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雑文 #210 京都音楽博覧会2020

11年連続で行ってた京都音楽博覧会が、今年はオンラインでの開催だった。

9月20日、19時半。私が新しい年齢を重ねた翌日の夜、電車にも飛行機にも乗らずこの12年初めて家で、東京で私はその時を待った。

何か特別なものになるような予感はしたものの、やはり現地に赴くことないワクワク感は例年より小さく、それでも少し緊張して始まりを待った。



「宿はなし」の音楽とともに本来の開催地・梅小路公園などの映像を交え、2020年の京都音楽博覧会は「岸田繁楽団」のMain Themeから始まった。岸田さん書き下ろしの曲だ。「何かこれから始まる」という前のめり感はあるものの、それほどいまの私の低めなテンションから外れることなく、地味すぎず派手すぎない音博らしいいい加減で始まっていく。

そこからいきなり「島唄」。じわりと目に涙が溜まる。だって、ああ、音博らしい。今年も音博が始まったんだなと改めて思う。岸田さんの歌声がのびやかで、心に沁み入る。

そして荒井由実の「ひこうき雲」。ハッとして、すぐ泣き崩れる。これはしょっぱなから泣かせにきたんじゃないの。Homecomingsの畳野彩加さんが見事に歌い上げる。この曲は女性ヴォーカルがいいよね。

次いで平賀さち枝とHomecomingsの「白い光の朝に」は幾度が聴いた曲だが、ひときわ美しかった。木管楽器が朝の訪れを告げるような音を出して、心地いい。

ライブハウス拾得の舞台も素晴らしい。観客がいないからステージだけじゃなく空間全体を広く使って舞台としているのだが、それを逆手にとってというか、飾られた提灯や、ありのままの老舗ライブハウスのレトロ感がたまらない。

ヴァイオリンの音色から「ドンじゅらりん」が始まった。ヴォーカルは岸田さんとUCARY & THE VALENTINEさん。ハーモニーが絶妙。アレンジはどれだけ広がりがあるのだろう。今回の楽団の編成で、フルートではなくクラリネットに脚光が当たっていたのが(クラリネット経験者としては)うれしかった。オーボエやファゴットも大好きだし、ホルンの活躍もうれしい。

「琥珀色の街、上海蟹の朝」は音源でもUCARY & THE VALENTINEさんが参加している曲なので、きっと演奏すると思っていたが、楽団のアレンジとラップが小気味よく、ヴォーカルふたりの表情も良くて笑顔になる。そう、私はここでは一旦涙を乾かして笑っていた…

しかしその次「ブレーメン」のイントロがきて、何気なく観ていたその時急に小山田壮平さんが歌い出したとき、私はパソコンの前で叫んでしまった。ひとり、部屋で、驚きと歓びで、泣いた。素晴らしい。本当に私も、小山田壮平も、この曲が好きなんだなと思った。力強く幸せな歌声。夢のような時間。私は数あるくるりの曲の中で「ブレーメン」が3番目に好きなのだ。とにかく音楽愛に溢れてる。小山田壮平ひとりで全部歌い上げる。楽団も伸びやかに。私は子どもみたいにえんえんと泣いていた。

そして次の曲「1984」について、岸田さんが語ってる製作風景が映し出されるが、聞いてられない(後で何度も聞いたけど)。私は素晴らしいものを観たショック状態だった。

andymoriの「1984」について岸田さんが思い入れがあることも前にラジオで聴いて知っていたし、今回絶対演奏すると思っていたけど、それでも号泣してしまった。岸田さんが、この曲が好きで、アレンジしたのがわかってしまう。サビの「ファンファーレと熱狂 赤い太陽~」の部分が3回出てくるけど、最初は小山田さんがファルセットで岸田さんがオクターヴ下、2回めは最初小山田さん一人とドラムだけで、後から岸田さんの歌声が入ってくる(この瞬間が最高だった!)、そして3回めは転調して小山田さんが力強くメインを歌い、岸田さんがファルセットで寄り添う……ほんとこの愛と奇跡を共有できる人がいたら、どんなに幸せだろう。

私が呆然としている間に、岸田さんが朗々と「サンタルチア」を歌っていた。もう私はドキドキして胸がはちきれそうで、音楽でこんなに幸せなのはずいぶん久しぶりで、贅沢にその歌を流し見した。なんかもう岸田さんは老成したイタリアのテノール歌手みたいに見えた。

そしてEnding Theme。軽やかで、ちょっとおどけたようなリズムとメロディ。昭和の香りと管弦楽団の洗練を同時に感じる。


ここから第2部。くるり。

「愉快なピーナッツ」の岸田さん愛用のテレキャスターから始まる。やっぱりいい音。私が出会って初めてリアルタイムで新曲を手にした頃のくるり。次の曲「さよならリグレット」のシングル盤はうれしくてCDを抱きしめるように何度も何度も聴いたものだ。その曲順通りに「京都の大学生」も演奏してくれる。そうそう、この曲が出た年の音博にはまだ行けるような体調じゃなかったんだ。小田和正さんの「ばらの花」を聴いて、羨ましくて、憧れて。翌年音博に飛び込んで、それからずっと行き続けてた。

野崎さんのピアノの音がきれい。そして、これまで聴いてた「京都の大学生」はホールとか音博の会場とか、広々としたところでだったけれど、この拾得の場末感(ごめんね褒めてます)の中での「京都の大学生」は「これだ!」って感じでいままでいちばんしっくりきた。岸田さんの歌声も素晴らしかった。

「Liberty & Gravity」は翌日仕事の日に聴くとマジで元気をもらえる。やる気というより、スッと足を前に出す手助けをしてくれるみたいな。私は音博配信の20日に頼んだわけでもないのに休みをもらい、今日配信が終わる27日にまた頼んでもなくもらった。他の日は出勤。音博配信は空いた時間にちょこちょこ観たが、今日はいっぱい観ることができた。くるり運には恵まれている。

そこから新曲「益荒男さん」。なんだこれ大好き。久しぶりに聴いたこんなくるりの皮肉。このおもしろさのジャンルが私にはドンピシャ。何度聴いてもまだ笑ってる。

さらに新曲「潮風のアリア」。なんなのこの振り幅。この曲はラジオの弾き語りで聴いたことがあってすごい名曲だと思ったけど、改めてすごい。ぼろぼろ涙出た。「soma」を初めて聴いたときの広がりや、「There is (always light)」の哀しみや「ソングライン」の重みを同時に感じる。足を踏みしめ風に吹かれながら生きてく感じ。歌詞がひとつひとつ、突き刺さる。あまりにも名曲なので、歌詞を書き起こしてしまった。


「虹」は去年の夏、京都磔磔まで赴いてくるりのライブを観たことを思い出す。私はオンタイムでもないこの配信、すっかりライブ気分で観ることができた。それぐらいのめり込んで。過去の記憶なんだろうか。ああこういうふうに、前列で観ていると岸田さんの目がまっすぐ突き刺さってくることがあったなあとか、メンバー同士がお互いの演奏を楽しんでいるのが見て取れたなあとか、ありありと思い出す。

「鍋の中のつみれ」はとにかく佐藤さんのベースがかっこいい。ボボさんのドラムも絶妙に合っている。こういう曲選は、昼間に外でやる通常の音博ではないんだろうなあと思いつつ…

ここからが個人的なハイライト。「太陽のブルース」。いつの間にか岸田さん佐藤さんボボさんの3人になっている。私が初めてくるりのワンマンライブを観た武道館の編成だね。そして「太陽のブルース」ものちの2013年武道館で聴いて強く印象に残ってる。この曲を聴きながら、私は大事なことに気がついたんだ。分岐点となったきっかけの曲。

「トレイン・ロック・フェスティバル」も梅小路公園では演奏しない曲。シンプルな編成が響く。私が東京に出てきたときに乗っていた電車の……

とか思っていたら「東京」。カメラアングルが岸田さんの背中と提灯。まんをじして、という感じ。音博で「東京」って演ったことあるっけな?ないんじゃないかな。東京の街に出てきて未だだいじょばない私は泣いてしまう。

今日、午後から晴れだして、いい感じに日が差してきたので「これは…!」と思いベランダに椅子とパソコンを持ち出し音博を頭から最後まで観てみた。秋の風が気持ちよかったからだ。音は近所に聴かせたくもあったが、やはりヘッドホンで。私の狭い部屋の中でいちばん空きスペースのあるベランダで。ベランダに出るとき私はいちばん「東京にいるな」と感じる。一昨年引っ越してきて、冬、というか春先、久方ぶりに一人暮らしを始めて、ずっと聴いてきたくるりの「東京」がこれまでと違って聴こえてきたとき、ちょうどツアーでくるりは「東京」を演奏してくれたんだっけ。

「ロックンロール」ではなんだかライブ疑似体験ができた。この曲でお客さんは必ず盛り上がる。画面の向こうなのに、私には周りのお客さんと一緒にこの曲を楽しんでる感じが味わえた。あの開放感が蘇る。

そして私のハイライトの頂点が「怒りのぶるうす」。びっくりしたー。この曲演奏すること自体もだけど、岸田さんのギターが久々の赤いストラトキャスター。テレキャスの音ももちろん大好きだけど、私はこの音にいちばん色気を感じる。音源では岸田さんが絶叫している部分をこのストラトが鳴り響く。呆けて観てたと思う。そして何度も何度も観た。

「Tokyo OP」は東京オリンピックが延期になったいまでは皮肉にも見える。でも着々と自分のできる練習を積み重ねてる、世の中のいろんな人の姿も思わせる。コロナの中でできる最大限のことを、くるりや関係者の人たちはしてくれたなって思う。

「ブレーメン」再び。くるりの3人だけで。続く「キャメル」「宿はなし」も安定感があって、心のふるさとに帰ってきた感じ。京都は私のふるさとでもないし、くるりがふるさとでもないはずなんだけど、でもコロナ禍、不貞腐れて音楽もほとんど聴いてなかった私に全身で、全力で「音楽っていいよ」って言ってくれた感じ。

いろんな趣味ができなくなってた。そんな心の余裕がなくなってた。でも心が固まってしまったとき、ほぐすのにいちばん直接的な効果があるのが音楽なのだ。
頭ではわかってた。でも身体がついていかなかった。でもこの音博は五感でわからせてくれた。

ただのライブ配信とは違った。いろんな想いがこもっていた。願っていたオンタイムである必要もなかった。丁寧で、真摯だった。いい音で、楽しかった。これはひとつの作品を観たと思う。いつまでも印象に残ると思うから、映像作品としての発売を期待する。

そして大きな願いは、やはり、次は会場で生で観たい。


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