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10分小説。 少し苦い。

思えば街に出たのは久しぶりだった。この頃、慢性的な鼻炎と、言葉にすることが難しい憂鬱がずっと私を苦しめていた。それが、ようやくある友達からの遊びの誘いで少し晴れた。そのことを思い出しながら、公園で友達を待っていた。実際言うと、君は必ず遅刻する。だから、この時間はきっと、無駄な時間になる。客観的に見れば何故そのような行動を取るのだろうと思うだろうが、街に出たのが久しぶりだったからだ。人間の行動力というのは不思議なもので、ちょっとしたきっかけがあれば、自分の想像した以上の力が出てくると思っている。現に今、私は鼻の違和感も憂鬱も忘れている。こうして思い出す作業をしなければ忘れたままでいられるだろう。だから、きっと今は少なからず幸福なんだって思う。暗くなるのが早くなってきて、もうすぐ雪も降ってくるだろう。今年が終わる。来年が始まる。そうなると私は、いやこの世界の人たちが1つ歳をとる。そうしていつか、この世界から消える。消えることで、終わる。文章にすると壮大に感じるが流れる時間は見えず感じず、ただ流れていってしまう。きっと今日の幸福もそのうち消え去り、またいつかそれを思い出した時、少しくらいは幸福だと思うのだろう。その日を思って、普段あまり飲まないブラックコーヒーを飲む。

「少し苦い。」

君が遅れてやってきた。僕は今日、とても幸福です。

おわり。

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