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いつか飛ぶためのカフェ

 最近読み始めた雑誌、『オズマガジン』。
 隔月号となったこの雑誌の最初の特集は「居心地のいい店、東京の居場所」だ。
 自分の居場所になるような、何度も通いたくなるような居心地のいい店を集めて、その店の背景情報を丁寧な言葉で紡いだ特集は、読んでいるだけで心地よい。
 同時に、私は「居住地である岡山の「居場所」はどこだろうか?」とも考えた。
 ふと思い浮かんだのが、今回2回目の来訪となったカフェ、「うのまち珈琲店」だ。

https://www.instagram.com/p/CyhUze2pYHo/?igsh=MWRlOHVjbW4ydjMzOQ==

 1回目の訪問は、去年10月。
 その頃の私はといえば、とにかくへこんでいた。大きな原因といえば、新しくバイトを始めたこと。先輩がテキパキこなす作業が、私にはいつまで経ってもモタモタとしかできない。社員さんに長時間叱られ、泣きながら家路についたこともある。(バイトが楽しくなった今となっては、いい思い出だけど。)
 なんでこんなに社会性がないんだ?
 なんで私は何をやってもダメなんだ?
 それなりに強く持っていた自尊心は、ぼろぼろに打ち砕かれた。バイト以外も、何をやってもいまいち上手くいかない、そんな時に立ち寄ったのがこの「うのまち珈琲店」だ。
 
 店の雰囲気が、店の食事が、私を優しく慰めてくれた。
 店を出る頃には、「なんかもう、どうなったっていいや、頑張ろう」という気分にすっかり変わっていたのである。

 そんなことを思い出した私は、またあの店に行ってみよう、と思い立ったのだ。

 商業施設「クレド岡山」の2Fに着くと、すぐに「うのまち珈琲店」の注文口を目指す。注文口の店員さんの笑顔がうれしい。前行った時も、優しい笑顔の店員さんだった。
 前回は「ケーキセット」を頼んだけれど、今回は「トーストセット」にしよう。食べログを見て、何となく決めていた。

 ブザーを渡してもらい、好きな席に座る。
 店内は広い。そして、よく日の光が入る開けた空間。 
 平日の午後3時前なこともあり、お客さんはあまりいない。ざわざわしていない場所は、やっぱりよくくつろげる。
 店内にかかっているのは、ウィスパーボイスの歌が乗った音楽。
 どれも、私にとってはちょうどいい。心地よい。

 あれこれぼんやりと考えているうちに、ブザーがなった。出来上がったトーストセットをとりに行く。 

トーストセット
(メープルバタートースト&本日の珈琲)
¥850

 食べるのが待ちきれない。ブラックのまま、コーヒーを一口。
 うのまち珈琲のコーヒーは、いつ飲んでも美味しい。ほんのり酸味がある。珈琲の違いなんてよく分からない私だけど、色んなカフェの中で、うのまち珈琲のものがいちばん美味しいとなんとなく思う。

 トーストはというと、じゅんわりと染みわたるメープルの上に、たっぷりのせられた素朴な味わいのアーモンド。甘くて幸せ。その後コーヒーを飲むと、思いがけずいい意味でのため息が出る。鼻から「日々のお疲れ」が抜けて、生気が湧いてくるようだ。
 お昼の量が少なかったこともあり、考えはいろいろ巡らせつつも、ひたすらトーストを口に運んでいく。

 実は、「うのまち珈琲店」最大の特徴は、ブックカフェであることだ。しかも、SNSのユーザー名を書く欄がある独自のしおりを、自分が読んだ本に挟むことができる。
 私も、とある本をちまちまと読んで、しおりを挟んでみた。うのまち珈琲店に行ったら、探してみてね。どこかに私のしおりがある。

しかし、私個人としては、このカフェは本を読むよりも、ぼんやりと物思いに耽るのに向いている。人生の流れを少し止めて、今度あんなことしたい、こんなことしたい、と自由にあれこれ考えたり、BGMの歌詞を聴き取って、情景を思い浮かべたりする。
 ここまでくつろげる、居心地のいい場所が、実家と居住先のアパート以外にあるだろうか?今回の再訪で再確認した。「うのまち珈琲店」は間違いなく私の居場所。

 足取りは軽く、返却口にお皿を持って行った。談笑していた店員さん達が笑顔で振り返り、ありがとうございましたー、と声をかけてくださる。

 このカフェに行ったあと、私は癒されるだけではない。なんというか、飛べる気になる。そう、まるで本を足で掴み、翼をはためかせるあの鳥のように。ジャンプしたら本当に空に舞えそうだ。
 これからも、「居場所」で私は羽をのばすのだろう。そして、居心地の良さにかまけて、いつかは本当に羽を生やすのだろう。
 「うのまち珈琲店」から飛び立つ私をみたその日には、このnoteを思い出してほしい。

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