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【創作小説】クエスチョン・アーク|Ep.1 Cello

私は絵を描くとき、嘘をついてはいけない、という感覚に陥ることがあります。どうにも、目で見えたものをなるべく正しく再現しなければいけないと考えてしまう性格のようで、それが到底無理なことであるという想像が働くと、途端に何かを描こうという気が失せてしまうのです。(それは脳裏に浮かぶイメージについても同様です。)

絵画というものは、一度に大量の情報を伝えられるため、それを描くのも大変なことなのではないか、というような考えが生まれたのですが、それはどんな作業でも同じこと・・・という結論に至りました。
どこまで編んだかを確認しながら進んでいく編み物のように、また一列ごとに糸を編んでいく機織りのように、文字であろうと色であろうと、地道に少しずつ編み上げていく創作の世界は、全体像が見えてくるまでに時間がかかるものですが、そのような仕事は私のように変化に敏感な人間には合っているのかもしれません。

私が白昼夢の中で初めて出会ったのは、チェロ、という青年でした。今日はその時のことをお伝えしましょう。(本当のところ、チェロをはじめとした彼らの存在に、年齢という概念はふさわしくないのですが、イメージとしてそういう風にしておくのがちょうどいいと感じたのです。)
私が今まで歩んできた――歩いていると思っていたのです——道には、いろんな花が咲いていて、私は酸いも甘いも味わい、輝くような光に包まれるときがあったり、真っ暗闇で何も見えないときがあったりしても、それはいつかかならず終わりを迎えるもので、自分はこうして人並みに生きていくものなのだ、と感じていたものでした。

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1,276字

現実と虚構の狭間で見るイメージを紡ぐ、哲学系幻想小説。

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