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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #97 Yui Side

毎回1話完結の恋愛小説。下のあらすじを読んだら、どの回からでもお楽しみいただけます。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳は社内恋愛中。琉生の後輩、志田潤はさとみに片思い。志田は琉生に片思いしている由衣と結託して、二人を別れさせようとしたが、飲み会後のはずみでセフレに。一方で遊び相手だった上司の斎藤拓真のほうが好きだと気づいてしまった由衣。斎藤は妻の光と別れて由衣と暮らす、と別宅を借りることにした。

2人で飲んだ後、拓真に連れていかれたマンションは、大規模なファミリーマンションだった。棟もいくつもある。拓真の部屋は最上階の10階だった。タワマンほどではないが、眺めがよさそうだ。立地も会社からはかなり近いので申し分ない。

こんなところに2部屋も借りれる拓真の財力が、よくわからない。下世話な詮索だが、部長職とはいえそんなにリッチなんだろうか。

「ほら。どうぞ」

鍵を開けてくれた拓真について、新築の匂いのする部屋に入った。

スリッパも、洗面所にタオルもまだない、本当に空っぽな部屋。

それでも、もしかしたら自分が住むかも、と思ったらワクワクしてしまう。

いやいや、そこはやっぱりきっぱり断らないと。またこの“悪い男”に騙されてしまう。

私はトイレやお風呂など、確認していく。どこも新品で、キレイだ。

ファミリー向けなのだろう。廊下の横に個室がふたつ。突き当りの扉は、リビングか。

「ここは仕事部屋にしようと思っている」

拓真がひとつの個室を開けると、すでにパソコンが置けそうなシンプルなデスクとチェアがあった。

「こっちが由衣の部屋」

そこには実家の部屋の3倍くらいの空間が広がっていた。家具はキングサイズのベッドだけ。

「広すぎない?」

「俺の寝室も兼ねてるし」

「~~~~~~~~~~~~」

「服とかは、もう1つ借りてる方に置くから、由衣が好きにしていいぞ」

拓真がいう。

「もう1つ部屋を借りているなら、そっちで寝ればいいじゃない」

「そっちには光に見せる用で、シングルベッドしか置かない予定だからなあ。狭いじゃないか」

「十分でしょっ」

しかし、壁一面のクローゼットと大きな窓。ここが好きに使えると思ったら。

「俺以外の男は入れちゃだめだぞ」

「そのまま、そっくり返すわ」

「リビングも見るか。眺望はいい」

廊下を歩く拓真についていく。

拓真がリビングのドアを開けると、目の前に暗い海と遠くにビル群の夜景が広がっている。

「わ・・・」

「この辺は埋立地だから、昼間海も見えてキレイだった」

私はだだっ広い、リビングに立ち尽くす。

ここにソファや大型テレビがあって、ダイニングの傍に4人掛けのテーブルとイス。

私が料理を作って、それを拓真と食べる、のかな。

学生時代、結婚したらこうなりたい、と夢見ていたような、生活が出来るのかもしれない。

「ああ、あと。由衣に頼みたいことがあるんだ」

「なに?」

「時間があるときに、ここに必要な家具や日用品を揃えてほしいんだよ。生活するのに何が必要かは、女性のほうがわかるだろう。俺はデザインにもこだわりはないし、好きなものをかってくれたらいい。金はもう一つの会社のカードで切ってくれたらいいから」

拓真がクレジットカードを一枚差し出した。

「嫌」

私はカードの受け取りを拒否した。

「一緒に選びたいから、今度の休みに会って、ショッピングモールに連れていって」

***

「ええええー。まじかあー」

拓真に部屋をあてがわれたというのに、私は今日も志田の家でダラダラと飲んでいる。金曜の夜だというのに辛気臭い。

「せっかくなら、その夜景のキレイな部屋で飲みましょうよ。俺、行ってみたい」

志田は自前のハイボールを作って、飲んでいた。グラスの氷がカランと鳴る。

「はあ?ほかの男連れ込めるわけないでしょ」

多分私は今、失礼なくらい、顔をしかめていると思う。

それを見て志田がケラケラ笑った。

「んじゃ、明日は会えないってことですよね」

「だから今日来てんじゃん」

「でも完全に斎藤部長に囲われてるじゃないですか」

「うん。まあ」

私は缶ビールを飲み干すと、もう一本を開けた。

「で?ショッピングモール、行くんですか?」

「うん。だって、家具とか長く使うのに、私の目だけじゃ不安じゃない」

正直に言うと、実家暮らししかしたことがないので、何を買ったらいいのか、皆目見当もつかないのだ。私はコンビニで買ってきた、いくつかのインテリア雑誌をペラペラとめくる。

「俺、暇だし行ってあげましょうか」

志田も雑誌を覗き込んできた。

「なんで私と拓真が済む部屋の家具を、アンタが選ぶのよ」

私は雑誌を閉じる。

「多分そこのショッピングモール、俺の元カノが働いているんで」

「・・・会いたいの?」

「うーん、ぜーったい、やだなあ」

志田が笑いながら、拒絶する。それを聞いて、ちょっと安堵している自分。なんでだ。

「由衣さん、にやけてますよ」

「どこが!にやけてないっ」

「新婚さんみたいで、いいですね」

志田がニヤニヤしながら、こっちを見ている。

「ば、バカ。そんなんじゃないわよ」

新婚。そうだな。家具を選びに行くとか、ちゃんと結婚してから、したかった。そう思ったのが志田には見透かされたのか。

「由衣さん、ほんとに男見る目ないですよね」

志田はハイボールをあおりながら、笑っている。

「わかってるわよ」

ムカつくので、私もビールをぐいっと飲んだ。

「琉生さん、どうするんですか」

志田が核心を突いた質問をしてくる。でももう、私の心は決まっていた。琉生のことも好きだったけど。

「知らない。“あの人”にくれてやるわ」

私の脳裏に“さとみサン”が浮かぶ。琉生とあの人がよろしくやってるのは気に食わないけど。私も琉生よりイイと思う人に出会ってしまったのだ。

「だーかーらー。それは俺が困るんですって。琉生さんとさとみさんが結婚することになって、由衣さんが斎藤部長と付き合ったら、俺、どーなるんですか」

よよよ、と志田がわざとらしく泣きまねをする。

「知らないわよ!アンタこそ、そこそこの顔してんだから、アプリとかでひっかけてくればいいじゃない」

「えー。もうそういう駆け引きみたいなことめんどくさいんですよお」

志田が後ろから手を回してくる。

「じゃあ、斎藤部長の離婚が成立するまで、俺とは今まで通り遊んでくれます?そっちの家には行かないんで」

志田が私の服の中で、胸に手を掛ける。

抵抗しない、のが、志田の質問への答えのつもりだ。


*** 次回の更新は7月19日(月)15時ごろの予定です ***

雨宮より:由衣は書いてて楽しいので、どこか違う場所(noteじゃないってこと)で由衣視点でずっと小説を書いてみたいな、と思っています。

さて、今日は本業で納品の締め切りなので、さっさと現実に戻ります。また来週お会いしましょう。


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