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初めての小説〜小説かこれ!?〜
深夜のバス乗り場には、大きなスーツケースを持った人がぽつんぽつんと集まりだしていた。何人かで集まっている人たちもいたし、ひとりで携帯電話をいじくっている人もいた。
「少し早く着き過ぎたみたいだね。」
彼女が微笑んで言うので、僕も微笑んで
「そんなことないよ。早過ぎるなんてことはない。」
と答えた。
やがて乗車の時間がやってくる。蛍光色のベストを着た細身の若い男性が、乗客のリストらしき紙を挟んだクリップボードを持ち、乗客の名前をリスト順にひとりひとり呼んでいく。スーツケースは別の蛍光色のベストの男性によってテキパキとバスの貨物収納部分に吸い込まれていく。バスは乗客を優しく包み込み、気の早い乗客は早くも寝息をたて始める。
僕たちはそんな光景を、他人事のように眺めていた。まるで、バスの中に入っていった誰かを、二人で見送りに来たみたいに。
でも本当は違うんだ。行かなきゃいけないんだ。僕たちはもうずっと一緒にはいれない。だけどそれは悪いことじゃないんだ。あんなに優しく乗客を包み込むバスが、彼らをどこか邪悪なところに連れて行くわけがないじゃないか。彼らはみんなでこれからどこか清らかで幸せな国に行くんだ。
「…そう思うでしょ?そうじゃなきゃ、救いってものがないじゃないの。ねぇ、わたしの話、聞いてた?」
彼女が僕の顔を覗き込む。僕と目が合うと、にっこりと微笑む。
「手紙ならかける気がするの。電話をするのは難しいかもしれないけれど。」
「どんな方法でもいいよ。君からの連絡を心待ちにしている。」
彼女は僕の目をじっと見つめて、それからバスに乗り込んだ。小さなパースしか持っていない彼女はほかの乗客とくらべて明らかに異質な存在ではあったけれど、温かくて優しいバスはそんなこと気に掛けないようだった。
バスは僕を一度だけ見て、不思議そうに去っていった。
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