世界の医療保険制度×IT事情~アイルランド~
世界の医療保険制度×IT事情~アイルランド~
はじめに
こんにちは、ALTURA Xインターンのヨシムラといいます。本ブログの新しいシリーズとして世界の医療保険制度事情をその国の基本情報や衛生情報に触れながら紹介していきます。第一段は日本から9500キロ離れた北西ヨーロッパのアイルランドを取り上げていきます。
アイルランドとはどんな国
ヨーロッパの西側に位置するアイルランド。日本となじみが深い国ではないかもしれません。アイルランドと聞くと、アイリッシュパブやギネスビールといったお酒や、またハリーポッターにも搭乗したモハーの断壁といった雄大な自然が思いつく人もいるかもしれません。
イギリスのロンドンからは飛行機で約1時間半の場所にあり、 首都のダブリンは国土の中央、東側に位置しています。
人口は460万人程度。福岡県の人口が北海道と同じくらいの大きさの国に住んでいるイメージです。「一日の中に四季がある」といわれるほど天気が変わりやすいことで有名なアイルランドの天気。10分前まで晴れていたのに急に雨が降り出し、その直後にいい天気で虹が見えて、、なんていうお天気には筆者自身もアイルランドで生活していた時に驚きました。緯度は北海道と同じくらいですが、メキシコ湾流(暖流)の影響で緯度が高い割には冬の寒さや降雪は厳しくありません。
世界平和度指数という殺人、暴行や交通死亡事故数など複数の指標をもとに算出された2023年度版の安全指数ランキングで、アイルランドは北欧諸国に続きヨーロッパで7番目に治安が良い国とされています。
さてそんなアイルランドですが、今回はアイルランドに滞在している間に病気やけがをしたときに踏むべきプロセス、アイルランドでの医療保険事情にフォーカスしていきます。
1960年から一貫して人口が増加しているアイルランドですが、アイルランドに滞在する日本人の数もパンデミックの時期を除き、同じく増加しています。その数およそ3000人です。
最近ではアイルランドへのワーキングホリデービザの発給数が倍になったこともあり、今後はアイルランドを身近に感じる方もより増えてくるのではないでしょうか。
そんなアイルランドの医療、衛生分野を取り巻く基本情報から見ていきたいと思います。
アイルランド衛生情報
水道水は飲める?
アイルランドの水道水は日本の軟水と異なる、石灰を多く含む硬水です。そのまま飲んでも原則問題ないとされていますが、筆者自身もアイルランドで生活していた時は、日本でなじみがある軟水と違い、特有の重い口当たりを感じました。
Irish Waterという水道局が水質の管理を行っており、水源の天候や環境の影響により、水質が変化した場合には品質が水準以下まで低下した場合には、この水道局から水道水を煮沸して利用する旨の指示(Boil water notice)が発出されます。(ちなみに筆者はアイルランド在住ですが、実際にこの指示を耳にしたことはまだありません)Irish water のウェブサイトから住まいの住所を入力すると、その地域の硬度や水質を調べることができます。
▼Irish Water ウェブサイト
https://www.water.ie/help/water-quality/hard-water/
食の安全性
アイルランドでは、食品の衛生管理は徹底されており、日本と同じような感覚で買い物を行い、食事ができます。ただ、梱包が日本に比べて甘いこともあるのも事実。乳製品が有名なアイルランドで筆者もよく濃厚なバターやチーズを楽しんでいましたが、特にチーズはしっかり閉じたはずなのに冷蔵庫の中でカビが、、、なんていうことも数度ありました。どうしても袋の閉まりが完璧でなかったり、どこかに小さな穴があいていたのでしょう。あまり多くはありませんでしたが、スーパーで並んでいる際に既に袋が破れている商品を見かけたこともありました。購入時には自分の目でしっかり確認、ですね。
アイルランド保健省が管轄している政府機関、Food Safety Authority のホームページから消費者が食の衛生面での安全性に不安を覚えたとき、何か事象が発生したときにオンライン上ですぐに申告できるようになっています。
▼Food Safety Authority
https://www.fsai.ie/
トイレ・風呂
アイルランドの一般的な自宅のトイレ・風呂ですが、ユニットバス形式で、浴槽はなくシャワーのみの場合が多いです。日本と異なり、湯船につかる習慣はありません。水の性質とも関連しますが、硬水は石鹸が泡立ちにくく、石鹸カスが多くできます。排水溝に詰まることがありますが、かなり強力な液体タイプの洗剤が多く販売されており、大抵のつまりはこれで解消できます。
街中では他ヨーロッパ諸国に比べると無料で使えるトイレが多い印象ではありますが、近年、ダブリンの大きなショッピングモールで有料化が始まりました。街の公衆トイレは衛生的でない場合が多く、お勧めできません。日本のようにスーパーやコンビニなど、どこかですぐにトイレができるといった感覚はなく、カフェなどでも商品を購入した客のみにトイレのドアを開けるコードが教えられたりすることがあります。
アイルランド医療情報
アイルランド滞在中に病気になってしまった場合は?
アイルランドでは主に国営保険サービス「HSE(Health Service Exective)」によって管理された公営(Public)医療と、プライベート(Private)医療の二種類の医療機関が存在します。いづれも水準は先進国の医療レベルを満たしており、不安なく利用できるでしょう。ただその仕組みは日本と少し異なっており、渡航前に知っておくことが必要です。
1)ホームドクター General Practitioner(GP)
まず、何かけがをしたときや、身体の不調を感じたときなど緊急性の高くない場合はGeneral Practitioner(GP)と呼ばれる機関を受診します。これはホームドクターのようなもので現在アイルランドには2500のGPがあります。数だけ見ると多いようにも聞こえるかも知れませんが、1960年から一貫して人口が増加しているアイルランドでは、もちろんのことその需要も増加しています。
最寄りのGPはHSEのウェブサイトから自宅の住所を入力することで検索ができます。基本的に自宅から7マイル(11.2Km)の範囲のGPの診療にかかることになっています。その際は基本的に事前に電話での予約が必要で、ウォークイン(予約なしでの対応)もありますが、あまり多くはありません。
専門医にかかることが必要と判断された場合にはGPから紹介状を出して貰います。
GPは基本的にプライベートのクリニックため、およそ€45-65(日本円にしておよそ¥7,000-¥10,000-)かかります。ですが、アイルランドに居住する70才以上の高齢者および6才未満の幼児、そしてMedical Cardを所持している場合はGPの診察が無料になります。
▼HSE ウェブサイト
https://www2.hse.ie/services/find-a-gp/
次の章ではGPの診療に関わるMedical CardおよびGP Visit Cardの取得要件を説明していきます。
2)Medical Card / GP Visit Card : Public insurance
前章で説明したようにアイルランドでけがをしたとき、身体の不調を感じたときに最初にかかるのはGPになります。このGPはMedical CardもしくはGP Visit Cardを所持していると診察料が無料になります。
(両カードの違いについてはこのブログでは深くは触れませんが、Medical Card はGPだけでなく、より広範な医療で無料のサービスを受けれるようになります。)
これらのMedical Card / GP Visit Cardは税金によってまかなわれており、医療サービスを無料もしくは減額で受けるために必要なものです。つまり、このカードが無くても医療を受けることはできます。この章ではMedical Card / GP VIsit Cardの取得要件について説明していきます。
まず、アイルランドで住民登録を行っている居住者
(居住者の定義:過去一年間アイルランドに滞在していること、もしくはこれから少なくても一年間アイルランドに滞在するつもりであること)は一定の所得の要件に応じて、Medical Cardの取得が可能です。ですが日本を含むEU(欧州連合)およびEEA(欧州経済領域)以外の国の国民、(スイスの国民も対象になります)はIrish Naturalisation and Immigration Service(INIS) (アイルランド入国管理局)にアイルランドの住民カードもしくは取得しているVISAを示す書類の提出が別途必要になります。
両カードを取得できるかどうかの基準は以下の通りです。
・収入が一定の水準より低い場合(※)もしくは水準よりは高いが、医療費の支払いが困難であると判断された場合
・政府関係の仕事に従事している場合
・アイルランドに当時居住していた母親が妊娠中にサリドマイド(※1)を服用した場合
・恥骨結合切開の手術を受けた女性
・18才以下の子供で過去五年間に癌になった場合
・里親養育、もしくは施設養護を受けている子供
といった具合です。
70才以上の高齢者と6才以下の幼児は全員がカードを取得できるようになります。
また、これらの条件に当てはまらず、Medical Card / GP Visit Cardが取得できない場合も
・アイルランドで血液製剤の投与を受けてC型肝炎を発症した場合
・特定の機関で働く女性
・長期間の治療を必要とする病気に罹患している場合
は医療費の減額を受けることができます。
現状、およそアイルランドの人口37%の方がMedical Card等を取得し、公営医療を無料で受けています。
EU(欧州連合)およびEEA(欧州経済領域)以外の国の国民、(スイスの国民も対象になります)からの短期滞在者は基本的にMedical Card / GP Visit Cardの申請ができずGPで無料の診療を受ける対象になりません。実費で診断料を請求されるため、渡航前に海外旅行傷害保険に加入しておくことをお勧めします。
3)プライベート(Private)の医療保険制度について
公営の医療保険制度として機能するMedical Card / GP Visit Cardは取得に要件が課されていることを前章でお話しました。アイルランドでは人口の4割以上がプライベートの保険に加入しており、これはヨーロッパ域内でも高い割合です。
主にMedical Card / GP Visit Cardの取得要件に合わなかった方がプライベートの保険に加入しています。
プライベートの保険を提供しているのはアイルランドに4社あり、Irish Life Health, Laya Healthcare, VHI HealthcareそしてHSFになります。それぞれに大きな違いはあまりありません。
いずれの保険もHealth Insurance Authorityという健康保険を監視、および管理する政府の期間によって統制されています。プライベートの保険の多くでは、民間施設での治療費が支払われることが多いこと、専門性に特化していることが多いこと、また公営の医療サービスに比べて待機時間が短いこともプライベートの医療保険の人気がある理由になっています。
4)専門医にかかる場合
GPで診断を受けたのち、専門医にかかることが必要な場合には、GPで紹介状を書いてもらうことになります。紹介状なしで専門医へ行って診察してもらう場合は、初回のみ100ユーロ(約15,500円)がかかります。しかし、ここで前述したMedical Cardを所持している場合や新生児、精神的疾患を抱える小児、妊娠している女性などを対象に支払いが免除されます。
歯医者にかかる場合のみ、GPの紹介状なく直接専門医に見てもらうことができます。
医療X IT
最後にこの章ではアイルランドで実装されている医療業界とIT分野関連について触れていきます。アイルランドの首都ダブリンに本社がある民間テック企業のMediHive。この企業が2013年にローンチしたwebdoctor.isはオンラインGPサービスといわれ、オンライン上での健康に関する問い合わせから、診療、自宅でのテスト、そして薬の処方まで行うことができるプラットホームです。
このアイルランドに基盤があるプラットフォームはこれまでに13万人が利用してきたサービスです。費用は、オンライン上での処方が€30~(¥4,650~)、オンラインでの診療が€39~(¥6,045)となっており、通常の病院が閉まった夜や祝日も利用が可能です。
かかりつけ医にオンライン上でも担当してもらえることから、患者自身にとって便利なだけでなく、安心できるプラットフォームとして認識されており、ユーザーからの評価は4.8/5を獲得しています。
webdoctor.ieのサイトから上記の上記のようなサービスにアクセスすることができます。
また、webdoctor.ieのアプリ版も実装されています。
終わりに
各国の医療保険制度比較第一段、アイルランド編はいかがでしたか?
アイルランドのことを知らなかった方にも、アイルランドという国とその医療制度について触れていただく機会になっていればうれしく思います。このシリーズは、続いてイギリス、米国、アメリカ、シンガポール、そしてその他各国を取り上げていく予定です。
それではみなさん、また次回まで!
※1
サリドマイドは1950年代末から60年代初めに、世界 の十数カ国で販売された鎮静・催眠薬。 この薬を妊娠初期に服用すると、胎児の手/足/耳/内 臓などに奇形を起こす(催奇形性)。 サリドマイドの催奇形性により、世界で数千人~1万 人、日本で約千人(死産を含む)の胎児が被害にあっ たと推定されている。
参照情報
Statista
Number of residents from Japan living in Ireland from 2013 to 2022
https://www.statista.com/statistics/1083489/japan-number-japanese-residents-ireland/#:~:text=As%20of%20October%202022%2C%20more,number%20of%20the%20past%20decade.
外務省
世界の医療情報 アイルランド
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/europe/ireland.html
Irish Water
https://www.water.ie/help/water-quality/hard-water/
Food safety authority
https://www.fsai.ie/
Med Doc The Many Roles of a GP in Irish General Practice
https://meddoc.ie/the-many-roles-of-a-gp-in-irish-general-practice/
HSE Find a GP
https://www2.hse.ie/services/find-a-gp/?service_area=Dublin+6W
Citizens Information Medical card means test: aged under 70
https://www.citizensinformation.ie/en/health/medical-cards-and-gp-visit-cards/medical-card-means-test-under-70s/#543929
Citizens Information GPs and private patients
https://www.citizensinformation.ie/en/health/health-services/gp-and-hospital-services/gps-and-private-patients/#:~:text=GPs%20are%20usually%20part%20of,or%20charges%20for%20GP%20services.
Irish Life Health Understanding the health care system in Ireland
https://www.irishlifehealth.ie/IrishLifeHealth/media/Irish-life-Health/ilh.pdf
Medical Card and GP Visit Card National Assessment Guidelines
https://www.hse.ie/eng/staff/pcrs/medical-card-and-gp-visit-card-assessment-guidelines.pdf
HSE / Medical Card and GP Visit Card / National Assessment Guidelines
https://www.hse.ie/eng/staff/pcrs/medical-card-and-gp-visit-card-assessment-guidelines.pdf
National Social Inclusion Office
https://www.hse.ie/eng/about/who/primarycare/socialinclusion/about-social-inclusion/translation-hub/mobile-health-apps/
厚生労働省
薬害を学び再発を防止するための教育に関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000rwbu-att/2r9852000000rwkk.pdf
Communicate Your Health mobile apps: Accessible resources for health care staff
https://www.hse.ie/eng/about/who/primarycare/socialinclusion/about-social-inclusion/translation-hub/mobile-health-apps/
webdoctor.ie
https://www.webdoctor.ie/
Medihive
https://www.medihive.com/
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