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果たして政治的対立は解決するのか

前々回の記事↓でPedro Sánchezの首相任命決議に関する討論の模様をお伝えしましたが、今回はその続き。

今回は少数政党のスピーチと答弁をメインにお話していこうと思います。現在議席を獲得している政党は、カタルーニャ独立派のERC (Esquerra Republicana de Catalunya カタルーニャ共和主義左翼 7議席)とJunts (Junts Per Catalunya カタルーニャのための連合 7議席)、バスク独立派のEH Bildu(6議席)、バスク穏健派のPNV (Partido Nacionalista Vasco バスク民族主義党 6議席)、少数連合のBNG (Bloque Nacionalista Galego ガリシア民族主義ブロック 1議席)、CC (Coalición Canaria カナリア連合 1議席)、UPV (Unión del Pueblo Navarro ナバーラ住民連合 1議席)、となっています。

それぞれ30分、少数連合の政党は10分ずつの持ち時間でスピーチが行われました。独立派をはじめとする民族主義の強い政党は、各々の言語を織り交ぜながらのスピーチでなかなか興味深いものがありました。

カタルーニャ独立派左派のERCは、前半スペイン語、後半カタルーニャ語でスピーチ。右派サイドに対しては、「右派を支持する大多数の人々にとって、恩赦の問題はどうでもよく、単に右派が政権を握ってほしいと思っているだけだ」「ファシストを通りに連れ出し、テレビで嘘を垂れ流している」と指摘、「民主主義は寛容度の度合いで測られる」と強調していました。ただ、左派サイドに対しても「PSOEは私たち(カタルーニャ)を騙すかもしれない」と警戒の様子。基本的には、あくまでも独立主義の姿勢を貫くスピーチとなっていました。

カタルーニャ独立急進派のJuntsは、終始カタルーニャ語で政治的対立の解決に焦点を絞ったスピーチを展開。首相任命には支持を示しつつも、「(左派が政権を握っていた)この4年間、何度も騙されてきた」と不快感を示し、「カタルーニャの問題を無視しないでほしい」と訴え、「私たち(カタルーニャ)は一つの国家だ」と強調していました。

バスク独立派左派のEH Bilduは、スペイン語とバスク語を織り交ぜたスピーチで(途中で急にバスク語に変わり、またスペイン語に戻り、というのが繰り返され、ちょっと聞きづらい感じ)、右派PPに対し、「あなた方は穏健派ではなくファシズムに向かっている」「ネオ・フランコ主義だ」と強く批判し、極右への流れに歯止めをかけるべきと主張。また、「(PPも)多くのフランコ主義者を恩赦してきた」と指摘し、今回の恩赦法は「イギリス(United Kingdom) のような複数国家への新しい道を切り開く機会」への社会的前進であり、複数国家の尊重・共存は可能であると主張していました。

(ちなみに、EH Bilduはテロ組織ETA (バスク祖国と自由)と歴史的に深い繋がりがあったことから、右派サイドから毎回テロリスト扱いされ続けているのですが、強い批判をしつつも、彼女(代表者)の演説は常に冷静且つまとも、というのが私の個人的印象です。)

バスク穏健派のPNVもEH Bildu同様、スペイン語・バスク語ミックスバージョンでのスピーチ。右派と左派の政治的対立は複雑且つ解決が難しいとしつつも、連日のPSOE本部前の過激なデモに対しては「反ヨーロッパ主義」であり、その過激な行為に対して「PPは制止をすることもなかった」と指摘。また、「恩赦は憲法に合致している」「恩赦への反対は首相任命の阻止と選挙のやり直しをするための言い訳である」とし、「あなた方のトラクターは(極右の)VOXのガソリンのせいでエンジンが燃え尽きてしまった」という比喩表現で右派PPを批判していました。

続いて、少数連合からガリシア民族主義左派のBNGが登壇、終始ガリシア語でスピーチが行われました。右派PP党首のAlberto Núñez Feijóoのお膝元であるガリシアはここ10年以上PPが自治州の政権を担っているのですが、「PPの政策は全く役に立っていない」と強く批判していました。

次にカナリア連合CCは、右派と左派の対立にうんざりの様子で、「問題の解決には右も左もない」とし、特に2大政党PPとPSOEに対しては「両者とも落ち着いてほしい」と両者を批判。また、CCは前回のFeijóoの首相任命時において賛成票を投じていたのですが、恩赦法には反対の姿勢を示しつつも、経済・社会問題、特に移民問題を抱えるカナリアの利益を考慮した上で、今回のPedro Sánchezの首相任命には賛成票を投じるとのことでした。

最後に登場したのが、ナバーラの保守政党UPN。こちらは序盤からものすごい勢いで左派を批判。「票集めのための独立主義者たちの脅迫を止めなくてはならない」「恩赦法は非合法で違憲である」と続け、バスク独立派のEH Bilduを強く攻撃する発言も(UPNは反バスク独立主義)。仕舞いには「この政府は進歩主義という言葉を多用するが、進歩主義という言葉を売っている(乱用している *)だけだ」と言ってしまう始末。ちょうどこのフレーズを言った時に時間切れのアナウンスがあり、その後も話し続けるもマイクを切られて終了しました。

*「売っている(乱用している)」と訳したのですが、この時「prostituir」という言葉を使っていました。これはスペイン語で「売春する」の意味で、その他「金のために売る、悪用する」と転じて使うこともあるようですが、この表現は強烈だな、と個人的には感じました(実際一瞬どよめきもありました)。なので、時間切れのアナウンスは本当に時間切れだったのかな?と思ったのですが、偶然なのか本当に時間切れだったみたいです。ちなみにこの発言に対して右派からは拍手が起こっていましたよ!

議決答弁の締めは、PSOEのスポークスパーソンであるPatxi Lópezによるスピーチ。こちらはPedro Sánchezと同じ党なので応援演説ですね。「Pedro Sánchezは憲法を破壊する独裁者だ」「社会主義者は国を売る裏切り者だ」「クーデターだ」といった、これまでの批判的な右派サイドの発言を大きく跳ね返すべく、感情豊かに熱弁を奮っていました(若干煽り気味?な雰囲気もありましたが)。「民主主義は投票の結果にある」とし、「その結果が気に入らなければ勝つまで選挙を繰り返すのか?」「(右派にとっては)恩赦が問題なのではなく、政権を握ることができない結果が出たことが問題なのだ」と猛反論。また、「批判ばかりで政策に対する代替案に関して何も言及していない」とし、数々の政策案を列挙しながら、「私たちにはこれだけの政策案がある、まだ欲しいですか?」と強く語っていました。

そんなこんなで、いよいよ首相任命決議。賛成179、反対171、棄権なしで、Pedro Sánchezの首相任命が可決されたのでした。ちなみに、この投票のやり方が面白くて、名簿順に議員の名前が呼ばれ、名前が呼ばれたら起立して「Sí(はい=賛成)」か「No(いいえ=反対)」を全員の面前で言う、というなかなか潔いシステム。あと、もちろん事前に結果はわかっていたとはいえ、最後の最後まで五分五分だった票が名簿リストの最後に載っていた左派政権側の閣僚たちが「Sí」と立て続けに言うことで、オセロの逆転勝ちみたいになっていくところも個人的に面白かったです。

それにしても、長丁場の議決討論。一旦決着はついたものの、左派と右派の対立はより浮き彫りになった形で終了したと言えるでしょう。ちなみに、ここではPedro Sánchezの答弁の内容は書きませんでしたが、この長時間の間、全ての代表者に対して答弁をしていたわけで、集中力・対応力の戦いだったと思います。さらに、これはいずれの代表者にも言えることですが、ペーパーが用意されていてもきちんと前を向きながら、自分の言葉で感情を乗せて話しており、どこかの国の政治家たちとは違うよね?と思った次第。

あと一つ言及したいのが、賛成を支持したほぼ全ての政党の代表が、スピーチのはじめにパレスティナ問題に言及し、即時停戦を訴えていたこと。ちなみに反対派の右派サイドからはパレスティナ問題に関する言及は全くありませんでした。この問題に関しても左派右派の立場の違いがはっきりしたと言えるのかもしれません。


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