見出し画像

私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #11 Satomi side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。社内恋愛中。週末はどちらかの家で過ごすことが多い。明日は初めての二人で過ごすクリスマス。二人はどんな風に過ごそうと考えているのか。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

いよいよ、明日は二人で過ごす初めてのクリスマスイブ。とはいえ、ほぼ毎週会っているのでイベントはおまけみたいなものだ。

ケーキは予約したし、プレゼントも用意をした。あとは明日を待つだけ。

定時まであと30分、というところで琉生からLINEが来た。

「やばい。トラブル発生」

さとみと琉生はフロアが違うから、状況がわからない。

「明日納品のモノ、今日仕上がり予定だったのに、明日午前にズレ込むかも、と」

「え?大丈夫?」

「最悪、明日、朝受け取ったら即、客先に届けにいく段取りになりそう」

「うわあ。こっちは気にしなくていいからね」

「いや、気にするでしょ。誰か違うヤツ行かせられないか探してる」

「仕事、優先で。私は、待つから」

「うーん、考えます」

LINEはそこで途切れた。

多分、営業はほとんどが既婚者だし、イブは予定があるだろうから・・・2年目の琉生か1年目の志田くんが行くことになるんだろうなあ。

客先ってどこだろう?さとみたちの会社は全国と取引があるので、最悪北海道や沖縄ということもありうるが。そこまでじゃなだろうけど、飛行機がある分そのあたりのほうがいいのかもしれない。

大体、琉生が頼める“違うヤツ”って志田くんしかいないじゃない。

さとみ自身、そんなにイベントにこだわるタイプでもないので、別に明日会えないからといってどうってことはない。

そもそも木曜日に二人で会うことはめったにない。

この前の水族館では「翌日の金曜日も土日も来る」と言っていた位だから、ケーキやプレゼントも渡すのが1日遅れるだけである。

ただ、琉生はイベントにこだわっていそうだから、残念がりそうではあるが。

「さとみちゃん、どした?」

総務のおじいちゃん、ヨシダさんが声をかけてきた。

「あ、なんでもないです。すみません」

「彼氏とクリスマスイブに会えなくなったとか?」

「ち、違います!」

さとみは慌ててスマホを隠した。まさか見られてないよね?

「そっかあ。予定あるなら有給充ててくれてもいいんだよ」

「24日なんて給料日前で、総務が、経理が一番忙しい日じゃないですか」

「大丈夫、大丈夫。今はパソコンがなんでもやってくれるから。手計算してた時代よりよっぽど楽よ」

嘱託でいるヨシダは仙人っぽいところがある。そんな歳でもないから、言ったら怒れそうだが、いろいろ達観しているし、気遣いもすごい。

「ヨシダさんは、クリスマス、奥様とどう過ごすんですか?」

たしかヨシダさんの子供はもう成人して、奥さんと二人暮らしだったはずだ。

「まー、ちょっとケーキくらいは買っていくかな。でもそれ以外は普通よ」

「そうなんですね。失礼ですが、ご結婚されて何年になるんですか」

「35・・・6年くらいかなあ。ちゃんと覚えてなくて、嫁に怒られちゃうんだけどさあ」

「35年・・・」

結婚できるかどうか、と思っているさとみにとっては脅威の年月だ。

「女の子は相手がいるなら早く結婚したらいいよ。それが一番幸せだと思うよ。ってこんなこと言ったら、今時はセクハラだって怒られるんだっけ」

「はは。私はそこまで怒りませんけど、怒る人もいるし気を付けたほうがいいですよ」

「そうだね。厄介な時代になったもんだ」

「ヨシダさんは、なんで結婚が一番の幸せって思うんですか?」

「だって、好きな人とずっと一緒にいられるんだよ。幸せじゃないか」

ヨシダが微笑む。ちょっと照れているような感じがした。

「つまりヨシダさんはそう思っていると」

「いやあ、嫁はそうは思ってないかもしれないけどね。はっはっは」

すごいな。35年以上一緒にいて、そう思えるなんて。

純粋に素敵だな、と思った。琉生はともかく、自分はそんな風に思えて、結婚出来る相手が見つかるのだろうか。そもそも、未来の結婚相手に出会って、この人だ、と分かるものなんだろうか。

「ヨシダさん、もう一つ聞いていいですか」

「なんだい」

「結婚相手って、わかります?この人だなって。どんなタイミングでわかるのかなと思って」

「そうだなあ。俺は嫁さんに初めて会ったときにこの人だって思ったけど、嫁さんは3年くらい付き合って、まあこの人ならいいかって思ったららしいよ。だから人それぞれじゃないかなあ」

まるでさとみと琉生の話をされているようだ。

「ありがとうございます」

「おっと、定時だ。今日はもいいから、早く帰りな。仕事なんてやることなかったらさっさと帰るべきだ」

「わかりました」

さとみはヨシダに会釈をして帰り支度を始めた。

***次回は12月25日(金)15時更新予定です***


よろしければサポートお願いします!あなたの有料noteの購入、または私の書籍代にさせていただきます^^