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利益至上主義から脱却するための組織デザイン

企業組織デザイン、コミュニケーションデザインは日々変わっています。

企業組織のコミュニティ化。これは、組織と人のシステムを分析する中で一大テーマですね。2018年に話題を呼んだフレデリック・ラルー著『Teal組織』は、多くのビジネスマンがこんな組織ストラクチャーがありえるのか?実践できるのか?と話題を呼び、2019年秋に開催されたTeal Journey Campusで一堂に会した国内の探究者の多さとエネルギーに、日本国内でも大きな潮流が日々うねりをあげていることをが分かりました。

これまでの企業組織の形が変わろうとしている。この記事では、従来組織の根底にある思想を振り返り、企業に求められることに問いを投げ、最後にどのような組織形態だと活動しやすいのか考える論点を紹介します。

・従来の企業組織を形作ってきた資本主義の思想を紐解く
・企業が世界に存在する意義を見直す
・活動しやすい組織の形(新たな形)とはなにか
・ピラミッド組織からの脱却
・生命論的な組織デザインとは

従来の企業組織を形作ってきた資本主義の思想を紐解く

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現在、日本企業の組織ストラクチャーは、いくらか法律で規定されています。経営者がいて、従業員がいること。取締役会という一部の人が権力を持ち、株主という投資資金を回収したい人のために意思決定し、そこで決定されたことを従業員が実行する。

一見古いようなこの仕組みは、上場企業の典型といえるでしょう。この仕組みが作られた背景には、資本家が用意した工場で労働者が働き飛躍的に生産性を高めた産業革命に遡ります。

18世紀後半、工場制の拡大は、多くの賃金労働者を生み出しました。労働者を安く働かせることが、製品あたりの人件費を下げて利益が増えるため、多くの労働者が低賃金で劣悪な環境で働かされていたことは社会問題に発展し、工場法が制定されました。職場を取り巻く環境や組織構造を規定する法律が生まれたのはこの頃です。

製品の品質を一定以上に保つために、誰が働いても同じクオリティを保てるよう厳しいルールを作り「替えのきく人間」として機械のレーンの一部として労働者を扱いました

今の企業組織も、似たところが散見されます。製品品質や株主に約束した目標をトップが決め、部署や部門ごとにタスクが割り振りされ、細分化されたものをやっていれば、全体のことを考えずともいい。そして現場で誰が働いていても、トップにはあまり影響がなさそうです。

企業が世界に存在する意義を見直す

企業は、機能別に分断した部署別、部門別に一つの事業を細切れにし、全体像の見えない細分化されたタスクを従業員に渡してきました。売上責任は営業部門、コスト責任は経理部門。人員配置の責任を取るのはHR部門、外部から人を招き入れるのは採用部門。実際は、一人の営業マンが事業目的に沿って営業スタイルを確立するにも稼働コストやチームメンバーとの関係性、採用状況を踏まえて検討するはずが、責任の所在が曖昧なために疑問や質問を投げる相手が複数部門の何十人にもわたり、結果的にどうにも動けなくなってしまいます。思考停止してとりあえずタスクをこなそう、とスイッチを切ることが多いかもしれません。また、タスクの全容が見えず情報量が少ないために、従業員一人一人の思考・検討の質は低くならざるを得ず、いつまでたっても情報格差によって上司と同じ議論の土俵に立てず、機械のレーンの一部として働くことにもなりかねません。

しかしいま、多くの企業のトップが成長事業を失って方向性を定めようと、現場に「企業の脳」を民主化し渡そうとしているのです。今改めて、企業が世界に存在する意義とはなんでしょう。

日本経済を盛り上げ、GDPを最大化することでしょうか。その時代はいま、終わろうとしています。


ピラミッド組織からの脱却

通常の企業、ピラミッド組織はトップが脳、ボトムが手足のような機能を果たします。手足がビジネスの触り心地の変化を察知するにも関わらず、手足の感触を脳に伝える神経が麻痺していることが多く、頭の中の思考に走りがち。多くの企業が変化に弱いのは、企業という一生命体の脳と手足が大きく分離しているからでしょう。そして多くの企業が社内調整に8割の時間を費やすのも、必要以上に細分化した弊害で、臓器間に神経を何重にも張り巡らさなければいけないほど複雑な身体ともいえるかもしれません。

どのような形だと、その組織が向かう方向へ進むのに最適なのでしょう。検討材料の一つは「終わりをデザインする組織」です。例えば、料理レシピの共有サービスで有名なクックパッドや熱量の高い越境コミュニティとして増殖している100人カイギ。彼らは、組織が「存在する理由」と「存在を終える理由」を明確に提示しています。

また、一方向に動く生命体を取り上げて、組織だったらどうかと考えることも検討の方法として効果的です。たとえば、アメーバ。アメーバとは、這い回って、自由自在に膜を変形させながら、外物を取り込んで栄養にすることができる、脳を持たない単細胞生物。人の集団を法律的・工業的に規律化した企業とは異なり、一つのDNAを受け継いで自律的に動き回る生命力に学びがありそうです。

単細胞生物なのになぜ効率的なのか、どのように集団を形成するのか、どうやって方向を決めて移動するのか等は下記をご覧ください。

生命論的な組織デザインとは

これからの組織デザインは、生命論的な組織とはどんなものか?が大きな問いとなるでしょう。チャーリー・チャップリンの製作した喜劇映画『モダン・タイムス』に見られる、個人の尊厳が失われた機械的な企業デザインから脱却を志すとき、私たちは生命や生態系から学んでいくのです。

あれ、Teal組織の話はどうなった?と思う方がいそうですね。そうですね、軌道修正しましょう。私は、Teal組織研究の国内第一人者である東京工業大学の嘉村賢州先生に直接学びましたが、Teal組織という組織の設計が一つあるわけではないのは、みなさんもきっとご存知ですね。Teal組織の例はいくつかあり、それらは決して同じルールで動いてはいません。Teal組織とは、心地よくヘルシーに働きたいと願う一人一人が人と人、人と組織、組織と組織、組織と社会のつながりをデザインした先に行き着く組織のことです。

ルールは異なれど、Teal組織に共通するのは組織の一人一人が世界に目を向けて活動することで、社会と共創し、パートナーやユーザーを増殖させ生存する力を持つ生命的な組織であることだと思います。旧来、会社の求心力を作りたいといわれたこととは逆に、遠心力が見直されるべきです。

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世界との境界を広げていく「遠心力の組織デザイン」

彼らのDNAは「なぜやるか」。パーパス、もしくは存在意義と同じ意味で使っています。「なぜやるか」とは、多くの人が望む将来の世界の様子(ビジョン)に向かうための方法が何千通りもある中で、なぜこの組織はこの事業・サービスを行うのか?という問いで考えてみることをおすすめします。組織の過去の経験から強みを洗い出したり、大切なパートナー企業との関係性、現状の限られたリソースが頭に浮かぶと思います。これら踏まえた上で、なぜ今この世界においてこの事業・サービスを行うのか?は組織内で頻繁に話されるべきです。

「なぜやるか」は、意思決定の判断基準になります。これが分かれば、一人一人が責任を持って意思決定できるので、「管理」や「マネジメント」リソースが不要になります。また、内部向けの言葉を外部向けにスイッチする必要性がなくなることも、組織の生産性を高めるでしょう。そして組織の成長の限界は、ビジョンに同意する社会の大きさです。無理に市場を拡大するのはナンセンス。ビジョンに同意する人を増やすための言葉の伝え方(編集力)自体は今後も必要だとは思います。

あとがき

コロナを機に、国家資本主義から国家社会主義または相互扶助への移行が始まりました。方向性を失った大企業の中で働く時代から、一人一人が声をあげて身を守り、近しい知り合いや遠くの人々を支援する生活者として働く時代になりつつあります。無感情になろうとせず、外の世界の変化を感じ取り、人がその人らしく意見を持って働くことが企業組織がイノベーションを生みたいともがく方向性とも同じようです。

もちろん、イノベーションを生みたくない、過去のやり方にしがみつきたい、トップダウンビジネスモデルで生存したい場合は、該当しないので注意を。

人の内側にある多様性に目を向け、外に表現できる人のためのサロン Inner Sustainabilit Labを運営しています。一人一人がその人らしく生活するために、組織の存在意義や人々の暮らしを探究します。

プロフィール
東京在住のコミュニティデザイナー、キャリアコーチ、D2Cコミュニケーター。東京大学でアジア都市貧困世帯の感染症リスク評価研究を実施し、Urban Environment and Health in Asia Programと工学修士を修了。サステナブルな社会システム作りのために外資コンサル、スタートアップを経て、フリーコンサルへ。現在は分断の深まる社会をつなげる組織デザイン、コミュニケーションデザインを中心にサステナブル、プライバシー、社会人教育の領域で様々なプロジェクトに携わる。Climate Reality Leadership, システムシンキング, NVCをかけあわせ、内面のサステナビリティカルチャーを作ることがライフワーク。

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