見出し画像

私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #25 Jun side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。さとみを狙う後輩、志田潤はどんどんさとみとの距離を詰めていて・・・?
今回は、潤のお話しです。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

元カノのカノンと別れてから、家に帰ることも億劫じゃなくなり、すっと家に帰れるようになる、と思ったんだけど、意外とそうでもなかった。

やっぱり誰も居ない部屋に帰るのは寂しいというか、虚しい。本当ならいくらでも飲み歩きたい気分なのに、最近は時短営業とかで、そうもいかなくなってきている。

仕方がないので、定食屋やファミレスを交互に周り、コンビニでビールを買って帰る生活。21時、22時に家に帰ってるって、健全。

「あー、彼女、ほしい」

今日も1人でスマホを見ながら、ビール。出会い系アプリもいくつか登録して眺めてるけど、どうも会う気にまではならない。

「さとみさんだったらいいのになー」

さとみさんには、最近は前ほど警戒されなくなってきていると思う。もう少し仲良くなったらLINE聞こう。

彼氏いるって言ってたけど。結婚してるならともかく、彼氏ならまだワンチャン奪えるチャンスあるっしょ。

俺の場合、結婚してても“行く”気もするけど・・・

かわいい子がいたら“行こうかな”と思っていたけどどうしてもさとみさん以上の人は見つからない。アプリの画面は閉じて、入社式の写真をスマホのアルバムから探した。

唯一、さとみさんが写ってる写真がこれなんだけど・・・集合写真だからめちゃくちゃ拡大するとボケる。うーん・・・。写真欲しいなあ。

あ、俺は超・名案を思いついてしまった。明日早速実行しよう。

***

「は?なんて?」

由衣さんが眉をしかめる。しかし、この会社の人はなんで俺の呼びかけに、「は?」と言うんだろう。謎でしか無い。

「え、いや、デザイン部なら、会社の広報誌のデータとかあるじゃないですか。だからさとみさんのデータもらえないかなって」

前にちらっとバックナンバーで、社員紹介でさとみさんが掲載されてたのを見たことがあるから、由衣さんに頼みにきたのだ。

「バカじゃないの。そんなの個人情報なんだから渡せるわけないでしょ」

由衣さんが氷のような声で言った。

「ううー、そっかあ。そこまでは考えてなかった」

頭を抱える俺に由衣さんが冷たく追い打ちをかける。

「バカなワンコね」

俺は頭を抱えながら、由衣さんをチラ見する。

「そんなに俺って犬みたいですか?よく言われるけど」

「人間には見えない」

「ひど!」

俺が泣き真似をすると、由衣さんは頭を撫でて教えてくれた。

「ほら、ワンコちゃん。そんなに欲しかったら、あそこにバックナンバーがあるからコピーでもして持って帰ったら?紙ベースだし、もともと社内外に配布されてるものだから、データでなければいいと思うけど」

俺は生き返って、由衣さんの手を握った。

「ナイスアイデア!マジであざす!!」

しかし由衣さんはにべもなく手を振り払う。俺は喜んでバックナンバーを取り、コピー機に向かった。

「ほんと、あんたキモいわ。マジですんの?」

由衣さんがまたしても冷ややかな目で見る。

「キモくてもいいんですー。俺、今、マジでさとみさんラブなんで」

「ふーん、あんな地味なおねーさん、どこがいいのか」

やれやれ、という顔で由衣さんは腕組みをしている。

「とりあえず、由衣さんみたいに意地悪じゃないところですかね」

「あっそ」

「でも俺、由衣さんも好きですよ。だって美人だし」

一応フォローも入れておかないと。

「あ。今度飲みにいきません?今、琉生さんとさとみさん誘ってて、由衣さんもどうかなって」

「すっごい脈絡ないメンバーね」

「俺が厳選したお気に入りのメンバーです」

「絶対、嫌」

由衣さんにも断られてしまった。みんなそんなに俺とは飲みたくないのか。時節柄なのか。どちらにしろハッピーな飲み会はしばらく開催できなさそうなので、俺はしょんぼりしながら、コピー機から出てきたA4のさとみさんを持って、帰ろうとした。

「あのさあ、キモいついでにアドバイスしてあげるんだけど」

由衣さんが呼び止めてくれた。

「それ、スマホで写真撮っていったほうがいいんじゃないの?A4の写真持ち歩いてるほうがキモチワルいよ」

「由衣さああああああん!マジで天才!」

「いや、普通でしょ。だから手ぇ握るなって」

俺は再び手を振り払われたが、めちゃくちゃハッピーな気持ちでさとみさんが写っている広報誌を撮りまくった。


*** 次回更新は2月1日(月)15時頃の予定です ***

よろしければサポートお願いします!あなたの有料noteの購入、または私の書籍代にさせていただきます^^