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12 奪われてしまった日常

家族は今どこに?

 あの日もいつもと変わらぬ家族水入らずのごくごく普通の一日になるはずでした。お父さんとお母さんと他の兄弟達が川に入っている時、たまたまガーコだけがまだ草地にいたのです。親鳥が幼い子供達を身近に置いて危険から守るのは当たり前のことです。いつもはそうするのです。でもこの時は本当にたまたまガーコだけが少し離れたところにいるような状況を作ってしまったのでした。
 その時です 突然見知らぬ人間が土手を勢い良く駆け下りてきたかと思うと ガーコに抵抗する隙も与えずに頭から布の袋をかぶせるようにしてアッという間に身体をすっぽりと袋に収め、現れた時と同じくらいの速さで土手を駆け上がっていきました。ガーコは袋の中で精一杯荒びながら助けを求め続けました。お父さんとお母さんは仰天しました。大急ぎで水から草地に這い上がると羽を大きく広げて勢いをつけて土手を一気に駆け上がりわが子をさらった犯人を猛然と追いかけたのです。土手の上には広めの道路があり いつもは車が何台も走っていて危険なのですが、その時見えたのはハザードランプを点滅させて停まっている一台の車だけでした。そしてそれは両親のアヒルが道路にたどり着いたと同時に勢いよく走り去って行きました。
 もう助けを求めるガーコの声も聞こえてきません。お父さんとお母さんは途方に暮れて その場所で羽を思い切り広げると天に向かって首を伸ばし 喉のずっと奥深くから突き上げてくるような 悲痛な叫びを何度も何度もあげたのでした。

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