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私たちはまだ恋をする準備ができていない #36 Ryusei Side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中だったが、さとみに好意を抱く志田潤に関係がバレてしまった。潤は琉生の元カノの由衣を使って、さとみを振り向かせようと裏から手を回している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

時計は23時を過ぎた。

21時に家に帰ったが、さとみがいなかった。

半分想定外で、でも一方で想定していたような気もする。

家は夕飯の支度がされておらず、さとみに送ったLINEも既読にならない。

とりあえず、何か買い物や寄り道をしているのかもしれない、という期待を込めて待ってみた。

手持ち無沙汰だったので、待っている間に冷蔵庫にあるもので、恐る恐る夕飯を作ってみたものの、さとみが帰ってこない。自分で作った夕食をひとりで食べる気にもならなかった。

由衣がさとみと話をすると聞いた時点で、嫌な予感はしていた。

事故などに巻き込まれたというよりは、由衣と何かあったと考えるのが妥当だろう。

俺は何回目かのLINEをさとみに送った。

「どこいる?何かあった?」

数分待ったが、既読にならなかった。

電話もコールするだけで、出る気配がない。

俺は意を決して由衣にLINEをすることにした。さとみとは本当に仕事の話しかしていないかもしれないし、俺のことを話しているのかもしれない。

が、それは今の時点でわからない。

探りを入れるためにも当たり障りのないことから聞いてみようと思った。

「今日、会議室入っていくの見たんだけど。なんか会議あったなら営業部に共有しといて」

由衣はスマホを見ていたのか、即、既読になった。

「わざとらしい」

その一言で、俺は全てを悟った。恐れていた会話がなされている。そう確信した。どう返信しようかと迷っている間に続けてLINEがきた。

「今カノさんに、私達が付き合ってたこと話しただけ」

悟った、と思ったが、実際そう言われてしまうと、自分の顔からサーっと血の気が引いていくのがわかった。スマホをタップしようとする指先も冷たくなっていくのがわかる。

「何で隠してんの。嘘つく必要ないじゃん」

俺の返信を待たずにLINEが続く。

どこでバレたのかはわからないが、由衣が俺たちのことに気付いているのは明白だった。

「付き合ってたこと言ったら叩かれた。多分あの人泣いてたけど。私のせいじゃないよ。琉生が悪いんだよ?」

叩かれた?由衣ならカッとなって平手打ちしそうな気はするが、さとみが?

それは本当なんだろうか?それとも俺の気を引くための嘘?

「飽きたら返してねって言っておいたから」

俺はさとみと話すより、由衣と話すほうが先だと思った。

俺は迷いながら、返信を打った。

「今から会える?由衣の最寄り駅までいくから」

***

自転車を降りながら由衣が行った。

「本当に来ると思わなかった」

「俺が呼んだんだから来るに決まってるだろ」

由衣の最寄り駅のロータリー。24時を回っていたが、駅からは家路に向かう人がちらほらいて、俺らを横目に歩いていく。

入って話せそうな店は見当たらない。明かりがついているのはコンビニくらいだ。

「遅いし寒いからから手短に話そう」

俺は暖を取るために買っておいた缶コーヒーを由衣に渡した。

「LINEで言ったことが全部だよ」

「なんで俺らが付き合ってるの分かった?」

俺は単刀直入に聞いた。今更ぼかしたり隠す必要もない。今、どういう状況で、なんでさとみが帰ってこないのかの理由を知りたいと思っていたからだ。

「なんとなく。だって琉生、私と付き合ってるときから佐倉さんのこと好みって言ってたじゃん」

由衣が不機嫌そうに言う。なんとなく?今まであれだけ口止めをしておいて、今まで黙っていたのに、突然確信もないのに「なんとなく」で、さとみを呼び出して過去の話をするだろうか。

「・・・誰かに聞いた?」

俺らが認識してるのは斎藤部長だけだ。が、斎藤部長はそういうことを軽々しく言う人でもない。

であれば、社内の誰かに見られてるか、由衣がカマをかけているのに引っ掛かったということになる。

俺の質問には答えず、由衣は逆に問いかけてくる。

「逆になんで私のことも佐倉さんのことも、そんなに隠そうとするの?別に社内で付き合ったとか別れたなんて、よくあることじゃない」

だってそれは。

さとみが嫌がるから。

そう説明しようとしたがうまく言葉にならない。

「琉生が遊んでるのとかチャラいとこ隠して、佐倉さんにいい格好しようとしてるだけでしょ」

由衣が畳み掛ける。LINEのときと一緒だ。こっちの話は聞こうとせずに一方的に言いたいことを言ってくる。始めはカワイイから好きになれるかもと思っていたが、こういうところが苦手で好きになれなかったんだった。

短期間とは言え、付き合っていた頃の感覚が蘇る。

「ずるいよね、そうやって自分だけキレイで居ようとするの」

俺は反論しようとしていた言葉を全部飲み込んだ。何も言えなかった。

図星だ。

確かに。

さとみには良い格好をしたかったんだと思う。チャラいとか遊んでると思われたくなかったのは事実だ。

「私だって、あんなフラれ方して、納得してると思う?全然納得してないよ。まだ琉生のこと好きだもん。今カノが誰なのかわかったら、ライバルとして蹴落としにいくなんて、当然でしょ?」

「蹴落としたところで、お前を好きになるとは限らないだろ。むしろ印象悪くなるってわからないのか?」

「わかるわよ!そのくらい!!」

由衣が絶叫し、周りの人が振り向く。

俺は由衣の口を塞ぐ。由衣がその手を振り払って、静かな声でいった。

「とにかく。私はあんたたち二人を別れさせたいと思ってる。それだけよ」

「・・・そんなこと言われたら、余計に別れないって思うけどな」

由衣は押さえていた自転車の方向を乱暴に変えた。

帰るつもりか。俺はハンドルを握る由衣の手を掴んだ。

「さとみがどこにいるか知らないか?会議室を出ていってからどこに行ったとか」

「知らない。私、そのまま自分の部署に戻ったから」

その言葉には嘘はないようだった。

「わかった。寒い中呼び出して、悪い」

俺が謝って手を放すと、由衣は自転車に乗って帰っていった。最後は無言だった。


*** 次回は26日(金)15時更新予定です ***

雨宮より(あとがき):うーん、今日も書く時間が捻出出来ずにこんな時間の更新になってしまいました。15時に楽しみにしてくださっていたらすみません。考える時間や寝かす時間も必要&仕事との兼ね合いで、一日置きの更新にしてるのですが、、、2日連続で書くのもいいですね。ストーリーが脳内で分断されないので、いいです。引き続き琉生側の話では、琉生のチャラいっぷりとか、最低なエピソードとかいっぱい書きたい。ちなみに私の若い頃はそーゆー、琉生みたいな男とわかってて付き合ってることも多かったな(まさに由衣)。次は潤のお話しです!どうしよ!書くのが楽しみ!!

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