ベーコン、ポークビッツ、しらす干し、明太子、ミニトマト。


同居介護において優先されるべきは?

同居家族の意向、それとも同居『外』家族の意向、どちらだと思いますか?

2022年4月、我が家が義母と同居する前日。
その夜、義父母と義姉(次女)は、義姉(長女)の家に宿泊することになっていた。
義姉(次女)から夫に電話がかかってきたのは18時過ぎ。
「おかあさんの荷物がたくさんあるから、今から取りに来れる?」
夫はこれを断った。夜勤を約4時間後に控えていたからだ。
こんな土壇場に打診されて、往復1時間を割くような時間の余裕は一切ない。
夜勤も含め福祉従事の経験がある義姉(次女)の理解はスムーズだった。
それでも、今日中に荷物の一部は引き取ってもらわねばならないと言う。

結果どうなったかと言うと、義姉(長女)夫婦が荷物を届けに来て下さった。
時間は、夫が夜勤の為に家を出る30分前。
荷物とは、まずはテレビ。
続いて、大きなベーコンが1つ。ポークビッツ590g。しらす干し455g。明太子12腹。ミニトマト1箱。
明日みんな揃ってうちに来るのに今日わざわざ荷物を持って来ざるを得なかった理由に納得がいった。
我が家が引越しを想定して食品ストックを減らしていなければとても冷蔵庫に入り切らなかっただろう。
つまり、義姉(長女)家の冷蔵庫に入り切らなかったのだ。
そう私が考えている傍らで、食品は全て今日買った、全て義母が選んだ、大型スーパーに行った、など、義姉(長女)夫が、夫だけにまくし立てていた。
私は、相変わらずだな、とだけ思った。
何故ならこの頃の私は彼に嫌われている可能性を一切考えていなかったから。
目を合わせない、私が声をかけても雑に会釈するのみ、私にも関わる話題を夫だけを見て話す、ずっとこの対応をされてきたから。
初めて会った時から数年間、ずっと。
もし彼が人見知りでないとすれば、無礼で非常識な人だ。
夫のことを気にかけてくれている義兄弟を否定的に思いたくない。その為に彼を『人見知り』と認識するようにしていたのだ。
義姉(長女)夫の私への態度の本当の理由は現在に至るまで分かっていない。
なので、私は今でも彼がただの人見知りであったという僅かな可能性を意識して持つようにしている。
ただ、この日の義姉(長女)の様子は気にかかった。
いつもニコニコしていて優しかった彼女の顔は強ばっていた。
私の方をチラッと見たが目は合わさず、冷たい口調でこう言った。
「息子くんは?」
荷物受け取りの間の数分だけ、とテレビを見せていた息子を私は玄関先まで連れてきた。彼女は息子に向かってだけ優しく声をかけた。
その時義姉(長女)夫は
「とにかく大変だと思う、頑張って、それしか俺には言えない」
と夫に言っていた。それを受け義姉(長女)は
「おかあさんは病気なんだから仕方ないじゃない!」
と金切り声で一喝した。そして、夫を真っ直ぐ見据えてこう言った。
「おかあさんすごく情緒不安定でかわいそうなの。だから優しくしてあげてね?」

率直に言って、腹が立った。
夜勤前の18時に『今から来い』と言われたことも、透析患者が制限されるべき食品ばかり待ってきたことも。
前回までのnoteに記載した通り、私はこの、とても短い準備期間で義母が安全に暮らせるよう、最大限整えた。
そしてこれからもそのつもりの計画を立てていた。
こんな風に無視され、冷たくされる覚えは無い。全く無い。
私が怒りを押し殺している中、息子は興奮気味に食品やテレビに手を伸ばそうとしていた。
この子はこの後寝付けるだろうか。
そして夫は夜勤に間に合うように家を出られるのだろうか。

全ての荷物を受け取り終わったあと義姉(長女)夫がこう言った。
「親父が使ってた車椅子、今車に乗せてるから、ちょっと見てよ。」
私達は夜の駐車場に足を運び、車椅子を見た。
それは小柄な女性、つまり義母が使うにはあまりにも大きなサイズだった。
問題は他にもあったのだが。
「申し訳ないけどこんな大きい車椅子はうちの車に乗せづらいな。福祉用具さんから借りられるから、そっちを使うよ。」
と言う夫に、義姉(長女)は激しい剣幕でこう言った。
「でもさ、せっかくあるんだから使ったが良くない?あるものをさ?おかあさんもね、あんまり迷惑かけたくないって、言ってるの!」

介護が必要な高齢者に適する車椅子はその時々の状態によって異なる。
だから私が勤めている高齢者施設では、状態変化に対応できるよう、様々なタイプの複数の車椅子を常備している。
在宅でそれは無理なことだ、車椅子は安い品物ではないから。
それをカバーする為にレンタルの仕組みがあるのだ。
義母は数ヶ月、ひょっとしたら数日後かも知れない、命を落とすような体の状態だ。
だから、なるべく義母の体に負担がないよう、車椅子をレンタルする予定も組んでいた。
そんな主介護者の意向も、家庭の状況もまるで考えていない、そもそも聞こうともしない、彼女の言い分に何一つ納得出来なかった。高圧的な口調にも。
そして、この瞬間、息子と私は完全に居ないものとされていた。
日が暮れた後に家の外に出るというイレギュラーに息子は爛々と目を輝かせ、あわよくば走り回ろうとしているのに。
私はそれを抱き抱えて抑えているのに。

正当な主張ならまだしも、こんな意味の分からない話の為に息子の生活リズムを乱れさせてたまるものか。
私の堪忍袋の緒はここで切れた。
その勢いで、人を必ず嫌な気持ちにさせると自信を持てる、選りすぐりの口調でこう言った。
「へぇー、フットサポートが取り外せない、アームサポートもはね上がらないタイプの車椅子なんですねー。」
私の言葉を聞くと、当然と言うべきか?義姉(長女)は私を睨みつけた。
流石の義姉(長女)夫も一瞬だけ私の方に目を向けたが、すぐに夫に目線を戻した。
「いや、車椅子って大抵このタイプよ?親父が生きてた頃、親父のケアマネさんにもらったカタログ見たことあるけど、こういうやつしかないんだよ、車椅子ってさ。」
断じて言うがそれは誤った知識である。
怒りに支配されていた私はそれを訂正しなかった。
もちろん、訂正したところで時間を無駄にしただけだっただろう。
「車椅子なんて、借りれるの?」
と、義姉(長女)が夫に聞くのが聞こえたので私は口を挟んだ。
「値段は介護度にもよりますけど」
義姉(長女)は私の言葉を遮り高らかにこう宣言した。
「じゃあ!やっぱり私は!あるものを使った方がいいと思う!」
私は会話を諦めた。

そうして彼らは帰って行った。
夫が家を出るまで、残された時間は10分ほどしかなかった。
私はまず、夫に謝罪した。
「車椅子のことであんな言い方してごめん、でも、腹が立ったから。」
夫は謝る必要はないと言った。
「姉ちゃんの態度が酷かったから仕方ないよ。大体兄さんだって何?大変になるのは俺よりあんりだって、分かるやろ。」

夫が理解してくれて安心したが、怒りは消えなかった。
義姉(長女)夫はいつも通りなので仕方がないと思えた。
しかし、とにかく義姉(長女)の態度が気に触った。
それ以上に疑問だった。
義母の安全を想って整えた様々なことが彼女を怒らせていたなんて、他人の私には全く思い至らないことだったから。

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