【絵本野山草】(16) 銭葵／びやう柳／くはん草／紫陽花／山紫／秋葵

2024年8月17日 10:41

銭葵ぜにあふひ

小葵こあふひ、兎葵ときひ。葉形かたち、戎葵からあふひに似たり。然しかれども丸し。花、大をゝきさ銭ぜにのごとく、桜草さくらさうの花に似にたり。いろ白有。うす紫有。うす紅有。高さ三四尺ばかり。但たゞし、花は、はのあい／＼より出いで、葉見事なるもの也。四五月あり。

びやう柳

金糸柳。花、黄色にして、桃もゝのごとく、しべ、黄きにして糸いとのごとし。葉、長じて柳やなぎのごとし。又、木細ほそふして、糸いとのごとし。葉は両方に封ほうず。たてに延のびず、地ちにはふ。

金絲きんし桃花たうはな如　レ桃ももの。而心しんに有あり　二黄鬚きなるひげ　一。鋪ふ　二散さんす花外くはぐはいに　一若ごとく　二金絲きんしの　一然しかり亦また似にたり　二根下ねのした劈つんさき開ひらくに　一。分わかつて　レ種たねを三四月花はな開ひらく。

※ 「びやう柳」は、美容柳びようやなぎ、未央柳びようやなぎ。

くはん草

花いろ、紅うこん、かたち、ゆりのはなのごとし。葉すけに似て大し。花三月。

※ 「くはん草」は、ワスレグサ（忘れ草）の別名、萱草かんぞう。

紫陽花あぢさい

しの立、をでまりに似て、高たかさ五六尺、葉、両々りやう／＼對たいして似にたり。又、かたちは、桜さくらに似にて、こまかなるきざみ有。花あつまり咲さく。牡丹一りんの大さ、をでまりのごとし。又、大小有。葩はなびら四枚まいにして、大だいは色白、中はあさぎ、小せうは紫にして青せい也。又、色白有。うす紅有。黄あり。四五月はなひらく。

※ 「をでまり」は、おおでまり（大手毬）のことと思われます。
※ 「あさぎ」は、浅葱あさぎ。

山紫やまむらさき

小しきぶの木に似て、枝しだれて、花は少すこしきなり。五つはなびら。四五月咲。秋実み有。色、藤紫ふぢむらさきふさのごとく、葉、皆みなよめなのごとく相むかひつく。

※ 「小しきぶ」は、小式部こしきぶ。
※ 「よめな」は、嫁菜よめな。

あき葵

一名、かうぞ。又、とろゝ草ともいふ。花のかたち五月葵に同じ。葉のかたち、とりかぶと、あるひは、あさのはのごとく、ほそ長し。葉に大小有。大は一尺余よ、又、莖くき長く、はこはくとがり、又、のこぎり有もあり、なきも有。但たゞし、形かたちすさましきもの也。花、黄白くして、そこにこき紫のきほひ有。中のしん、ふように同じ。花にふくろ色その外に五の臺うてなからむ。秋の葵あふひといへども、夏なつの土用どようより七八月までさく。高六七尺ばかり。

葵の種類しゆるい多をゝし。花黄なるを蜀葵しよくきと云。花の小なるを銭葵、或は、から葵と云。花、赤きを紅青いと云り。

傾かたぶく　レ日ひに。『説文せつぶん』黄葵つねに葉をかたぶけて、日に向て其根をてらさず。日向葵を云か。□もる　レ足あしを。左傳さでんに葵あふひ、猶なを能よく □もる　二其足そのものとを　一と云り。

※ 「はこはくとがり」は、葉は強こわく尖とがりと思われます。
※ 「説文」は、後漢時代の漢字辞書『説文せつもん解字かいじ』のこと。

秋葵しうき、一名いちめいは黄蜀かうそ葵。『説文せつぶん』黄葵わうき、常つねに傾かたぶけ　レ葉はを向むかふて　レ日ひに、不ず　レ令しめ　レ照てらさ。其その根ねを虞絮ぐじよ □ 渥かんあく各をの／＼有あり　レ賦ふ。花はな　將まさに　レ落おちんとするときに以もつて　レ筋はしを取とり浸ひたし　二菜油さいゆう内のうち　一治ぢする　二湯火瘡たうくはさうを　一。甚はなはだ妙めう也。

集解
禹錫うしやく曰がいはく、黄蜀葵くはうしよくき近道きんだう處處しよ／＼有あり　レ之これ。春はる生しやうず　レ苗なへを。葉は頗すこぶる似にて　二蜀葵しよくきに　一而葉は尖小せんしやう多をゝし　二刻缺こくけつ　一。夏なつの末すへ開ひらく　レ花はなを。浅黄色せんくはうしき六七月採とりて隂かげ　二乾ぼしにす之これを　一。

宗■そうせきが [■は奭+一] 曰いはく、黄蜀葵くはうしよくき與と　二蜀葵しよくき　一別種べつしゆ、非あらず　二是これ蜀葵しよくきの中うち黄きなる者ものに　一也。葉心ようしん下したに有あり　二紫檀色したんしよく　一。摘とり下くだし剔散てきさんして日　二乾ほす之これを　一。

※「集解」は、解釈を多く集め、まとめること。集解しゅうげ。
※ 「禹錫」は、唐時代中期の詩人・政治家、劉りゅう禹錫うしゃく。

筆者注　●は解読できなかった文字、□はパソコンで表示できない漢字を意味しています。
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