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38 会いたい 声が聞きたい

願っていたのは たたそれだけ

(カールの交通事故の話)
 車の通る道を横切る時はいつも気を付けていたのだけれど、あの夜は雨が降っていて急いで渡ろうとしていたの。不注意だったわ。あっと言う間に車の大きな二つの光の玉に両目が釘付けにされてしまって身体がピクリとも動かなくなってしまって何も見えなかった・・・。覚えているのは草むらに身体ごとたたきつけられたことだけ。
 そのまま長い間気を失っていたみたい。全身痛くて痛くてそれで目が覚めたけれど何が起こったのか思い出せなかった。それから立ち上がろうとしたのだけれど 身体が石みたいに重たくてしかも痛くて全身ズキズキ ヒリヒリ。それに後ろ脚が一本動かなくなっていたわ。
 恐ろしいことに私は自分がどこにいるのかわからず お家の場所が思い出せなかった。ここで倒れたらもう二度と起き上がれないような気がして折れてしまった後ろの左足を引きずりながらフラフラとあちこちをさまよい歩いたわ。
 その時私が思ったことは もう一度飼い主さんに会いたい 優しい声を聞きたい ただそれだけだった。そう思い続けて歩いていたらお家の方向が見えてきたような気がしたの。何日かかったのか覚えてはいないけれど飼い主さんの顔を思い浮かべながら歩き続けたわ。そしてある日何とかお家に帰り着くことができたの。
 その時の私の姿がどんなにひどい物だったかは説明しなくてもわかって下さるわね。飼い主さんは私が帰ってきたことに涙し、そのひどい有様に涙し、大急ぎで病院で手当てを受けさせてくれたの。
そして無事に退院した時も飼い主さんはやっぱり涙を流していたわ。


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