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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #153 Satomi Side

毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛で同棲中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思い。好意を寄せられているうちに、さとみと志田は関係をもってしまう。一方で、展示会に向けフラワーアレンジメントの作品を作っている間に、自分に向き合うことで、このまま志田と付き合うことも、琉生と結婚することにも違和感を感じ、さとみは双方に別れを告げる。

「一度、全部リセットしたい」

私は琉生にそう告げた。しばらく琉生は黙っていた。

ずっと琉生に感じていた違和感は、琉生が悪いんじゃない。

私が自分を抑えていたことによる、違和感だったんだ。その違和感が募っていく中で、潤くんに好意を寄せられ、好きだと思ってしまった優柔不断な自分に気づいてしまった。

きっとこのままいったら、潤くんともしばらく経って、同じことになる。

「自分」をはっきり持たないまま、好きだと言ってくれる人にフラフラついていき、しばらく経って、モヤモヤするのは、もうやめにしたい。

「それだったら」

琉生が沈黙を破った。

「同棲を一旦解消して、結婚も白紙にして、少し距離を置くのじゃだめなの?俺といる時間が負担なら・・・」

私はこの気持ちを説明していいかわからず、首を横に振るしかできなかった。

琉生が言わんとしていることはわかる。けど、そういう問題ではなく。恋愛から距離を置いて、自分の人生をどうしたいか、をもう一度考えたいのだ。

そこがうまく言葉で説明できない。

「わかった。とりあえず同棲は解消しよう。さとみがそれで納得するなら、それでいいよ。俺、早いとこ、別な部屋探すわ」

琉生はそこまで言って席を立つと、冷蔵庫からお茶を出してごくごくと一気に飲んだ。

「さとみは別れたって思ってくれていい。でも俺は、さとみがまた俺のほう向いてくれるの、待つから」

***

琉生とはよそよそしいまま、1週間ほど経った。琉生は新しい部屋を探し始めている。私も元カレの時から住んでいるこの部屋は、もう引き払ってもいいという気持ちになってきた。

クリスマスイブは、形ばかりのクリスマスっぽい料理を並べてみたものの、去年、二人で過ごしたあたたかみはまったくない夜だった。

私も電車の中で、新しいマンションをどこにするか、調べていた。

今は比較的会社に近い場所に住んでいるが、通勤一時間圏内と考えて、郊外の自然豊かな場所で一人暮らしをしてもいいかも、と思い始めていた。しばらくは今の会社に勤めるつもりだが、いずれ、花に関する仕事をしたいとも思い始めたのだ。都会の花屋に勤めたり、講師業をするよりも、自然豊かなところで花を扱いたい。

私は電車から、外を眺めた。遠くに海が見えるこの景色も、もしかしたら後少しでお別れかもしれない。

今日は12月25日。フラワーアレンジメントの展示会の最終日だ。

再度出展者がホテルに集められ、打ち上げ的なパーティーを行う。

そこで、各種賞や人気投票の結果が出るのだ。

「佐倉さん、久しぶり」

先生がニコニコして、出迎えてくれた。

「受付とか頑張ってくれてたって、他の生徒さんから聞いたわよ。ありがとう。今日は2回目だし、もう緊張しないでしょう。気兼ねなく食事していってね」

「はい・・・」

2回目だって、まだまだ緊張する。私は前回同様、きらびやかなホテルの間に足を踏み入れた。

お花の世界はとても華やかな人が多い。いかにも、お金持ちな家の奥様、という感じの人が多く、時間があって習い事にしているというかんじだ。もちろん自宅で花を活ける機会も多いのだろうけど、自分が目指している方向とは違うな、と思った。

「あー、佐倉サン、こっちこっち。ここどうぞ」

以前一緒に受付をした女性たちが、手招きをしている。断る理由もないので、私はおずおずとその輪の中に入れてもらう。

「今年の会長賞って誰かしら」

「やっぱり毎年常連の、ユウキさんか、アシダさんじゃない?」

「そうよねえ、あの二人には敵わないわ」

私は知らない名前だったので、黙って聞いていた。

「佐倉さんは曜日が違うから会ったことないわよね」

「はい・・・」

「ほら、受付のすぐ横にあった真っ赤なバラのアレンジメント、あれがユウキさんで、反対側にあったグリーンで構成されたアレンジメントがアシダさん。いつも賞を競い合ってるの」

どちらの作品も、作風は違えど、インパクトがあったので覚えている。

確かにどちらも賞に選ばれそうな作品だ。私は賞レースは関係ないので、とりあえず、この場所がどういう場所なのかを見届けるためだけに、参加したようなものだ。

受賞式を兼ねたパーティーが始まり、花材を提供している会社や、先生が属している協会や連盟のスピーチが続く。

「続いて、授賞式に移りたいと思います。その前に先生から一言、頂戴したいと思います。先生、お願いいたします」

先生が会釈し、壇上で話し始めた。

「今回の選考はとても悩みました。なぜかというと、いつもバラける人気投票が、ある方の作品に集中していたからです。正直、会長も私もその作品になぜ票が集まっているのかわからなかったんです。ただ、人気投票のコメント欄を見ていて、ああ、そういうことか、というのがよくわかったんですね。ですので、今回は人気投票の1位の方を、最優秀会長賞に選ばせていただきました。賞を兼ねてしまうと、一人受賞者が減ってしまうのですが、今回に限っては、会長や連盟の理事と相談をして、それでもその方に差し上げたいと思います」

そこで、会場からブワッと拍手が沸き起こった。審査をされた先生方の思いに共感した、という拍手なんだろう。

私もいつか、そんな賞がもらえる日が来たらいいなと、先生たちを眺めていた。

「では、人気投票の3位から発表します。3位、ヨシナガサチコさん」

遠くの方で席をたち、壇上に上がっていく女性。

「2位、オカモトケイコさん」

また別なテーブルで席を立ち、壇上に上がっていく女性。

「1位は最優秀会長賞の方と同じなので、後で発表しますね。・・・優秀賞はアシダアケミさん」

隣の席でアシダさんが立ち上がり、会釈をした。そして壇上に向かう。さっき噂にのぼっていた人か。作品の印象同様、爽やかで中性的なイメージの女性だった。年は私くらいだろうか、他のきらびやかな女性とは一線を画している。

「そして、最後に、最優秀会長賞を発表します」

先生が言葉を区切る。私も会場のどの人が立ち上がるのだろうと、ぐるりと見渡す。

「佐倉さとみさん。おめでとう」

え・・・?

拍手、ではなく、会場にどよめきがおこる。

先生はまっすぐに私の方を見ていた。

「す、すごいじゃない、佐倉さん・・・」

同じテーブルの人たちが、私をつつく。

「ほら、壇上行くのよ、壇上」

呆然としている私に向かって、腕を引いてくれる人が何人かいた。

私はおろおろしながら、壇上へ向かう。

「拍手は?」

先生がにっこりとして、会場全体に促した。そこでやっとざわめきは拍手に変わった。

***

信じられないことが起こっている。ふわふわとした気持ちで、食事をちゃんと取ったのかも覚えていない。受賞の感想も、ありがとうございます、しか言えなかった。

お祝いの大きな花束と、協賛している会社からの花材、症状など、手荷物でいっぱいになってしまった。私はそれを見ても、自分のことだと信じられない気持ちでいっぱいだった。

「やったね、佐倉さん」

帰り際、優秀賞のアシダさんに声を掛けられた。

「え・・・あ・・・あの、いいんでしょうか、私なんかが・・・」

「いいのいいの。金持ちのババアの成金趣味な作品に合わせなくていいんだよぉ」

近くで見ると、アシダさんは私と同じくらいか、もっと若そうな女性だった。

「今まではユウキさんっていうおばさんをライバルにされてたんだけどさあ、全然タイプ違うっつーの。なんかギラギラしてて、ああいう作風好きじゃないんだよね。でも佐倉さんの作品好きって思った。だからこれからは一緒に競いあっていこうよ」

周りにまだ人がたくさんいるのに、アシダさんはズケズケと物を言う。

「初出展で最優秀会長賞とか、伝説になるって。プロフィールにも書けるから、すごいよ。羨ましい」

「そ・・・うですかね・・・」

「佐倉さん、おめでとう」

アシダさんと話をしていたら、先生もやってきた。

「私・・・まだ信じられなくて・・・」

「うん、そうよねー。私も迷った。でもこれ、人気投票に書いてあったコメント。全部渡しておくね。基本に忠実だし、丁寧に作られてるし、人気投票を読んで、私も会長たちも納得しての授与だから。受け取って」

私にバサッと紙の束を渡して、先生は去っていった。取り巻きの人たちが先生に群がる。先生は遠くから、もう一度振り向く。

「年明けのレッスンは5日からだからねー」


*** 次回更新は12月28日(火)21時ごろです ***

雨宮よりあとがき:正直書いていて途中から、結末わかるだろうなあーと思いながら書いていました(腕が未熟!)あと4日なので、各パート1回ずつ書いて終わりになるかと思います!!

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