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ツラツラ小説。 下火。

ツラツラ小説。 下火。


昔、自転車で転んだとき、置いて行かれた。傷口に砂が入るくらい大きな傷。痛い、足を引きずるくらい。みんなはまだ気づいていない。きっと気づかない。転んだら終わりだ。それからは転べないって思った。転ばなかったのに、僕は何者にもなれていない。身体と年齢だけが大きくなった日。僕は下火になった。

 間違いなく明確なあの日がある。
あの日を境に、ピークが過ぎた。波とか風とかそんなものに乗っていたはずなのに、涙に変わり風邪を引いた。それまでの生活で当たり前の外に出ることが変わった。自分の中の世界が最も良いものだと思いそれ以外を、全て否定する時間が始まった。

 それからというもの、幸せを否定するようになった。今をときめいている人たちを妬み、ドロドロした憎悪にまみれたサイトを家としてその安全地帯の家から叩いて貶して燃やして。
人気者や、希望を持って生きている人たちが落ちぶれていく様を見るのが何よりも楽しかった。そこに自分なんていないと思っていた。いや、到底自分が張り合えない相手とも、戦い方次第でこんな風に対等に戦えているのがなんだかすごく幸福だった。昼間のバイトを耐えて夜はひたすらその活動に打ち込んだ。僕の遅い青春だろうか。これは僕の青春だ。青春だ。

 ふと、青春を考えた。青い春。
青い服は似合わないし、春は希望的な顔をしている人が多くて嫌いだ。冬が終わった春。元気にならなければいけない春。なんて思って下を向いて歩いてて転んだ。新卒の人であろう好青年が「大丈夫ですか?」と声をかけ、僕に手を伸ばす。

(あーこいつもその純粋さをいつか失い、社会の波に飲まれ、貶され馬鹿にされ、いつしか性格が歪み、人の悪口でしか盛り上がることのできない人物になるのだろう)

と思いながら、自力で立ちあがろうとする。僕が立ち上がると、その青年は背中についた泥を振り落とし、落としたカバンを拾ってくれた。「お互い頑張りましょう」と言った。勘違いしているのか、それとも同じ立場なのかわからない。でも、なんだかこんなに善意を100%向けてくれたのにそれをおざなりにするのもなんだか悪いなと思い、その場を立ち去った。

 目的地に着き、話をする。
「将来、どんな人間になりたいですか?」って担当者に聞かれた。特に目標もなく、これからのビジョンも特にない。だけど、

「すごい曖昧なんですけど、困ってたら助けられる人になりたいです。」

誰が困ってるのかとか主語がないなぁとか言ってから思ったけど、担当者はおそらく僕の表情も加味して「うんうん。」と深く頷いてくれた。

 手ごたえなんてものはないし、実感もない。次はもう呼ばれないかもしれない。下火だ。僕は下火だ。でも、まだ火はついている……。

 目の前で人がつまづいた。

「あ、、えーと、大丈夫…ですか?」

僕は、自分の世界から少しずつ、
手を伸ばしている。

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