見出し画像

職人尽歌合 62~71番


六十二番 祢宜 対 かんなぎ

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

祢宜
 たかまの原に 神とゝまり
 ましまして ます

かんなき
 榊はや たちまふ袖の 追風に

※ 「祢宜ねぎ」は、神職の総称。とくに、宮司ぐうじ権宮司ごんぐうじを補佐する神官のこと。
※ 「たかまの原」は、高天原たかまのはら。たかまがはら。
※ 「神とゝまりましまして」は、神とどまりしまして。
※ 「かんなき」は、かんなぎ。巫女のこと。
※ 「榊は」は、榊葉さかきば。神に供える榊の葉のこと。
※ 「たちまふ」は、立ち舞ふ。


六十三番 競馬組 対 相撲取

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

競馬けいはくみ
 むかしは 上さまにも もてなされし事の
 今は 此氏人のみ のこりて

相撲取
 道のおもひてに
 すまふの節に めされはや

※ 「競馬けいはくみ」は、けいばぐみ。賀茂祭などの競馬に出仕した組の人のこと。
※ 「おもひて」は、思い出。
※ 「すまふの節」は、相撲の節。宮中で行われる相撲観覧の儀式のこと。


六十四番 禅しう 対 律家

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

禅しう

 文字の上にをきては 御不審たつへからす
 若如何とならは 口をひらかすして
 とひきたれ

律家りつけ

 きうげ別伝と申候は
 なとや 祖師とは 仰候そ

※ 「禅しう」は、禅宗。
※ 「律家りつけ」は、りっけ。律宗の僧や寺院のこと。
※ 「きうげ別伝」は、教外別伝きょうげべつでん。禅語のひとつで、悟りは言葉や文字で伝えられるものではなく、直接心から心へと伝えるものであるという意味。
※ 「祖師」は、仏教において、ひとつの宗派を開いた人。


六十五番 念佛宗 対 法花宗

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

念佛宗ねんふつしう
 即便往生も たうとく
 往生も 只一たひ 南無ととなふれは
 極楽に生 なにのうたかひかあらん
 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏

法花宗はつけしう
 末法まんねん よ経しちめつの時
 此 妙法花と申候は
 我らか 祖師日蓮上人の御時
 くれくれとかれ候時は

※ 「念佛宗」は、念仏によって極楽浄土に往生することを求める宗派のこと。浄土宗、浄土真宗、時宗じしゅうなど。
※ 「たうとく」は、尊く。
※ 「即便往生」は、仏語のひとつで、念仏行者が死の瞬間に、時をへだてずしてただちに極楽浄土に往生するという意味。
※ 「只一たひ南無ととなふれは」は、ただ一度ひとたび南無なむとなうれば。
※ 「なにのうたかひかあらん」は、何の疑いかあらん。
※ 「法花宗はつけしう」は、法華宗。
※ 「末法万年」は、釈迦の入滅後、正法しょうぼう像法ぞうぼうを経たあとの一万年間で、悟りと正しい行いがなくなった状態になるという最後の退廃期のこと。
※ 「よ経しちめつ」は、余経よきょう悉滅しつめつ
※ 「妙法」は、仏教において深遠微妙なる法、教えのこと。とくに、法華経を妙法という。
※ 「妙法花」は、妙法華。
※ 「祖師」は、仏教において、ひとつの宗派を開いた人。
※ 「くれくれとかれ」は、くれぐれかれ。


六十三番 連歌師 対 早歌謡

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

連歌師
 いまた 此折には 花か候はす候
 ※ 手元の紙には「賦山河連歌」とあります。

早歌 うたひ
 かたみに のこる なてしこの

※ 「連歌師」は、連歌の指導を職業とする人。
※ 「賦山河連歌」は、里村紹巴(安土・桃山時代の連歌の第一人者)が 刈谷城主水野氏の重臣 無仁斎むじんさい邸に招かれたときの連歌『賦山何連歌ふすやまなにれんが』に掛けていると思われます。
※ 「早歌そうか」は、中世の歌謡のひとつ。
※ 「かたみにのこるなてしこの」は、形見かたみに残る撫子。『源氏物語』の「まがきに残るなでしこを別れし秋の形見とぞ見る」に重ねているように思われます。


六十七番 びくに 対 にしう

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

ひくに

 佛弟子は 大かた みなさこそ 候へとも
 御尼衆も きけんかいといふ事は 候めるは
 我らはつとめ 行法はおなし事にて候
 させんくふうはおなし御ことにて候
 よも候はじな


 それは よも
 けうけへちてん にては 候はじ

にしう

 御ひくにも かいもんは まもらせ給ひ候
 なれとも なとか
 おんじゆをは 御やふり候そ


 我らも くわん念と申すは
 さにてこそ候へ

※ 「ひくに」は、比丘尼びくに。仏教における女性の出家修行者のこと。
※ 「きけんかい」は、譏嫌戒きげんかい。世間から僧侶としてあるまじきと「譏(そしられる)」「嫌(きらわれる)」ことのないようにという仏教の戒律のひとつ。
※ 「させんくふう」は、座禅ざぜん工夫くふう。座禅を組んで、悟道の思いをこらすこと。
※ 「御ひくに」は、御比丘尼。
※ 「かいもん」は、戒門かいもん。戒律、または、戒律に関する教説のこと。
※ 「おんじゆ」は、飲酒おんじゅかいのこと。酒を飲んではならないという仏教の戒律。
※ 「くわん念」は、観念。


六十八番 山法師 対 なら法師

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

山法師
 わかたつそまの 月にをよふへき
 所こそ おほえね

なら法師
 もろこしの 月よりも
 見所あれはこそ
 かすかなる みかさの山とは
 よみつらめ

※ 「山法師やまぼうし」は、比叡山延暦寺の僧徒のこと。
※ 「なら法師」は、奈良法師。奈良の東大寺や興福寺などの大寺にいた僧兵のこと。
※ 「わかたつそま」は、我が立つそま。比叡山のこと。
※ 「もろこし」は、もろこし。唐土。
※ 「かすか」は、奈良の春日かすが大社たいしゃのこと。
※ 「みかさの山」は、奈良の御蓋山みかさやま三笠山みかさやま


六十九番 華厳宗 対 俱舎宗

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

華厳けごんしう
 御影供の御茶の残にて候

俱舎宗
 北斗の御祈はしめ候間
 ひまなく候て

※ 「華厳宗」は、南都六宗のひとつ。東大寺は華厳宗の大本山。
※ 「御影供みえいく」は、宗祖の忌日に御影を供養する法会のこと。
※ 「俱舎宗ぐしゃしゅう」は、南都六宗のひとつ。


七十番  楽人 対 舞人

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

楽人

舞人

※ 「楽人がくにん」は、雅楽寮うたりょうや諸所の楽所がくしょに属して楽事を享受し伝承する人のこと。
※ 「舞人まいびと」は、舞楽を舞う人のこと。


七十一番 酢造 対 心太うり

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『職人尽歌合 [2]

酢造
 あすしきかき哉

心太うり
 こゝろふと めせ
 ちうしやくも 入て候

※ 「心太こころぶと」は、ところてんのこと。
※ 「ちうしやく」は、鍮石ちゅうじゃく真鍮しんちゅうのこと。



筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖