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ツラツラ小説。 夢の名残。

ツラツラ小説。 夢の名残。



 目を覚ましたら、ナマズになっていた。200ベルで売られるそいつは、捕まえたらリリースされるような持ち物の枠だけ取ってしまうような、そんな扱いだ。人生に不遇を嘆くことは慣れている。涙はもう枯れているのだから、つらくもない。強がっているわけではないが、それなりに幸せを味わい続けると、起伏がなくなる。終わりかけの心電図のように、もう期待されなくなった過去の栄光にすがってるだけの貧乏神には人は寄りつかないのだ。

 その匂いはだだっ広い北海道の少しの人しか知らないはずなのに、まるで自分の不遇が全人類知っているのではないかと思いながら街中を歩いている。肩を細めて自分なんかいないように存在しながら歩いている。ぶつかりそうになってもぶつからなくてもすみませんすみませんって謝りながら歩いていると、旧Twitterに僕の動画と写真が上がっていた。どうやらこの世界では遠慮していようといまいと、ネットタトゥーが残ってしまうらしい。だからもう温泉にも行けないのかな。生きていると、無性に全てを諦めたくなる時がある。あるだろう?

 ないならばまた世界と世間を知らないだけだ。夢を見てしまった後、後先には、これまで抱いていた希望と理想の頭打ちを見る。底なし沼もいずれ底があり、マリアナ海溝にもいずれ終わりがあるように、未踏の地にも終わりがある事実を僕は知っている。永遠なんて存在しないのだ。少なくとも僕が認識できる範囲内では。

 意識がいずれどこかへ死によって運ばれるのは知っているここにいてこの景色を見てる僕はいずれ何かどこか遠くから、例えば雲の上とか、地球の内側とか、宇宙の外れとかから見えることもあるのだろう。いつかは終わる怖さはどうしても、何度、文字に書き起こしても消えない。死は救いなのかもしれないがそこに向かうまで一回も苦しまなかった人を見たことがないからだ。だから。

 夢を見ていた。僕は永遠というものに触れて、永遠と仲良くなる夢。永遠はずっとそこにいて、ずっと話を聞いてくれて、つらい時はそばにいてくれて、寝る前にはキスもしてくれる。何度、日が巡ってもそこにいてくれて、思い通りになる毎日。けれど、途中で夢って気づいてから、涙が止まらなくて、永遠は慰めてくれるんだけど、所詮は夢だからその優しさを拒絶して、僕は永遠の手を振り払って、遠くへ行って、永遠はずっと果てまで追いかけてくれるから。それを分かってたから。
 僕は永遠を見つめて、永遠にキスした後、永遠を海に突き落として。死んだ永遠はずっと僕を見ていた。

 そんな夢からもうすぐ覚める。
僕は次はせめておおナマズになって、3000ベルで売ってもらえる、誰かに必要とされる枠になれたら良いなって思いながら夢から覚めようと思ってるんだ。



終わり。

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