ぞわっ
息子が幼い頃、古いアパートに住んでいた。
そのアパートは日当たりが悪く、昼間でも薄暗くジメジメしていた。
住みはじめて暫くした頃、奇妙な事が起こる。触ってもいないのにカルガモのおもちゃが勝手に鳴りはじめたり、料理中に人が横切る気配がしたので、夫だと思い声をかけようと横を見たら誰もいない。夫はリビングでテレビを見ていた。他にも悪夢を見たりなど。
そのアパートに住んでた頃の息子は、カタコトの日本語がしゃべれる程度で、「ママ」「パパ」「じっちゃん」などなど、単語が多かった。
いつからか、息子が誰もいないところを指さし、「じっちゃん」と言いはじめた。
当時、息子の「じっちゃん」はどっちも生きていた。
はじめは気にしていなかったが、たびたび言うので、少し気にはなっていた。
ある日、息子がカウンターキッチンのほうを指さし、「じっちゃん」と。
私は「じっちゃんいるの?じゃあ、じっちゃんにイイコイイコしてきて」と言った。
息子はキッチンに行き、「じっちゃん」がいるであろう所で立ち止まり、背伸びをして何もない空間にイイコイイコした。
終えた後、小走りで私の元まできた。
私は軽い気持ちで、そう、軽い気持ちで「じっちゃん、喜んでた?」と尋ねた。
「怒ってた」