悪戯な風が吹く

昨夜遅くに都内を出発したバスは、朝になるといつのまにか、のどかな風景の中を走っていた。

高校時代は、友達とよくこの道を自転車で走っていた。
この道をまっすぐ進むと、坂の上に通っていた高校がある。
その坂道は、桜並木がとても綺麗で、満開に咲く景色が大好きだった。

バスが停留所に停まると、大きく息を吸い込んだ。
前には、高校へ向かう生徒たちが歩いていた。

暖かな優しい風が、あの頃の記憶を呼び戻す。
歩みを進めると、満開の桜並木が視界に入ってきた。
一歩一歩進むたびに、まるで過去にタイムトリップしている気分にさせられる。
風に揺られて舞い落ちる桜の花びらが、まるで雪のように見えた。

「美咲」

不意に名前を呼ばれて、トクンと鼓動が高鳴る。
そこには、あの頃のように自転車に乗る祐司の姿があった。
そんな私たちに、悪戯な風が吹く。
桜の花びらが私の髪の毛に落ちるのと同時に、祐司の手がその花びらを追いかけて私の髪の毛に触れた。

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。