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パンとわたし。

パンを描いているのは偶然なのか必然なのか。

最初は10年ぶりに絵を描き出したら、なぜかパンの絵ばかりになっていったのがきっかけだった。
(なぜ10年ぶりに絵を描き始めたかは「絵とわたし。」に書きました)

カタカナが苦手なので、それまではパンの名前とか気にしたこともなかったし、小学生の頃から、好きな食べ物は?と聞かれると「からあげ」と答えていた。

絵を描き出したらパンばかりになった時、最初はくいしんぼう精神からくる偶然かなって思っていたけど、振り返ってみると、私はパンと共に生きている。

パンを描いているのは偶然なんかじゃない。必然だ。

まず、物心ついた頃から、父が毎朝、食パンにバターを塗って食べているのを見てきた。

母の朝食はご飯のことが多かったので、私も小さい頃はご飯を食べていたみたいだけど、いつの間にか、私は父と並んで毎朝、食パンとお味噌汁を食べるようになった。出来上がったらポンっと飛び出てくるトースターで2枚同時に焼いて、バターかジャムをその日の気分で決めて毎朝、父と一緒に食べていた。そんな日々がパンと私のベースにある。

幼稚園時代

一番古い記憶は、幼稚園のころ。家は無宗教だけど、なぜかキリスト教の幼稚園に通っていた。そこで、聖書によくパンが出てきていて、パンは大事なものだということを小さいながらに思っていたことを覚えている。

幼稚園の給食は、パンかご飯か選べて、パンを選んだ人を先生が表に毎朝チェックをしていた。私は、誰がパンだったか覚えるのが好きで、家で表を自分で作って、幼稚園から帰ってきた時に、クラス分チェックすることにハマっていた。

幼稚園を卒園してから聖書の内容は、「全てのものに感謝しなさい」と言うことくらいしか覚えていなくて、その他はすっかり忘れてしまったけど、この経験も今につながっているのかもしれないと最近、ふと思った。

小学校時代

小学2年生の頃、父が難病になって働けなくなった。
入退院を繰り返し、介護が必要になったため、母は長く看護師として働いていたけど、違う職種でパートに出た。いくつかパート先はあったが、その中の一つがパン屋だった。

その頃、母がクロワッサンを買ってきてくれて、はじめて食べた。

思わず目をつむってしまうほど美味しかった。家にクロワッサンがあると幸せだった。朝のトーストが時々クロワッサンになったり、おやつに食べられるのも嬉しかった。

だけど毎日あるわけじゃなかった。

この時よく家にあったのはパンの耳。

私はこのパンの耳が大好きになった。そして、母は「パンの耳が好きな人は本当のパン好きだ」と嘘か本当かわからないことをよく言っていた。当時はパンが好きだと自覚していなかったので、いつも聞き流していたけど、今の私のことを思うと、本当なのかもしれない。

小学生の頃の私はパンの耳がすごく安いということは知らなかった。それがよく家にあったと言うことは、家計は私が想像する以上に苦しかったのだろう。朝ご飯にパンの耳を食べることもあった。パンの耳が好きで、いつも家にあることを喜べる子どもでよかった。と今になって思う。

私はすっかり忘れていたのだけれど、昨年、地元の友だちとパン屋巡りをした時、小学生の頃「食べられないパンを一緒に作っていた」と教えてくれた。

母はパン屋で成形もしていたので、家で遊ぶときに用意してくれていたらしい。今で言うミニチュアパンだ。「味がないパン」とも言っていたようだ。言われるまで全然覚えていなかった。振り返ると、どんどん色んなパンとの思い出が蘇ってくる。それからしばらく経って、クロワッサン の成形も教えてもらっていたことを思い出した。

母は、本物のパンもよく焼いてくれていた。ロールパンみたいなパンだったと思う。友だちと一緒に作ったりもしていた。

小学校の給食も、パンが好きだった。コッペパンはもちろん、食パンも、揚げパンも大好きだった。揚げパンはきな粉パンとココアパンが好きだった。最近、よくパンを焼いてくれる夫とは小学校時代の同級生だ。一緒に給食でパンを食べていた。当時も夫のことが好きだったけど、5年生で引っ越してしまった。すごくさみしかった記憶があるので、今、夫が焼いてくれたパンを食べていることを、昔の私に伝えたらきっと驚くだろう。ちなみに夫も好きでいてくれたようで、その後もしばらく文通をしていた。再会したのはもう少し先。

中学・高校時代

中学校でもよくパンを食べていた。この頃、通学途中に初めて一人でパン屋さんに行くようになった。そして、ハマったのがベーコンエピ。

一度ハマったらずっと食べたくなるタイプなので、ものすごくたくさん食べていたと思う。かたいフランスパンの感触と、カリッと焼けたベーコンに黒胡椒が効いていて最高だった。ちなみに初めていったパン屋は母がパートしていたパン屋さん。いつも母が買ってきてくれるので自分で行ったことがなかったから、ベーコンエピは少し大人なパンな気がして、最初の何度かは、ドキドキしながらレジに並んでいたことを覚えている。

その他の中学時代のパンの思い出は、部活の後に通っていたバドミントンスクールが終わった後の21:00すぎに菓子パンを食べたり、夜中に食パンを急に食べたくなったりしてたこと。

菓子パンは、クリームパンとか

チョココロネとかが好きだった。

高校時代も部活漬けの日々で、試合とかのお昼はウィダーインゼリーとパンを持っていくことが多かった。緊張したり疲れたりした時、一番食べやすいのがこの2つだった。

今これを書きながら、試合に負けて泣きながパンを食べている場面をふと思い出した。負けた時に食べるくらいだから、この頃からきっと好きだったのだと思う。

大学時代

大学時代にまずハマったのはセブンイレブンのミルクフランス 。

コンビニに入ったら、ミルクフランス とカルピスウォーターとカルボを必ず買っていた。噛み切りにくいカリッとしていないフランスパンの感触と、少しザラッとしたミルククリームがたまらなくおいしかった。

いつも買うコンビニになかった時は、スクーターでコンビニをはしごしたりするくらい好きだった。

もう一つ思い出に残っているのが、大学から一番近いパン屋さんで出会ったくるみパン。

内側はふわふわなのに、上の部分がが少しパリッとしていて、底の部分も味わい深い。そんな生地と相性抜群のくるみが折り込まれていた。
焼き立てだったのでたまたま買ったのだけれど、衝撃だった。それからしばらくは、どのパン屋さんに入ってもくるみパンを買っていた。

そのパン屋さんではタルトにも出会った。

サクサクのタルトの上に生クリームとカスタードクリームと甘酸っぱいフルーツが乗っているなんて、おいしい以外の何者でもない。

この時、私の好きな食べ物の座を独占していた「からあげ」に「タルト」が加わった。

社会人

大学を卒業し、新卒で入った会社の近くにもパン屋さんがあった。
仕事に夢中だったので、パンの名前とかも見ずに買っていたけど、最近、同期の子に、パンの絵を描いていることを話したら「まだパンが好きでなんか安心したわ」と言われた。その頃、自分がパン好きなんて気づいてなかったけど、周りからはパン好きと認識されていたみたい。

会社で食べていたパンはよく思い出せないけど、疲れて帰ってきたときに食べたくなるのは志津屋のカスクートだった。

フランスパンにボンレスハムとプロセスチーズというシンプルなものなのに、パンに染み込んだバターがアクセントになって素朴な味がクセになる。そして何より、しんどい時においしい。そっと寄り添ってくれるようなパンだ。

残業して終電を逃して眠りながらタクシーで帰った時とか、新卒で働いて3年くらい経った頃に体調を崩して手術などした時も、このパンが助けてくれた。

出産で2回、大学時代にアキレス腱断裂と靭帯損傷で2回、この時に1回の合計5回入院しているけど、その時の病院食で出てきた食パンも大好きだった。

食パン1枚が透明の袋に入っていて温められて出てくるもので、トーストとも違って、あたたかいのにカリカリの部分がなくて、耳が香ばしいのではなくてちょっとガムに似たようなかたさで、それがなんとも言えず好きだった。

会社で体調を壊して入院した時には、今の夫とすでに再会していて付き合っていた。遠距離恋愛だったので、何度か家に遊びに行ったりしていたのだけど、その時にもパンを焼いてくれていたのを覚えている。

私はてっきり材料とかいれるだけでできたものだと今まで思っていたけど、1から手作りだったと最近教えてくれた。

夫と結婚してからは、職業柄引越しが多く、7年の間で4回移住した。その間に2度の出産。環境は劇的に変わったけど、思い返せば、引っ越した先々でおいしいパン屋さんを探していた。

絵をまだ描いていなかった頃も、休みの日は、少し遠くのおいしいパン屋さんまで行きたくなった。

その頃はまっていたのが塩パン。

特に、長男が1歳〜3歳まで通っていた幼稚園の通り道にあるパン屋さんの塩パンが好きで、楽しい時も、しんどい時も、毎日のように買って食べていた。この絵を見ると、笑ったり泣いたりしながら食べていたことを思い出す。

ここまでが、絵を描き始めるまでのパンと私の物語。

どのパンにも思い入れがあるけど、次男の出産予定日にアップルパイを描いていた時、期待とか焦りとか不安とか、色んな感情が絵に吸い込まれていくような感覚を味わったりもした。

アップルパイがパンかパンじゃないかと言えばパンじゃないけど、臨月の時、太りすぎてお菓子を食べたらダメだと言われていたので、パンだと思い込んで食べていた。

私は、長男出産前に1度、安定期直前の子を突然流産した経験があって、長男の時も、次男の時も、産まれてくるその時まで不安で仕方なかった。だけどこうして絵を描くことで心が落ち着いた。

パンは、知らず知らずのうちに私に寄り添い、助けてくれていた。

ここに出てきたパンはメジャーなパンが多い。絵を描き始めるまでは、王道なパンしか食べていなかった。ずっと一番好きな食べ物は「からあげ」だったし、パンは好きだったけど、パンと寄り添いすぎて「好きな食べ物」としては認識していなかった。

だけど絵を描き始めてから、食べるパンも幅広くなり、今まで以上にパンのカタチに興味が出てきて、色んなパンを食べている。そして、名前とか種類とかさらには歴史にまで興味が出てきたりして、描けば描くほどパンが好きになっていった。

パンを描いたところからパンと私の物語は始まったとも言えるけど、振り返るともっと前からはじまっていたかのようにも思える。

どちらにしても、これからも私はパンと共に生きていく。

と言い切ったけれど、なかなかバゲットとバタールの違いも覚えられないパン好き初心者として、ゆるやかにパンと寄り添っていきたい。

ちなみに、アップルパイはパンじゃないけど、ピザはパンです。

このnoteはキナリ杯 特別リスペクト賞を受賞しました!!



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