私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #146 Ryusei Side
毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思い。琉生が出張中、さとみは志田のことが好きだと気付いてしまい、二人は一線を超えてしまう。琉生は普段どおりの生活を続け、さとみの両親にも挨拶をしにいった。さとみは琉生にいつ別れを切り出すか、迷っている。琉生、志田は最近上司の斎藤に勧められ、昇進試験の勉強を始めた。
時計を見ると、18時を回っていた。さとみは習い事であるフラワーアレンジメントのパーティーがあるというので、今日は遅い。
まだ残って仕事をするか、さっさと帰って飯に行くか、迷う時間だ。
横の席の志田もまだ残っている。
「お前が残業って珍しいな」
「あー・・・なんか、斎藤部長にいっぱい仕事任されちゃって。年明けからの案件、ヤバいんですよ」
「え?お前も?」
俺も、斎藤部長から昨日かなりの案件を任されたのだが。
「昇進試験も控えてるっていうのに、無茶振りですよね」
志田は、ぐぐっと伸びをして、こちらを向いた。
「でも斎藤部長がそれやってたってことだろ。少しずつ俺らに任せてくれてるって、信頼してもらってる証拠なんだし、いいじゃないか」
「まー・・・そうなんですけどお」
志田がブツブツ言っていると、噂の斎藤部長が会議から戻ってきた。
「お、お前ら、まだいたのか」
「あー・・・はい」
「いいタイミングだな。せっかくだから、今から飯でもいかないか?あ、でも琉生は彼女の・・?」
「いえ、今日、彼女遅いんで、俺も飯食って帰ろうと思ってました」
自分で飯、となるとめんどくさくなってコンビニ弁当になってしまいそうだ。ここは斎藤部長に便乗しよう。
「そうか、志田は?」
斎藤部長は志田のほうを向く。志田は、微妙な顔をしながら口ごもった。
「え・・・あ・・・琉生さんが行くなら・・・行きます」
まあ、斎藤部長と俺じゃ、テンション上がらないか。
「なんだ、俺と二人じゃ嫌だってことか。あ、残念ながら由衣も居ないぞ」
斎藤部長が笑う。
「いえ、違います!!そういうわけじゃ。・・・行きます!」
志田が慌てて、取り繕う。
「俺、いくつか店当たりますわ」
そういって志田が電話を掛け始めた。
***
「この取り合わせで飲みに来るの、初めてですね」
さっき嫌がっていたとは思えない営業スマイルで、志田はビールを飲んでいる。
志田が選んだ店はこじんまりとした和食の店だった。個室になっている座敷に通され、俺達は思い思いに注文をする。
「まあ、最初で最後かもしれないが、楽しんでくれよ」
斎藤部長はお通しを食べながら、笑う。この人も奥さんとの離婚調停や、由衣とのゴタゴタがあるっていうのに、一切顔に出さないからすごいな。二人っきりだったら、その話も聞きたかったが・・・。志田と一緒だからやめておいたほうがいいだろう。
「またまた、そんな。斎藤部長に誘われたら、いつでも付いていきますから!」
志田が笑う。
「さっきと全然違う反応じゃないか」
俺が志田を小突く。
「え~?そうですかあ?」
志田はヘラヘラしている。ほんと、こいつ調子いいよな。
「12月になったことだし、二人に言っておきたいことがあって」
斎藤部長は笑顔のまま、切り出した。昇進試験のことだろうか。
「俺、年内で今の会社、辞めるから」
「え?」
「は?」
予想外の言葉に、俺と志田が固まる。
「結構前から準備していたんだ。俺が副業でもうひとつビジネスをしていることは、知ってるだろ?」
「はあ・・・」
確か、海外でビジネスしている友人の営業を手伝っているとか・・・。
「そちらが、急拡大していて人が足りないらしいんだ。アメリカに来て、事業に専念してほしいと言われているから、承諾した」
来週北海道に出張にいくから、のようなニュアンスで、斎藤部長が言う。
「え・・・でも奥さんのことは」
俺は思い切って切り出した
「なんとか今月中に区切りはつけたいと思ってるよ」
区切り。つまり、まだ決着はついていなくて、奥さんは納得してないってことか。
「由衣さんは・・・どうするんですか・・・」
今度は志田が訊く番だった。なんやかんや言っても由衣と仲良さそうだし、気になるんだろう。
「俺は連れて行くつもりなんだけどね。あいつが渋っている」
「そう、ですか」
志田が神妙な顔つきになった。
「だし巻き卵と、唐揚げ、天ぷら盛り合わせですっ」
空気を読まない店員が、さっと料理を置いて去っていった。
「だから俺たちに昇進試験を受けさせるように仕向けたり、いろんな仕事を振ってたわけですね」
実力が認められたから、と思っていたが、そういう事情があったわけか。俺は少なからず、斎藤部長からの信頼で振ってもらっていたと思っていたので、少しがっかりした。
「俺の事情ばかりじゃない。ちゃんとそれぞれ、力が付いてきたから任せてるってことさ」
斎藤部長が、俺たちの前に料理をすっと寄せる。
「うまそうだな。さ、食べよう。志田もいい店選んでくれて、ありがとう」
「いえ・・・そんな・・・」
由衣が連れて行かれると聞いたのがショックだったのか、明らかに志田が沈んでいる。しかたがないので、俺が率先して料理を取り分けた。
「もしかしたら、由衣は3月まで会社に残るかも知れない。俺が先に渡米するか、春に由衣が退職するまで待つかわからないけど。俺がいなくなったあともよろしくな」
「はい」
俺は返事をしたが、志田は黙ったままだった。
「由衣さんが退職早めるってことあります?」
「まあ・・・労基的には14日前に会社に言ったら退職できるからなあ。でも自分が受け持っている仕事の進捗も気にしていたし、年内ってことはないと思う」
「そうですか」
「由衣のことより、俺のこと気にしろよ」
斎藤部長はそういって、志田のことをコツンと叩いた。
***
「斎藤部長、退職かあ」
斎藤部長をタクシーに乗せたあと、俺と志田は駅までの道をゆっくりと歩いていた。
「しかもアメリカって」
志田がつぶやく。
「まー・・・斎藤部長、出来る人だし。驚きはしたけど、似合いそうとも思ったわ」
俺は人の決断にとやかくいう筋合いもないと思っているし、むしろ海外で仕事が出来る斎藤部長もかっこいいと思う。
「斎藤部長は全然問題ないですよ。由衣さんが・・・どうかって話です」
「大丈夫じゃね?あいつ。トラかライオンか、みたいな奴だし、どこでも生きていけるだろ」
肉食系、というのは由衣のためにあるような言葉だ。斎藤部長の離婚さえ成立すれば、その先は俺らが口を出すことじゃない。
「ああ見えて、繊細なんですよ、由衣さん」
「そうか?」
俺はあまり納得いかなかったが、志田はしょんぼりしていた。
「気になるなら、あいつに聞いてみたら?」
「そーですね。そうします」
志田とは乗る電車が違うので、駅で別れた。ふとスマホを見ると、ちょうどさとみからLINEが入ったところだった。
「パーティー終わったので、帰ります」
「俺も、今から電車、乗る」
短く返信をして、俺も改札に入った。
*** 次回更新は明日できたらいいなと思っています ***
雨宮よりあとがき:11月にかけなかった分、フルスピードで書いています。年内に完結したーい!それぞれの道は決まっています!!
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