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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #154 Ryusei Side

毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛で同棲中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思い。好意を寄せられているうちに、さとみと志田は関係をもってしまう。一方で、展示会に向けフラワーアレンジメントの作品を作っている間に、自分に向き合うことで、このまま志田と付き合うことも、琉生と結婚することにも違和感を感じ、さとみは双方に別れを告げる。

さとみが、花束やいくつもの手提げ袋を抱えて帰ってきた。

「すごい荷物だな。呼んでくれたら駅まで迎えに行ったのに」

「う、うん…」

俺はさとみが、靴を脱ぎやすいように、玄関で荷物を受け取った。

同棲してるとはいえ、別れ話をしている奴を呼びつけるほど、さとみは厚かましくないか。

「これ全部 “ お土産 ” ?すごい量だけど」

こんな大きな花束、歌手の人が舞台でもらっているくらいしか、見たことがない。

「お土産はこのケーキだけで・・・あとは・・・なんか・・・賞、もらっちゃった」

「賞?!本当に?すげー!何の賞?」

俺は思わず声をあげた。

やっぱり俺が見込んだけ、ある。フラワーアレンジメントの教室を勧めたのは俺だからな。
俺も得意げな気分になった。

「最、優秀…会長賞…」

さとみは心ここにあらずという感じで、答えた。

「何それ?!一番イイヤツってこと?!」

俺は思わずさとみの手を取った。

「やっぱりさとみは才能あるんだよ〜!初めてなのに、一番の賞って!」

俺はそのままギュッとさとみを抱きしめる。そこで、ハッと我に返って、慌てて離れた。

「あ、ごめん、なんか」

別れ話が出てからずっと、一定の距離を保ち、よそよそしくしていたので、久しぶりのさとみの感触だった。

「ううん、琉生がずっと応援してくれてたお陰だから。ありがとう」

さとみは手提げ袋から紙の束を取り出した。

「これ、人気投票で、私2入れてくれた人からのコメントなんだけど」

俺は、手渡されたその紙の束をパラパラめくった。

“すごく、カワイイ!子供部屋に飾りたい”

“淡い色が素敵。家の玄関に飾ってお客様を、出迎えたい。玄関が明るくなりそう”

“リビングに飾ったら部屋が明るくなると思ったから”

“見てて一番安らぎを感じる作品でした

どれも、部屋に飾りたいとか、癒やされるという褒め言葉が並んでいた。

「私は悩み抜いてつくったから…全然見てても安らがないんだけど・・・。いいのかな、こんなに褒めてもらって」

さとみは気まずそうに、紙に目を落とす。

「いいも何も、見てる人がそう感じてるんだから、いいんじゃない?」

謙虚だなあ、さとみは。まあ、自分が悩み抜いて作った作品を、安安と客観的に見られるわけでもないんだろうけど。そういうところはちょっと、損な性格だよな。

「協会の会長さんもそう言ってた。長年やってる人はついテクニックや見たことのない作品を作ろうと奇抜になるけど、基本を押さえた、原点に立ち返った良い作品だって」

「めちゃくちゃ、褒められてるじゃん」

うん、俺もそう思うよ。花のことはわからないけど、あの中ではさとみの作品が一番いいと思っていた。実際俺もさとみの作品に投票したし。

「基本を押さえた、って…それしかできないし…もっとすごい人、いっぱいいたのに…」

「さとみ、これだけの人が認めてくれてるんだし、あんまり言うと謙遜を超えて卑屈に感じるよ」

「卑屈…」

「だって、お花の先生たちはともかく、ホテルの宿泊客や、レストランを利用してたまたま見てくれた人が、これだけ褒めてくれてるんだよ?自覚はないかもしれないけど、すごい喜ばしいことじゃん」

「うん…そっか」

「そこは素直に受け取っていいんじゃないかな」

さとみの性格上、そこに胡座をかくタイプではない。それに応えようと、これからも精進するはずだ。

「さとみは納得行く作品じゃないのかもしれないけど、少なくとも投票をしてくれた人たちの心に響いたのは事実だし、これからもさとみが納得するまで、作品を追求していけばいいんじゃないかな」

じっと聞いていたさとみの表情が、ふと緩む。

「うん、そうだね。さすが琉生…すごいな」

「別にすごくないよ」

ただ、俺が見つけた才能を、他人にも認められたようで嬉しいだけ。突き詰めれば、俺が才能を見つける能力が証明されたとも言えるわけだから。

俺は冷蔵庫から缶ビールを、棚からグラスを取り出した。

「祝杯あげよう?今日くらい、いいでしょ」

「うん」

それから、クリスマスに食べきれなかったチーズや生ハムをつまみに、さとみのパーティーの話や、同じ受講生の人たちのことなどを聞いた。

少しだけ、一週間前の別れ話をする前の時間に戻った気がした。

***

一緒のベッドに入っても、一定の距離を取っている俺たち。あの日からある20センチくらいの距離は、侵したらいけない空間だった。

ほろ酔いの俺は、今しか言う機会がないと思い、言った。

「年明けには、ここ、出るわ。今日、部屋決めてきた」

「そっか」

さとみが短く返事をする。

「私も出ようかなって思ってる。ここ、元カレと借りた部屋だし、2LDKは一人じゃ広すぎるから」

「うん」

引っ越し、手伝おうか、と喉まで出かかったけど、やめた。志田とは付き合わないといっていたけど、二人の中で、いろんな段取りがついているかもしれないし、ズルズルすると、俺の決心が鈍るから。

「待ってる、とは言わないから。さとみもさとみが思う人生、歩んで」

「・・・・・っ」

暗闇だったけど、さとみが泣くのを堪えているのがわかった。

その気配を感じて、あー、俺の中で何か終わったなあ、と思った。

***

「あれー?斎藤部長、遅いっすね」

週末だった今年のクリスマスが明けた。月曜の朝だが、あと2日頑張れば、冬季休暇だ。

志田が時計を見て言う。9時過ぎている。

「今日明日はお得意様のところに、挨拶まわりなんですよねー」

「あー、俺もいくつか回るとこあるわ」

「なんか、急な予定変更でもあったんですかね?」

俺は社内システムを確認したが、斎藤部長のところは、出勤になっていない。

「9時半には出たいと思ってたんですけどねぇ。ちょっと由衣さんに聞いてみますわ」

志田が小声でそう言うと、LINEをした。すぐに返信が返ってきたようだ。

「朝は由衣さんより早く、7時くらいに家出たって言ってます」

「え?事故か、何かか?電話してみたら?」

「はい」

LINEから電話に切り替えて志田が、電話をする。

「・・・・・・」

「どうした?」

「斎藤部長の電話番号、これで合ってますよね?」

志田がスマホの画面を俺に見せてきた。

俺もいちいち人の番号は覚えてないので、自分のスマホから斎藤部長の番号を見せる。

「合ってるよ。だっていつもソレでかけてるんだろ」

「はい。でも・・・」

志田が困惑した表情で、続ける。

「この番号は使われていません、ってアナウンス、流れるんですけど」

「え?」

斎藤部長が辞めるのは明日、のはずだ。嫌な予感がする。俺は手が震えそうになるのを堪えて、志田に指示した。

「ちょ、お前、総務に行って、なにか連絡はいってないか、聞いてこい」

「は、はい」

俺は直近であった仕事先に電話をかけ、斎藤部長が行ってないか確認した。

午後以降挨拶にくると聞いている、という返事は数件あったが、今来ている、もしくは午前中に約束しているという相手は見つからない。

辞めることを理由に、週末に携帯番号を変えたということも、なくはない・・・と思いたかった。

俺はデザイン部の由衣のところに向かった。

「由衣!」

俺は走って向かったので、息が切れている、

「あ、おはよ。琉生がデザイン部に来るって珍しいー」

由衣はのんきに机周りを掃除していた。

「斎藤部長がさ、電話番号変えたとか、ない?」

「は?」

意味がわからない、という顔でこっちを見返す。

「電話、つながらないんだけど」

「え?!」

由衣の顔が青ざめる。

まさか。まだ、事故とかなにかの理由があれば、いい。

そうじゃなかったら・・・。

俺は由衣を連れて、総務に向かった。


*** 次回は29日(水)21時更新予定です***

雨宮よりあとがき:さとみがフラワーアレンジメントの賞を取った時のエピソードですが、「いや、さすがにそんなわけないっしょ、さすが浅い小説www」と思われているかもしれませんが、実は私個人の実話でして(汗)花ではないのですが、昔、習い初めて4ヶ月くらいで、拙い作品を出したらいきなり会長賞をいただいたということがありました。ので、そういうこともあるんやなーというあたたかい目で見ていただけると幸いです。

さてこの話もあと3日で最終回です!!

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