【曲目解説】 《コン・モート-4本のクラリネットのための-》 阿部勇一 【コンサートプログラム】


阿部 勇一(2008)
Yuichi Abe

 作曲者の阿部勇一は、1968 年埼玉県所沢生まれ。主に吹奏楽曲・ブラスバンド楽曲・アンサンブル楽曲などを手掛けており、代表曲として『沈黙の地球(ほし)~レイチェル・カーソンに捧ぐ~』(2008 年)、『ラメセスⅡ世』(1994 年)、『大唐西域記』(2022 年)などが知られている。


  冒頭部のぶつかりあう四和音が、クラリネットの音色が持つ解放感を助長し、明るく鋭敏な感覚を印象付ける。のちに続くいくつものフレーズが、生き生きと畳みかけるように展開していき、明暗の曖昧な空気を保持したまま歌いあげられる各パートのメロディは、その響きが重なり合うことによって、より一層クラリネットの音色の美しさが際立てられている。全体を通して急―緩―急の分かり易い形式で描かれており、心地の良い緊張感を保ちながら、多様な性格を持つフレーズが次々に受け渡されてゆく。

 タイトルの「コン・モート Con moto」が意味する通り、「動きをもって」「活発に」演奏されるために、要所に散りばめられた rit.や aceel.などの速度記号、フレーズ間の揺れや動きに対する感覚などからは、演奏者の解釈により様々な演奏効果がもたらされる。この曲の聴きどころのひとつである。

 管楽器の中でも際立って幅の広い音域をもつクラリネットは、どこかノスタルジーを感じさせる、明るく長閑な音色から、鋭く狂気的なパッセージ、にじり寄る不気味さまで、様々な表情をも併せ持つ。四本のクラリネットによって繰り広げられる多彩な響きと、その音色によってもたらされる空間の広がりを味わいながらお楽しみいただきたい。

執筆:透香もも

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