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ブラック企業ってアメリカにもあるの?

私の個人的見解です。日本のオンライン雑誌や新聞に目を通していて、ここ数年でしょうか、ブラック企業という言葉をやたらに見かけるようになりました。20年前私が日本で働いていた時代には聞いたことのない言葉です。

定義は長時間・過重労働、休日が取りづらい、取れない、最低賃金以下、ハラスメントが横行…色々あるようですが、アメリカにはBlack Companyという言葉はそのような定義では存在していません。同じく、日本でよく聞くパワハラもアメリカでは使ってないと思います。カナダやフランスでは、Moral Harassmentは正式にハラスメントのタイプとして一般に認識されていますが、パワハラと訳すのか、モラハラと訳すのか、どちらなんでしょうね。

では、アメリカにはなぜブラック企業が言葉になっていないのか、もしくはパワハラが一般的に概念化されていないのか。アメリカで10年働いてみて思う私の個人的意見は、労働人口の流動性が高いから、が大きな理由の一つだと思います。

日本でも最近は転職する機会が増えてきたと聞きますが、アメリカは転職するのが当たり前です。むしろ、同じ会社に昇進もなしで7、8年いるのに転職しないと、会社ではキャリア志向ではない人、もしくは転職する先がうまく見つけられない人、と見做されて足元を見られがちです。

残業もサービス残業するにしてもそれが自分の昇進や昇給に結びつかないと、すぐ転職を考えるのが当たり前。そして自分の能力に応じた転職先が見つかって、大抵前の会社よりも最低5%から15%は給与アップする、もしくは1ランク上のタイトルを確保して転職するのが一般的です。

社員は一年に一度の査定でランクがつくので、優秀な社員に去られたマネージャー、しかもマネージャーの落ち度がある場合はマネージャーとしての生命線も危なくなりますよね、それが多発したりしたら尚更です(アメリカではエグジット面接と言って、HRが去る理由を聞くのが一般的です)。欠員ができてチームが結果を出せなくなるとそれもマネージャーとして減点なので、優秀な社員はやめないように、できない社員は問題を起こす前に解雇するのがマネージャーの仕事です。

また、解雇されると薄々気づいてしまった社員は難癖つけてHRにマネージャーに関するクレームをつけることもできます。特に、セクハラや人種差別や年齢差別、性別の差別や妊婦に対する差別は事実だとすれば会社が訴えられて何億も弁償させられる可能性があるため、事実関係を洗い出した結果マネージャーに明らかに非があれば即日解雇されることもあります。私は複数そのようなケースを実際に会社で目の当たりにしました。

よって、マネージャーが仕事のできない部下を長期間にわたって虐め抜くとかちょっと考えられないですね。そうなる前に、有能なマネージャーであれば部下を解雇するように社内プロセスを踏むので。でもないと、もしも虐めのような関係になってしまった場合、今度は部下がHRに相談したりして、それが勘違いでも差別的発言と受け取られるようなことがあれば、自分がクビになる可能性があるので。また、いったん部下が事実無根でもHRに通報して書類ができてしまえば、その後その部下を解雇するのが非常に難しくなります。というのも、差別発言があって虐められたという訴えは取り下げられても、そのあとの解雇がRetaliation(報復措置)と取られると労働法違反になるからです。言ったもんがちなんですよね。だから、マネージャーは立場が上と言えば上なんですけど、自分のチームが気分よく働いてもらえるように配慮が必要です。上司なのになんなんだ、と日本の常識では思われるかも知れませんが、よく働いてくれる優秀な部下に対する配慮、そして信頼関係を築くことは非常に重要です。上司はある意味人気商売だとも言えます。チームがマネージャーを慕って、無理な残業も厭わず、そして社内で注目されてマネージャーが昇進したりビッグチャンスを手にしたときには、それを支えてくれた部下も引き連れて新たなチームを築くのがよくあるパターンです。

なので、CEOやCIOレベルの人、またそこまでいかなくても部長職の人が別の会社に移動すると、民族大移動のような現象が起こります。信頼できる上司・信頼できる部下とチームを組んで会社を渡り歩くのがMainstreamでしょうね。それに乗れない人は会社の出世とは関係のない人生を歩んでいて、それは家族を大切にすることだったり、趣味を生きることだったりして、仕事はそれを支えるツールのような位置づけでプロフェッショナルにこなしてほぼ定時に帰宅、もよくみるパターンです。

よって、一つの会社に、そして大っ嫌いな理不尽な上司のもとで長年我慢するシステムが一般的ではないので、ブラック企業とかパワハラという言葉は定着しないんだと思います。1年に2度あるレビューと1年に一度の査定により評価基準がターゲットに満たない社員はパフォーマンス向上プラン(PIP)に組み込まれて、そこで2ヶ月、3ヶ月に渡って上司が課題を出して再評価、そこでも基準に満たない場合には解雇される仕組みです。実態としてあるにしても、ネーミングがないので概念化しづらいですし、不当なハラスメント等があれば部下にも闘うツールが与えられているので。会社は基本的にはマネージャー側を守りますが、最終的にはマネージャーを守って損が出ると判断すれば本当に簡単に解雇するので、転職先を探しながらも、職場環境の改善を求めて訴えるでしょうね。少なくとも私ならそうします。

ただし、これは社内の制度がある程度整理された会社だから当てはまることかも知れません。

また、ここまで書いて頭の整理ができて再認識できたこと。それは、アメリカの企業は株主のために存在しているという意識が経営者側に浸透している事実です。会社は社員を幸せにすることでもなければ、社会を豊かにすることが第一目的でもなくて、あくまでも株主を金銭的に豊かにすることが第一目的、それで社会が豊かになって社員が幸せに働いてくれればラッキー、という構図があります。社外取締役システムはまさにそのお目付役。そこには上司とか部下とかなくて、全員がCEOを船長とする船の船員なので、風紀を乱して営利を損なう行為をする船員は船を保有する階層からすれば処罰して然るべき存在なんですよね〜。そう考えるとブラック企業がないとか言うよりも、企業の存在自体が1%のスーパー富裕層の生活を支えるためのブラックな存在なのかも知れません。逆に言えば、ブラック企業という概念が定着化している日本の方が自由度が高い可能性だってあります。だから所詮雇われの身である船員はせめて仲良く楽しくやろうぜ、と思うんですけど、どうなんでしょうか。

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