読書感想文『ウツボカズラの甘い息』柚月裕子著
家事と育児に追われる高村文絵はある日、中学時代の同級生、加奈子に再会。彼女から化粧品販売ビジネスに誘われ、大金と生き甲斐を手にしたが、鎌倉で起きた殺人事件の容疑者として逮捕されてしまう。無実を訴える文絵だが、鍵を握る加奈子が姿を消し、更に詐欺容疑まで重なって・・・。全ては文絵の虚言か企みか?戦慄の犯罪小説。
544ページ。けっこう分厚いです。
私の感想は、
迷路のような物語
だった。
裏表紙に書かれてる文章は序章にすぎない。
とにかく、迷路のゴールを目指して進むが途中で行き止まりにあう。
こっちかなと思って読み進めると、また行き止まり。
行き止まりにあうたびに、まさかの真実にぶち当たる。
ウツボカズラ・・・ウツボカズラ科の多年生の蔓性食虫植物。葉の先端に瓶形の袋を下垂、中に消化液を貯え、液中に落ちた昆虫などの小動物を養分とする。
このウツボカズラに落ちたのは私だった。
そのくらい、この小説は私の推理をことごとく跳ね返し、まさに驚愕の真実を次々に浴びせて、ページをめくらせた。
推理小説、犯罪小説、刑事もの、まあ、その他の小説もそうだろうが、
私にとって、小説を読む醍醐味というのは、
点と点が結ばれた時だ。
が、
この小説は、ちっとも結ばれない。
それどころか、次々と新しい点があらわれる。
私はすっかり迷路に迷いこんでしまったが、これがめちゃくちゃ気持ちいいのだ。
あるマンガのキャラクターが言うセリフに
「謎よ。もっと深まれ」っていう言葉があるが、
まさに、そんな気分だった。
私は、心の中で
「まだ終わらないで。これで終わりじゃないよね」って思いながらページをめくってた。
これは、その小説が面白いことを意味している。
私が、推理小説や刑事物を読む上で一番読みたい部分、描かれて欲しい部分というのは、『動機』である。
なぜ、殺したのか?
実は、ここを上手に描いてる小説は、たくさんあるのだろうが、私がヒットしたものは少ない。
ひどいものは
「なわけあるか!」と怒りすら覚える作品もある。
あと、作者が勝手に自分のレベルを過信しているのか?それとも己の文章に酔っているのかわからないが、
『動機』をサブ的に扱ってる場合がある。
それ以上の『核』が納得するものであればいいが、私はほとんど、そういう作品を良しとしない。
こればかりは、『好み』の問題だと思う。
そういう意味でも、この『ウツボカズラの甘い息』は、大満足の作品だった。
この本を手にした時、その分厚さから、大作であることは容易に想像できたが、中身はその10倍上をいっていた。
最近は、小説がやたらドラマや映画化されているが、
この小説は、読んだ者にしかわからない『快感』がある。
小説だからこその面白さがここにある。
さらに、これは作者も意図してそうしたわけではないと思うが、
私のように、ある程度、ミステリーをかじった人は、ある程度の推理を立てながら物語を読み進める。
この作品は、あえて、そのベタな展開をある程度仕込んでおく。
で、そのミステリーをかじった人が、おおよその展開がまとまったかなぁ。あとは、ラストまでの答え合わせだなぁと思ったところで、驚愕の展開を用意しているのだ。
私は、この作品が映像化されないことを切に願う。
最後に、恒例の
おすすめか?と聞かれれば、
間髪入れず
おすすめします。
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