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厚労省SIDS予防啓発リーフレットのこれだけはマネしないで!

2022年10月21日厚生労働省が赤ちゃんの睡眠中の死亡事故予防に関するプレスリリースを行いました。
毎年11月は「乳幼児突然死症候群(SIDS)」の対策強化月間に位置付けられており、例年通りの発表です。

睡眠中の事故防止はとても大切なのですが、1点だけリーフレットのマネをしてほしくないことがあります!
※乳幼児突然死症候群(SIDS)についてはこちらをご覧ください。

■ 掛け布団は使わないで!

以前、「寒くなってきたので、赤ちゃんに掛け布団を使っていいですか?」でもお伝えしましたが、特に1歳以下の赤ちゃんには掛け布団を使用しないでください

厚生労働省報道発表資料(令和4年10月21日)より

厚生労働省が公表した最新のリーフレットの2枚目中段に「掛け布団は軽いものを使いましょう」とありますが、絶対に使わないでください。
枕も危険なのでベビーベッドの中に置かないでください。

生後6~7ヵ月の乳幼児健診で「ハンカチテスト」を行います。
ご存じの方も多いかと思いますが、このテストでは顔に布(うちはタオルハンカチでした)をかぶせて自分の手で払いのけるられるかをチェックします。
つまり、生後6ヵ月より月齢の低い赤ちゃんは顔に布が覆いかぶさっても自分で払いのけることができない可能性が高いということです。

寒さが心配なときは、暖房機器や厚手のパジャマ、スリーパーを使用して調整してくださいね。
窒息による事故を防ぐため、ベビーベッドの中には何も置かないでください
ベビーベッドをより安全な寝床にするためにはこちらの記事も読んで実践してください。

■ 厚生労働省の興味深い質疑応答

プレスリリース資料の下段には「乳幼児突然死症候群(SIDS)について、よくあるご質問」が記載されています。
少し長いのですが引用します。

【乳幼児突然死症候群(SIDS)について、よくあるご質問】

■質問1:赤ちゃんが睡眠中に寝返りをして、うつぶせ寝の姿勢になった場合は、赤ちゃんを再びあおむけ寝の姿勢に戻す必要がありますか?
●回答1:寝返りは、赤ちゃんの成長にとって重要で自然な発達過程です。SIDS のリスクを減らすために重要なのは、寝返りができるようになったら、眠り始めるときにあおむけ寝の姿勢にしてあげることと、寝返りをした時に備えて赤ちゃんの周囲に柔らかな寝具を置かないようにすることです。なお、米国小児科学会によると、赤ちゃんがあおむけからうつぶせと、うつぶせからあおむけのどちら側からでも自分で寝返りができるようになったら、その姿勢のままにしておいてよいと言われています。

■質問2:赤ちゃんをあおむけ寝の姿勢にした場合、赤ちゃんは唾液や吐乳などによって窒息しませんか?
●回答2:健康な赤ちゃんであれば、通常、反射により飲み込んだり、咳(せき)をして吐き出したりします。米国国立衛生研究所によると、赤ちゃんはあおむけ寝の姿勢の方が、飲み込んだり吐き出したりしやすいのではないかとも考えられています。ただし、病気などで医療機関を受診中の赤ちゃんについては、医師の指示に従ってください。

■質問3:赤ちゃんの睡眠について、SIDSの他にも気をつけることはありますか?
●回答3:睡眠中の窒息事故にも注意が必要です。注意ポイントとしては、大人用ベッドではなく、できるだけベビーベッドに寝かせ、転落しないように柵は常に上げ、赤ちゃんの頭や身体がはさまれないよう、周囲の隙間をなくしましょう。また、鼻や口がふさがれないよう敷布団・マットレス・枕は赤ちゃん用の固めのものを、掛け布団は払いのけられる軽いものを使い、よだれ掛けなど首に巻き付くものは置かないようにしましょう。

厚生労働省報道発表資料(令和4年10月21日)より

質問1と質問2では米国の知見を引用しています。
ちなみに、私自身も米国小児学会が2022年に発表したガイドラインを参考にアドバイスしています。

しかし、質問3については引用に関する記載はなく、独自の見解を示しています。
米国小児学会はベビーベッドの中に枕やぬいぐるみ、毛布などの柔らかいものを置かないように注意喚起しているにも関わらずです。

しかも、消費者庁の調べによると2010年から2014年までの約5年間に起きた0歳児の就寝時の窒息事故118件のうち、「掛け布団等の寝具が顔を覆う・首に巻きつく」ことで死亡したケースは17件にのぼります。

実際に窒息死亡事故が起きているにも関わらず、誤った知識を啓発するのはどうしてなのでしょうか。

■ ここからは私の推論です。

最初にお断りしておきますが、ここからは公開されている情報をもとに私が勝手に思いをめぐらせたことになります。

まず、このリーフレットの根拠は何なのでしょうか。
厚生労働省のウェブサイトを見てみると、乳幼児突然死症候群(SIDS)に関するページがあります。
ページ下段の「参考」のところに、「平成9年度厚生省心身障害研究『乳幼児死亡の防止に関する研究』総括研究報告 」が添付されています。
これは厚生労働省管轄機関の研究員の方が執筆、編集したものです。

説明がないので、この研究報告書の役割は不明です。
内容を見てみると「乳幼児死亡の防止に関する研究」において、「SIDSはうつぶせ寝、母乳栄養でない児、両親の喫煙により3.00~4.83倍多く発生すると結論された」とあります。
この結論はリーフレットの1枚目と内容が合致するので、これをもとにリーフレットが作成されたと思われます。
残念ながらリーフレット2枚目については、公表されている資料から読み取ることはできませんでした。

ここからは完全に邪推ですが、公開されているのは資料の原本ではなく、パンチで穴をあけた紙資料です。しかも最初の数ページだけ。
急いでいたのか、何か理由があったのか。。。気になりますね。とっても。

もし、この推論が正しいと、平成9年度の研究から情報がアップデートされていない可能性があります。
若いママさん、パパさんだと生まれる前の話ですよね。

この四半世紀で赤ちゃんを取り巻く生活環境やベビーグッズ、医療事情は大きく変わっています。
乳幼児に関する研究が少ないのは理解していますが、このままでいいのでしょうか。

米国小児学会は約5年毎にガイドラインを更新しており、直近は2022年に公表しています。
方針が大きく変わるわけではありませんが、私は米国小児学会の最新資料を確認し、情報をアップデートしてみなさんに発信しています。

それにしても、日本国内に頼れる情報源がないのは日本人として非常に悲しいですね。


赤ちゃんの睡眠時の安全に関連する記事はこちらにまとめています。
ぜひ、ご一読ください。

【関連記事まとめ】赤ちゃんが寝ているときにいのちを守る方法


参考文献

 『ママと赤ちゃんのぐっすり本』 愛波 文 著
 厚生労働省報道発表資料(令和4年10月21日)「11月は『乳幼児突然死症候群(SIDS)』の対策強化月間です
 厚生労働省「乳幼児突然死症候群(SIDS)について
 消費者庁「子供の事故防止に関する関係府省庁連絡会議(平成28年11月2日)
 Rachel Y. Moon, Rebecca F. Carlin, Ivan Hand, THE TASK FORCE ON SUDDEN INFANT DEATH SYNDROME AND THE COMMITTEE ON FETUS AND NEWBORN; Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2022 Recommendations for Reducing Infant Deaths in the Sleep Environment. Pediatrics July 2022; 150 (1): e2022057990. 10.1542/peds.2022-057990


  • 赤ちゃん及び保育者(ママ、パパ)に関して不安や心配がある場合は、医師等の専門家に相談しましょう。

  • 本記事の内容については注意を払って記載していますが、アドバイスを実行する際は読者の方の判断で行ってください。


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