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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #40 Jun Side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。それを知らずにさとみを口説いている潤が二人の関係に気付く。潤は琉生に片思いをしている由衣と結託して、自分と付き合えるように画策している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

「言いたいことがあれば、言ったほうがいいですよ。それでダメになるんだったら、それまでの関係じゃないですか」

俺はずっと思っていたことをさとみさんに言ってしまった。今、傷心のさとみさんに掛けるべき言葉ではないと思ったが、口をついて出てしまった。

「うん・・・そうだね・・・」

てっきり反論されるかと思ったのに、すんなり納得しているさとみさん。いやいや、そこは反論するべきでしょー!!余計落ち込ませてないか、俺のほうが焦る。

「すいません、俺、失礼なこと言ってますよね」

うん、俺、なんかここのところずっとさとみさんに謝っている気がする。でもさとみさんはそんな俺にも優しい。マジで天使。いや、女神。

「ううん、多分それ、本当だと思う」

さとみさんが半分くらいになったウーロン茶をストローでクルクルかき回しながら、言った。

俺は運ばれてきたポテトとウインナーの盛り合わせを、さとみさんが取れるように配置し直しながら聞いた。

「私、いつも自信ないから。かといって何も考えてないわけじゃないんだけど、相手に強く言われると、そうなのかなって思っちゃうの」

さとみさんはストローを回す手を止め、目を伏せた。

「なるほど。でもそれってしんどくないですか?自分の気持ちを押し殺してるって思ったり、相手に合わせないといけないとか・・・」

俺はポテトをつまみながら言った。俺はすぐ言っちゃうからなあ。あんまりそういう気持ちがわからない。

「私はあんまりそう思わないんだよね」

さとみさんはウーロン茶を一口飲んでから呟いた。

「相手に合わせているほうが楽なのかもしれない。何も考えなくてもいいっていうか。自分で何かを切り開いていくことに向いていないから。彼氏だったり、会社だったり、何かに安心して、守られていたい。それを依存っていうのかもしれないけど」

半分は独り言、という感じだった。俺は取り残されてる感じがしたので、はっきりと言った。なるべく励ましている感じが出るように。

「いやいや、さとみさんは全然依存してるってかんじじゃないでしょー」

実際、さとみさんは、仕事もテキパキしているし、結婚を急いで琉生さんに食わせてもらおうとか思ってるタイプにも見えない。きちんと自立して、責任をもって仕事をしているし、ちゃんと琉生さんを好きなんだろうなと感じる。ちゃんと、っていうのがよくわかんないけど。

少なくとも、俺の元カノのカノンのように、早く結婚して専業主婦になって、楽して喰わせてもらいたいから俺と付き合ってる、という人じゃないことは確かだ。

決して会社や琉生さんに依存しているわけではないと思う。そんなんだったら、よっぽど仕事しないで会社に依存している人、いるぞ・・・。

「そうかなあ」

さとみさんはようやく一本目のポテトを口に運んだ。もしかして、このまま今夜は一口も食べないんじゃないかと思ってみていた俺は、安堵した。

「彼氏には絶対もう離さないでって思うし。これって依存じゃない?」

「それだけ彼氏さんのこと、好きってことですよね」

俺は理解ある風に装ったが、その相手が琉生さんだとわかっているだけに、ちょっと悲しさを覚えた。

「でもきっと相手にそんな風に言ったら、重いよね。若かったら余計に」

若かったら、を俺に向かって言っているのか、琉生さんに言っているのか判断しかねたが、俺は訊きたかったことを訊いてみた。

「“もう絶対”っていうくらい、昔、なんかあったんですか?」

俺は、さとみさんに似つかわしくない、きつめな表現が気になったのだ。

「うん・・・前の人とは・・・。相手に他に好きな人が出来て別れちゃったんだけど。結構長かったから安心してたところもあって。ちょっとしたことで二股掛けられてるのを知ったんだけどしばらく気付かないふりしてたんだよね。どこかで最後は私を選んでくれるって思ってて・・・ただ、ある時我慢できなくなって、問いただしたら・・・あっさり捨てられちゃった」

さとみさんが悲しそうに笑う。さとみさんにこんな自虐的な話で惨めに笑わせたらだめだ。

「そんな男とは別れて正解!」

俺は、今、核心を突くしかないと思った。

「今日泣いてたのは・・・彼氏さんのことですか」

「え・・・」

さとみさんが言葉に詰まる。

いや、俺が仕組んだことだから、わざとらしいのはわかってるんだけど。

「う・・・うん。そう。ちょっと・・・嘘つかれてたのが分かって・・・」

「また二股かけられてたとかですか」

「え、いや、それは違う・・・。ただ付き合う前のことで・・・だから責める資格も理由もないんだけど・・・」

さとみさんが言いにくそうに口ごもる。俺は察して、さとみさんが言いたいであろうことをまとめて言ってあげることにした。

「誰か怪しい女性がいて。彼氏さんとその女性が以前付き合ってそうだったのに、付き合ってないって言われてて。でも本当はやっぱり付き合ってた、みたいな?」

「・・・なんで分かるの?」

さとみさんが目を丸くした。ごめんなさい、由衣さんにそれ言わせたの俺でだからです。とは言えない。俺はイイ人ぶって、さとみさんに言葉を投げる。

「さとみさんと付き合う前とは言え、隠し事はよくないですよねえ。別にもう別れて、なんでもないなら、ちゃんと言ってくれればいいのに。隠されると、今でも裏で付き合ってるのかなとか、心配になるじゃないですか」

「そう!そうなの!それ」

さとみさんの顔が、今日、初めて明るくなった。俺はちょっと優越感を感じた。

俺はちょっと意地悪なことを言ってみたくなった。

「だったらさとみさんも隠し事、作ってみたらどうですか?彼氏さんはさとみさんのこと絶大に信頼しているから、ちょっと危ういなって思わせるくらいじゃないと。また二股掛けられたりしますよ」

「そ・・・そうなの・・・かな」

いかん。また俺、さとみさんを不安そうな顔にさせてしまっている。

「うーん、そうですねえ。例えば」

俺は一つ提案をした。努めて明るく。

「さっきから鳴ってるのに見てないLINE、たぶん彼氏さんからですよね?それを朝まで見ないとか。俺は今からさとみさんを近くのビジネスホテルにでも送り届けるつもりなんですけど、朝まで何してたか言わないとか。ちょっとそのくらい、不安にさせてもいいんじゃないかと思うんですが、どうでしょう」

さとみさんはしばらくじっと考えているようだった。そして一言

「そうしようかな」

と言った。

*** 次回は3月8日(月)15時更新予定です ***

雨宮より(あとがき):また潤の回で書きすぎてしまいました。回を追うごとに、キャラクターたちが勝手に喋ってくれるので、楽です。(だいたい仕事の合間に10~20分で1本書いてます)脳内で再生されているドラマを文字起こししているかんじなんですよね。あー、ドラマ化してほしい。でもまずは書籍化ですねー。noteの小説で書籍化されてる人とかいるのかなあ。エッセイ等ではたくさんいらっしゃいますよね。私もそんな風になりたい。なる。っていうか、自分の妄想をドラマで見たいだけです、ええ。

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