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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #12 Ryusei side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

珍しく、さとみより早く目が覚めた。時計は5時50分。

自宅で眠るよりさとみの家で眠るほうが、よく眠れる気がする。

さとみはまだ寝ている。昨日琉生が渡したリングが右手の薬指に光っていた。

25日の金曜日。きっと多くの子供たちにはサンタクロースが来て、大喜びになる朝なんだろうなあ。

コーヒーを淹れようと、キッチンに行くと、きれいに昨日の片づけがされていた。

昨日は日帰り出張の疲れもあり、ちょっと飲んだシャンパンで早く寝てしまった気がする。

「明日やればいいじゃん、って言ったのに」

パーティーの後のゴミも、シンクに溜まっていた食器も、二人だけのパーティーがあったのがウソのように、きちんとあるべき場所に納まっていた。

***

「え、マジで無理ですよ。ほかの人、いないんですか?志田とか!」

23日の夕方、営業部は大騒ぎだった。23日の朝仕上がるはずのノベルティが、24日予定の午前中になっていたのだ。

上司の斎藤に訴えるも、敢え無く却下された。

「志田は明日もお客さんのイベントの手伝いに行くんだから無理だ。身体が空いてるの、お前しかいないだろ」

斎藤が顎鬚を触りながら、冷たく言い放つ。

「でも俺もA社さんのデータ作成が」

「その納期、月曜だろ。金曜に死ぬ気でやればできる。人が足りないなら別なヤツ入れる。とにかく行ってこい」

う。斎藤の言い方では多少ごねたところで覆らないのは明確だった。

「先方が欲しいのは24日の夜にするイベントのためだから。16時に届けばいいと言ってくれている。印刷会社で上がるのが、12時。早く上がるかもしれないから、印刷会社に行って待っとけ。それから新幹線で行けば、先方のところまで3時間でいける」

「マジすか・・・」

16時に先方の最寄り駅に無事着けたとしても、移動や、納品のチェックなど立ち会っていたら帰りは17時過ぎになることは確実。

さとみの家に行けるのは最短で20時すぎ。下手したら21時近くになるかもしれない。

「わかりました。でもさすがに直帰でいいっすよね?」

「ああ、もちろんだ。朝も印刷会社に直行でいい。着いたら状況だけ連絡してくれ」

斎藤も最近子供が生まれて、イブには早く帰りたいはずだ。

***

それからの琉生の行動は早かった。新幹線のチケットの手配と、帰りの乗り継ぎを5パターンくらいシミュレーションし、スマホに登録。

とにかくどんな事態になっても、1秒でも早くさとみの家に行けるように準備をした。

結果、先方は全然怒っておらず、

「あら~新幹線で来てくれたの?わざわざ。ありがとうねえ」

と感謝された。

その後はお茶を勧められたり、せっかくだからイベントに参加していったらなどと言われたが、猛ダッシュで帰った。新幹線も1秒でも早く着け!と思って念じた。

さとみの最寄り駅につくと、大きな袋を両手に抱えたさとみが待っていた。

「ごめん、マジで」

「なんで。琉生のせいじゃないじゃない。仕事なんだから当たり前」

「うん、でも・・・・持つよ」

「ありがと」

さとみから袋を受け取るとき、手袋をしてない手が触れる。

「めちゃくちゃ冷たくなってるじゃん」

「そう。ちょっとの時間かなと思って手袋してなかったら、思いのほか寒かった」

「どっか入ってればよかったのに」

「でも、買い物終わったのもついさっきだし、そんなに待ってないよ」

俺は片手に荷物を移動させ、さとみの手をつないだ。

「早く帰ろ」

うん。

さとみの家まで一緒に帰る時には昨日から今日まであった出来事を話した。

上司の斎藤は絶対ドSだと思っている、ということや、新幹線は今ドキはガラガラだったということ、クライアント先に向かう時のタクシーのおっちゃんの話など。

俺は不満も込めて話していたが、さとみは事あるごとにクスクス笑っている。

「それは琉生が悪いよ」

「なんで?だって絶対アイツ自分が早く帰りたいから、俺に行かせてるんだぜ」

「斎藤部長だって、他にもたくさん案件抱えてるんだし、わざわざ物届けるために外出できないでしょ」

「そーゆーもん?大体志田だって、肝心な時にいないし」

「それは1か月前から決まってたイベントなんだし仕方ないじゃない」

イブにすごく待たせてしまったのに、全然怒ってないさとみは大人だなあと思った。

「俺、昔ファミレスでバイトしてた時、イブに彼女と待ち合わせしてたんだけど、全然客が途切れなくて。20時にシフト終わりにしてたのに延長延長で上がれたのが23時だったんだよね」

「あー・・・大学生の時?彼女怒ったでしょ」

「めっちゃくちゃ怒ってたわ。結果それが原因で別れたんだけど」

「学生の時はわかんないよね。仕事だと仕方がないってこと」

「そうそう。こっちだってやりたくてやってるんじゃないけど、一方で仕方ないって思っててさー。客にもイブにこんなファミレス来るなって思ってるんだけど」

「こらこら」

「人足りなかったら上がるに上がれなくてさあ。ってことを説明したんだけど、約束破ったとか、バイトばっかり優先して、って怒られた。だからさとみと約束してるのに、って焦って」

「二十歳くらいの子と一緒にしないでよ」

ふふっとさとみが笑う。

「仕事優先にして怒るような彼女ではありません」

「えーそう?」

さとみより前の彼女もいつも仕事を優先すると怒られてたような気がするんだけど・・・

「さとみが彼女でよかった」

俺は本音を言った。

「でも、嫌だなって思うことがあったら、ちゃんと言ってね。俺、そういうの言われないとわからないから」

「うん」

「じゃあ、気を取り直して、パーティーしますか」

俺はポケットに入っている指輪の箱を確かめると、さとみの部屋のドアを開けた。

*** 次回更新は12月28日15時の予定です***

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