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絵本貝歌仙(2)


にしき貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

にしき貝
  こきまぜに いろをつくして よるかい
     にしきうらと みゆるなりけり

さま/\のかい、いずれもいつくしけれど、すぐれたるいろこそにしきならめ。おほくの人たれかみにくからん。そのうちにも、わけてたちふるまい こころをつけてゑらみに あひ給ふべし。

※ 「いつくし」は、いつくし。ここでは美しくかわいらしいという意味。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第4巻(錦介)』


いろ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

いろ貝
  いろ/\の かいありてこそ ひろはめれ
    ちぐさのはまの あまがまに/\

品ゞしなじなおほきなかにて、これをと ひろいとるなり。まに/\は、こころまかせにといふことばなり。これはあし、かれは見ぐるしとなんをつけ、きずをいふは、あしし。ものずきはおもひ/\なるべし。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第2巻(色介)』


ほらの貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

ほらの貝
  山伏やまぶしの ほらふくみねの 夕ぐれに
   そこともしらぬ すゞの うわ風

古木こぼくいわほのうたに
 かゝりくもおそろしき深山しんざんに 法螺ほうらふく行者ぎやうじやのそこともしらぬ
難行なんぎやう  苦行くぎやう をおもひつゞけたるうたなり。なにもらくなることばなし、とおもひくらべて、つとめにおこたるべからず。

※ 「うわ風」は、草木などの上を吹きわたる風のこと。上風うわかぜ

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第6巻(法螺)』


みやこ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

みやこ貝
  ともすれば こひしきかたの におゑる
     みやこがいをぞ まづひろいぬる

故郷こきやうぼうしがたし といふこゝろをよめるうたなり。げいさへあればとて、あながちにたび他国たこくをこのむべからず。たちはなれては、ゆかしさわすれがたきは、ふるさとなりとぞ。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]
ミヤコボラ
Photo by mominaina


うらうつ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

うらうつ貝
  田鶴たづさはぐ あしのもとを かきわけて
    うらうつかいを ひろひつるかな

つるのむれゐる芦間あしまかいをひろふけしきをせんによめるうたなり。かきわけてと、ちからをいれたるは、かりそめのづさみも、ふところしては、なりがたし。たゞ/\まめやかにつとむべきにぞ。

※ 「うらうつ貝」は、ウラウズガイのこと。
※ 「田鶴たづ」は、鶴の別名。
※ 「づさみ」は、手遊てずさみ。手に持って遊ぶこと、暇つぶしなどをすること。
※ 「ふところ」は、懐手ふところで。人にまかせて自分では何もしないこと。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


さたへ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

さたへ貝
  さたへすむ 瀬戸せとのいはつぼ もとめ いで
    いそしきあまの けしきなるかな

いそしきとは、いそがしきのことばなるべし。あまは海辺うみべのさもしきものをいふ。これにつけても、下ゞしもじもあけくれあしの  ほねおり  のいとまなし。たちゐにくるしきを、うへつかたは あはれとしろしめさるべきなり。

※ 「さたへ貝」は、サダエ。栄螺さざえのこと。
※ 「うへつかた」は、上つ方。上の方。
※ 「しろしめさる」は、知ろしめす。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『甲介群分品彙 [3](栄螺)』
さざえ
Photo by mominaina


千鳥貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

千鳥貝
  はまちどり ふみおくあとの つもりなば
     かひあるうらに あはざらめやは

文字もじは、とりのあしあとよりはじまれり。詩文しぶん勿論もちろんうたみちなんどこのまねひとはむだことのやうにおもへども、かきおくかずのつもりたらば、くちせざる代ゝよゝにつたへて、こゝろしるひとにもあふべし。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第2巻(千鳥介)』


すゞめ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

すゞめ貝
  なみよする たけのとまりの すゞめかい
    うれしきにも あひにけるかな

すゞめたけにとまり、ひとまことにとゞまる。それもさはがしきときは、いかにせん。かゝるおさまれる御代みよなればこそ、忠孝ちうこうのおしへにをまかせはべるは、げに/\うれしよろこばしとなり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第11巻(雀介)』


いた屋貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

いたや貝
  あやしくも うらめづらしき いたやがい
    とまふくあまの ならひならずや

金殿きんでん 玉楼ぎよくろう は、なつなつしくて、ふゆあたゝかなれども、末ゞすへずへはあつきにつけ、さむきにつけて、くるしみおほし。笛竹ふえたけのほそき、たるき、あしのにていへをふきたる賤家しづがやのいぶせさ、このうたにて見るべし。

※ 「とまふく」は、とまく。すげかやなどを粗く編んだむしろ(=とま)で屋根をくこと。
※ 「賤家しづがや」は、農家や漁師などの家のこと。
※ 「いぶせ」は、ここでは、貧しくみすぼらしいという意味。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第4巻(板屋介)』
イタヤガイ(板屋貝)

イタヤガイの放射肋ほうしゃろく垂木たるきのように見えますね。

Photo by mominaina


あこや貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

あこや貝
  あこやとる ゐがいのからを つみおき
      たからのあとを みするなりけり

からを見て をしるならひなし。おきたることにて そのひとのおこなひしるゝなれば、いさゝかのわざもつゝしみ給ふべきなり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第4巻(アコヤ介)』


あわび

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

あわび
  なべてよの 恋路こひぢにいかで うつしけん
     あわびのかいの おのがおもひを

なか片思かたおもひ ほどかなしきものはあらじなるは、いなおもふはならずのたとへ、あわびのかた/\となげくは、さることなり。忠臣ちうしん賢人けんじんにあわぬいかばかりにや。

※ 「いなおもふはならずのたとへ」は、なるいやなりおもうはらずという諺のこと。実現することは気に入らない一方で、思いを寄せるものはうまく行かないことの喩え。

あわび
Photo by mominaina


かたし貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

かたし貝
  我袖わがそでは いつかひかたの かたしがい
    あふてふことも なみにしほれて

あわびよりまさりてかなしきは、ふたつありたるかいがらのかたしとなりたる 残花ごけやもめならん。よく/\こゝろたゞしく、うきのおそれあるべし。

※ 「かたし貝」は、二枚貝の貝殻が離れて一枚(片側だけ)になったもののこと。
※ 「ひかた」は、干潟ひがた

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


うつせ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [2]

うつせ貝
  なみのうつ みしまのうらの うつせがい
    むなしきからに われやなるらん

波風なみかぜのはげしさには、いのち もむなしくなり はつべきやとなげきたり。世界せかいさとりて、いよ/\そのをうしなふべからず。

※ 「うつせ」貝は、 中が空になった貝がらのこと。うつせ貝、うつせ貝。
※ 「はつべき」は、果つべき。ここでは死んでしまうという意味。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『六々貝合和歌


※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『六々貝合和歌』『小倉百人一首 明治新刻』『貝尽浦の錦 2巻 [1]』『貝尽浦の錦 2巻 [2]』『目八譜15巻【全号まとめ】』『甲介群分品彙【全号まとめ】』『日本介譜 1-5【全号まとめ】

筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖