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【ドラマ感想】各種実写化のお手本となる作品を観た【The Last of Us】

【はじめに】

 ⚠️この記事には、ドラマ版『The Last of Us』のネタバレを含みます。
 同名タイトルゲームはPS4リマスター版と続編をプレイ済み。感想noteもそれぞれあります。


【感想】

⭕️実写化のお手本のような作品
 原作のネームバリューを借りて、自分の伝えたいことややりたいことを前面に押し出しがちな監督や役者や制作陣は、ドラマ版ラスアスの制作陣の作品への向き合い方をみてほしい。いくつかゲーム版との相違点はあるが、DVD収録の制作裏話を見るとそれが理にかなったものであると伝わってくる。
 特にメインキャラクターではないキャラクターの行動に動機を持たせる設定づけが丁寧だったように感じた。

⭕️名シーンは何もかもそのままに
 5話のヘンリーとサムの最期、6話のジョンソンでのジョエルとエリーの本心、9話のキリンの群生など、ゲームで印象に強く残るシーンはゲームのムービーそのままに映像化されている。変えたい、掘り下げたいところと、変えるべきではないところの選択が絶妙だったと思う。

⭕️キャラクターの掘り下げ
 顕著に見られたのはやはり3話のビルとフランクのブロマンスだろう。ゲームではあまりにも悲しすぎる別れをした二人だが、ドラマ版ではあまりにも美しく愛に溢れ、そして切ないドラマが繰り広げられる。もともと配信当時に噂で3話の出来が素晴らしいことを耳にしていたが、ここまで魅入られる話になるとは予想だにしなかった。
 ジョエルの額の傷が、サラを失った絶望による自殺未遂のものだったり。エリーも免疫は、生まれる寸前に母親が噛まれたことによるものだったり。マーリーンがエリーにこだわる理由は、免疫持ちだからというだけではなく、長年共にした友人の子であり、その友人を手にかけたのは他ならぬ自分であるという自責の念だったり。ドラマ版で語られる新たな設定と新たな真実が丁寧に埋め込まれていた。
 各キャラクターについては後述する。

⭕️随所に散りばめられたゲームアイテム
 5話でヘンリーたちと地下トンネルを歩むときに通る地下コミュニティの痕跡、6話でエリーたちを遠くから眺める女の子の姿、そして何よりキラリ(馬)。ゲームのメモやラスアス2で見かける情報が散りばめられている。特に地下コミュニティの手記は厳しい現実の話だったので強く印象に残っている。

⭕️余計な追加エピソードがない
 DLCの遺されたもの(エリー過去編)もほぼ一話まるまる使ってくれた、時系列も合わせてくれた、優しい。
 ラスアスはあのジョエルの「誓うよ」で物語が幕を閉じるのが作品の美しさを引き上げていると思うので、実写化するからといってマルチエンディング化したり、エンドロール中にエピローグ風のカットを入れたりしていなくて好感度が高い。余計な追加設定をして収集がつかなくなるより、原作を準拠したところを大きく評価したい。

⭕️ゲーム版キャストの起用
 ゲームにおけるトミー役は革命軍の側近、ジョエル役はデビットの仲間の1人、エリー役はエリーの母親にゲーム版のキャストを起用している。特にエリー役のアシュリー・ジョンソンは、ゲーム版で自分が演じたキャラクターも母親をドラマで演じるという斬新なキャスティングだった。どれも制作裏話を見るまで全く気が付かなかったけど。
 吹き替えも原作と同じ声優を起用してくれて感謝しかない。

❌感染者の登場回数が少なめ
 設定や描写の改変があったので、パニックホラー目当てや、アクションゲームとして楽しんだ人にとっては肩透かしを喰らうかもしれない。作中あんなに苦労したブローターは片手で数えて事足りるくらいしか出てこないし、胞子ゾーンは撤去されているし、感染者の地下ネットワークがあって音や刺激で迫ってくる設定が追加された。せっかく感染者の造形は申し分ないのに、見せ場がこんなに少ないのは勿体無いと思った。
 しかしブローターが人間を攻撃する時に、ゲームで散々やられた顎パカをしてくれたのはとても嬉しい。

❌最終話の駆け足展開
 エリーーがジョエルにサラの写真を手渡して、ジョエルの過去を2人で受け入れるシーンがカットされていたのは心残りである。その代わりにジョエルの額の傷に触れたやり取りがあったのだと思うが、写真エピソードも大好きだったので残念だ。あとファイアフライの病院へ向かう途中に水のあるトンネルを通るシーンがあって、無事ワクチンができたら泳ぎを教えてくれる約束をするシーンもあったと思うのだがそれもカットだった。エリーのために木の板を運んできたり、ブローター相手に火炎放射器をぶっ放したり、お互いに打ち解けた2人のやりとりが光る道中が見たかったなあ。


【キャラクターについて】

○ジョエル
 ゲーム版より父性や喪失による恐怖の表れがわかりやすく感じた。またプレイヤーとして動かしているとスルーしがちだったが、しっかり怪我をするし、殴ったら拳が血だらけになる。
 サラをはじめ、愛するものを失うことに対する恐怖が如実に描かれていた。特に、喪失を想像して体に異常がでたり、ジャクソンでトミーにエリーを託そうとする時には声を振るわせながら懇望する。
 プレイヤーとして動かしている時には気づきにくかったジョエルの心の動きが大事にされていると感じた。

○エリー
 出生や訓練生時代、マーリーンに捉えられてからなど、ゲームでは語られなかったところがたくさん出てくる。しかし描かれるのはわたしがよく知っている、強気で誰も信じられなくて口が悪くてダジャレが好きで、もう1人きりになんてなりたくない、あのエリーだった。
 エリーと銃の関係も好きで、ジョエルと離されるまでは銃への憧れが強かったが、4話でジョエルのピンチに引き鉄を引いた後に涙を流していたり、背中のベルトに挿そうとしてジョエルに「鞄に入れとけ、ケツが吹っ飛ぶぞ」と言われていそいそとパーカーに入れ直していたり、最終話ではジョエルに「ちょっと持っててくれ」と言われてて渡されるようになったり。銃とエリーの距離感は、ジョエルとエリーの距離感を表す。
 デビットに捉われた時、「我々は似たもの同士だ」とデビットに諭されていたが、その観点は今にして思い返すと腑に落ちる。訓練生時代のシーンでも偉い人に素質があると言われていたのも繋がっている。

○ビルとフランク
 ゲームではフランクからビルへ、ドラマではビルからジョエルへ手紙が遺されていて、作中最も意外でそして丁寧な掘り下げのあったキャラクターたちだ。ゲームがあまりにも悲しい別れ方だったのに対し、ドラマでは一瞬一瞬が肖像画のように美しい。ED曲もビルが作中でピアノ弾き語りしていた曲だった。
 フランクの特に好きなシーンはベッドシーンに入る前の「僕は体を金で売ったり、食事のお礼を体で払うような男じゃない」と前置きしてくれるところ。サプライズでいちご畑を作ってくれてビルと一緒に収穫して感動してくれるところ。そして最後の選択は言わずもがな。最後の1日は特別な日じゃなくて、いつもと同じ1日だってところがいい。ビルの料理も最初に振るまったものと似た料理(同じ?違うかも?)を最後に出してくれるのもとてもロマンチックだった。

○サム
 年齢を下げ、耳が聞こえないというこの世界では不利にしか働かない設定を追加された。サムは何をするにもヘンリーを頼らざるを得ないし、ヘンリーはサムに頼られているという実感のもと共依存かもしれないと感じた。
 ゲーム版サムの「感染者に心があると思う?」の問いが好きで、ここまで設定を盛られてしまうとその問いまで届かないのではないかもと懸念があったが杞憂だった。サムの噛み跡にエリーが自分の血を塗るシーンの追加はかなり好き。

○デビット
 もう登場当初からトラウマが蘇ってきて恐怖感が強かったが、こちらはこちらでかなりタチが悪い。聖書の教えを説いている人間が「神なんていない。ツキもない。全ては運命だ」と言っているのを見せられて、あの街がいかに歪な生活の上に成り立っているのかが見せつけられた。
 カニバリズム描写は直接的な表現は避けられたものの、耳だけが落ちていたり、保管場所に吊るされた肉の形が人間のソレだったり、露骨に理解しやすくなっていると思った。おそらくデビットの元にいる大人たちはみんな気づいて口にしているんだろうな。
 デビットはカリスマ性で支配するというより、恐怖と信仰で生に縋り付く人間たちを操っている。フィクションにおけるこういった類の廟者や設定はかなり好きなので、恐怖と同じくらい引き込まれる要素であった。

○マーリーン
 エリーの出自が明らかになったことで、さらに行動原理が理解できなくなった。親友の子供を抱き上げて、その母親を殺すしかなかった→脱走訓練生を保護して免疫持ちだと知る→ワクチンを作るにはその子を殺すしかないから殺す。殺す選択に至ったきっかけやターニングポイントはなに?


【お気に入りシーン】

⭐️菌に着目させる誘導
 感染者の設定変更に伴い、物語の頭にワイドショーのような番組の切り抜きをいれたり、パンデミック前の細菌学者のしたい解剖で蠢く菌糸を映したり、ジョエルに菌糸の確認をさせたり。極め付けはOPムービーと、視聴者の目線を菌に着目させる描写が織り込まれていた。感染者が生きたネットワークを持ち、刺激を与えると1キロ先の感染者をも引き寄せてしまうのは、胞子ゾーンを取り除いた代わりに、物語を一気に動かしやすい新たな設定だと思う。

⭐️愛の形
 フランクがテスを連れて家を案内する時、残されたビルとジョエルの会話の中で、ビルがジョエルとテスの関係を“相棒”と称する。男女が一緒にいるだけで勝手に恋人と決めつけることなく、対等な存在と言ってくれるシーンが好きだ。
 また、ビルの残した手紙をエリーが読み上げるシーンで「テスを守ってやれ」の一文が読めずに詰まるシーンも好きだ。あの議事堂でのテスの選択を見て、ジョエルにもテスの話はするなと言われたばかりであり、さらにジョエルの知人であるビルの遺書にその名が書いてある。手紙を取りその一文を目にしたジョエルが一人庭に出て、エリーのこと思ったのか、テスの事を想ったのか、ビルの最後を考えたのか、想像は多岐にわたる。

⭐️失う恐怖
 数ある困難や障壁を超えて、あれだけ拒んでいた銃を預けられるまでに信頼を築いたジョエルとエリー。雪小屋に住む老夫婦に銃を向け、ジャクソンの情報を聞き出そうとするシーンが好きだ。初対面の老婆が見てわかるほど、失うことの恐怖や不安が表に現れてしまうジョエル。この辺りからその感情が体にも現れ始めるが、エリーはその症状がエリーを思った故の症状であることに気づかない。あんなに過去に囚われて自殺未遂までしたジョエルが、エリーと出会って共に歩む未来を思い描いて、それを失うことに恐怖を感じるなんて。
 「エリーはジョエルがいれば怖くないが、ジョエルはエリーがいると怖い」「人は誰かや何かを大事に思った時に失うのが怖くなる」この言葉たちが制作側から出てきた時、ちゃんと作品を大事に思って作られたことを再認識した。

⭐️エリー奪還中の武器変更
 ゲーム内で物語の終盤にやっとサブマシンガンが手に入るのだが、ドラマでもエリーのいる手術室に向かう途中でしっかり武器変更していて感動した。あのパートは本当に苦戦したのでよく覚えている。自分もジョエルみたいな立ち回りができていればなあ・・・・・・


【まとめ】

 本当によくできた実写作品だった。ゲーム版をクリアした時に書いたnoteと見比べてみると、変更点や削除されたシーンがちらほら見えてくる。しかし、物語の大事なシーンはそのままに、そして時には明確な理由を持つ改変を加え、エンディングには余計な手を加えない。本当に実写版のお手本のような作品だった。
 ゲーム未プレイでも十分楽しめるし、DVDに収録された制作裏話も見れば、ゲームにもより興味を惹かれると思う。
 すでにプレイしている人には、印象深いシーンをあの時のまま鮮やかに想起させ、あの時自分がどうプレイしてどう感じたかを懐かしむことだろう。苦戦したシーンなら尚更だ。

 シーズン2の制作も決定しているらしい。ゲームも賛否両論きっぱり分かれるラスアス2は、繊細な描写が多くあるので、正直にいうとちょっと怖い。でも楽しみにしています。

【参考】

吹替版予告編🔽

独占配信U-NEXT URL (タイトル画像引用元)

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