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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #1 satomi side

目が覚めると、横に琉生がいた。まだこの感覚に慣れないな、と、さとみは思った。

カーテンの隙間からそっと外を確認した。まだ日は指していない。時計を見るとまだ6時前だった。

「なんで休みの日に限って早起きしちゃうかなあ」

せっかくの土曜日だ。隣にいる琉生を起こさないように、そっとベッドから出てキッチンに向かった。

「寒い」

本当は冷蔵庫からお茶を取り出そうとしたのだが、寒すぎる。

温かいお茶にしよう。ポットに水を注ぎ、コンロにかけた。

12月初旬の朝、床はスリッパを履いた足からも冷たさを伝えてくる。

次の家は床暖房がある家がいいな。と、思ったところで我に返る。

次の家って・・・?

琉生をちらっと見る。静かな寝息を立てて、眠っていた。

結婚はまだしばらく先だろう。そもそも7つ下の琉生と結婚するかどうかなんて、全くわからない。

さとみ自身30を過ぎて、結婚への焦りもなくなった。

そもそもなんで琉生が自分を選んでくれたのかもよくわからない。

まだ付き合って3ヶ月だ。結婚を考えるのもおこがましい。

シュンシュンとお湯が沸いたところで火を止める。

さとみはそっとハーブティーのティーバッグを開けた。

カップに放り込んでお湯を注ぐと、ふわっといい香りがキッチンに広がる。

琉生が飲まないハーブティー、後で彼がコーヒーを淹れるのもわかっている。

ダイニングの椅子にそっと腰掛け、向かいの席を見た。

2年前には違う人が目の前にいたのに。そして3ヶ月前まではずっと一人かもと思っていたのに。

琉生と付き合いだす前までは、ちょくちょく思い出していた元カレの想い出もすっかり記憶の彼方だ。

都合がいいもんだな。さとみは苦笑した。

同じ会社の琉生に告白された時には天地がひっくり返るかと思うほど、驚いた。

さとみが総務で、琉生はSEだから、普段は必要最低限の事務的なことしか話したことがない、と思っていた。

だから本当になんで自分なんだろうと思ったし、何かの罰ゲームかドッキリかと思った。

正直7つも上のお姉さんをからかうなよ、とも思った。

琉生のことは、新入社員の時に数か月必要なことを教えるだけの間柄だった。

勤怠の付け方や事務的な届けの出し方。そんな話しかした覚えがないのに、どこで良いと思ってくれたんだろう。

さとみ自身、仕事以外で琉生を見かけるのは年2,3回ある社内全体の飲み会で、彼にはいつも同期の由衣やデザイナーの女の子たちがまとわりついていた。

「ど、どこが良かったのかな、私の」

初めてのデートの時に聞いてみた。

「全部」

何当たり前のこといってんの、と、琉生はめんどくさそうに答える。

「付き合ってくださいって言ったときも言ったじゃん」

「だって全然接点なかったし、やっぱり急にそんなこと言われても実感ないっていうか、私でいいのかなって思ったりする」

「さとみのことがいいって言ってるでしょ?何、別れたいの?嫌なの?」

「ち、違う・・・そうじゃなくてっ」

整った顔立ちの真正面から琉生に見られるとドキドキする。思わずさとみは目をそらした。

表情があまり変わらない、無表情な琉生は損してるだろうなと感じた。

カッコいいんだけど、冷たい感じもする。言い方もいつもぶっきらぼうできつく聞こえる時もある。

さとみがちょっと怯えた顔をしてしまったのだろうか。琉生自身、言い過ぎたと思ったのかもしれない。

琉生がさとみを抱き寄せる。

「ごめん。でも本当に全部だから」

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