『落研ファイブっ』第二ピリオド(9‐2)「笑いとは男子一生の事業なり」
〔シ〕「俺の恋人?! こっちが知りてえ」
〔仏〕「しほりちゃんにキスマークだらけにされたんだろ」
シャモの恋人疑惑に、野球部の今井と陸上部の里見が色めき立つ。
〔シ〕「待て待て、あの死にかけ牛筋バアサンの事か」
竜田川千早改め藤崎しほり(新芸名)の事だと気づいたシャモは、彼女疑惑を全身全霊で否定した。
〔餌〕「残念ながら『シャモさんの彼女』は今回は出演しないですね」
だからあれだけは絶対勘弁してくれとシャモがネギ坊主頭をかきむしる。
〔餌〕「真面目に答えると。主任(トリ)が山高亭海彦師匠」
〔仏〕「主任(トリ)が山高亭海彦師匠って事は、ギャグマンガも真っ青な創作落語だろ。青二才が耐えられるのかあれに」
ダメだこりゃとため息をつきつつ、心のどこかでほっとしている落研だった。
※※※
一方こちらはにぎわい座。
〔津〕『なぜ俺は笑った。なぜだ。そも、笑いとは何なのだ。人はなぜ、笑うのだ。人はなぜ笑うためだけに炎天下をさまよい、金を払うのか』
山高亭海彦師匠の『かっ飛ばせ野毛坂ホームライナー』を腹筋がひきつるほど大爆笑しながら鑑賞した津島修二は、明かりが灯った客席でつと我に返った。
せっかくの山高亭海彦師匠の名刺代わりの大ネタ後だと言うのに、開演前よりも更に難しい顔になってしまった津島に三元は困り顔である。
〔三〕「ちょっと好みに合わなかったかな。今日の演目は笑い寄りだったから、その、もっとまじめなのも」
〔津〕「『笑いとは男子一生の事業なり』。私は笑いのメカニズムを解明し、体系化する事を生涯の目標にしようと思います」
〔三〕「そんな大げさな」
三元が予想もしない返しをした津島は、真剣そのものである。
〈にぎわい座 楽屋〉
恐る恐る楽屋に顔を出した三元を、うち身師匠と山高亭海彦師匠が笑って手招きすると、あいさつもそこそこに津島が食い気味に質問を連射する。
〔山〕「笑いのメカニズム。そりゃあるに決まってるよ。集中と放散、緊張と緩和だよ。あらゆる人間活動はそれで成り立っている。息をするのだって『呼(吐く)』と『吸(吸う)』でしょ」
立て続けの質問にも嫌な顔一つせず、山高亭海彦師匠はほがらかに答えた。
〔山〕「ただしこれ以上は企業秘密だね。弟子にだって体系立てては教えてやらないあたしの飯のタネだ。お兄さんはお兄さんのやりようで解明してごらんなさいな。一生モノの大事業になるよ」
津島は雷に打たれたように、びしりと礼をした。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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