン公務員こと、新の隣に座ったが、2人を並べるとどう見ても②の新がイケメンだった。

そのあとはもう地獄だった。


新は私に最初に挨拶した時の笑顔を一切封印してしまい、始終暗い表情で心を閉ざしていた。

諸悪の根源である私はそんな新の対面で後悔の2文字に押し潰されそうになっていた。責任を感じるあまり場を盛り上げようと、盛大に空回った。

公務員と清志郎は「この女なんでこんなに張り切ってるんだ?」と冷めた視線を、女子たちは、イケメンの目の前で痛々しく振る舞う私に同情的な視線を、それぞれ私に送ってきた。

どうにも盛り上がらない合コンの1次会が幕を閉じ、誰も2次会に行こうと言い出さないままお開きになった。

後日。

幹事の清志郎と私で、(当然ながら)誰もくっつくことがなく不毛に終わったこの飲み会の反省会を行うことになった。

清志郎は大真面目に、「あまり喋れなかった」「人数が多すぎて会話グループが分断したのが失敗だった」など、主催者としての反省項目を挙げていたので、私は申し訳なく思った。

そして意を決して、清志郎が来る前に起こった悲劇を全て打ち明けた。

すべてを知った清志郎は、普段の温厚さが嘘のように激昂し「仕事も私生活も、何でそんなにおっちょこちょいなんだよ!!」と、私という人間の欠点を正確に指摘した。

う、、、私が言われて一番堪えるやつ。

私の唯一の男友達である清志郎と私の間には小さな亀裂が入った。だがしかし、清志郎は言ったじゃないか。

今日と明日と明後日のことぐらいを考えていればいいんだよ。

忌野清志郎 (ロックミュージシャン)

明日からまたがんばろう。