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絵本貝歌仙(1)


すだれ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

すだれ貝
  浪かゝる ふきあげのはまの すだれ貝
    風もぞおろす いそぎひろはん

このうたこころは、浜辺はまべかいをひらふに、とやかくひまどれば、風ふきおろして、よせくるなみにさまたげらるゝほどに、はやくひろへとなり。

すだれといふより、ふきおろすといひつゞけたることばおもしろし。何事なにごとぜんはいそげのことぐさ、おもひあはせておこたるべからず。

※ 「ことぐさ」は、言草、言種。言い回し。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第2巻(簾介)』


わすれ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

わすれ貝
  三津のはま いそこすなみの わすれ貝
     わすれず見する 松がねのこえ

此うたのこゝろは、こそわすれがいなれ。松風まつかぜおとに たちたるみつのはまなれば わするゝやうもなく、そのところの貝は ひらはるゝなり。ひたすらよき名もとむべし。よき名よばるゝ人もそのじつをつくすべきいましめにぞ。

※ 「みつの浜」は、三津浜みつはま(愛媛県松山市)。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第2巻(忘介)』


梅の花貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

梅の花貝
  春風はるかぜに なみやちるけん 陸奥みちのく
     まがきがしまの むめのはながい

此うたのこゝろは、むめはなが いときけば にほひもゆかしく、おりからはるふくかぜにふきちりて まがきがしまにやと ことばゑん よくよみたり。これをいましめとすれば、やさしきにもず、女中じよちうのあら/\しきふるまひは あしゝとかや。

※ 「まがきがしま」は、曲木島まがきじま(宮城県塩竈市塩竈湾)。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第2巻(梅ノ花介)』


桜貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

桜貝
  伊勢いせうみ なみのたまよる さくら貝
    かひあるうらの はないろかな

此うたのこゝろは、さくら貝といふなみのいつくしき海辺うみべにはいとゞ相応さうおうなり。やんごとなきかたにつかへ、または、よき人につれそふならば、それにはぢらいて、かたちも こゝろも にあわしくもてなすべし。

※ 「いつくし」は、いつくし。ここでは美しくかわいらしいという意味。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第2巻(櫻介)


花貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

花貝
  えだながら うづまくなみの おらねばや
      ちり/\よする 千代ちよ花貝はながい

万物ばんもつ自然しぜん妙用めうようをよしとす。しゐて 人力じんりよく をつくし、天理てんりわたくしすることなかれとなり。はなをもおりとるときは、ちりやすしえだながらにしておらねば、なみのまに/\千代ちよさかへを見するとなり。女中じよちうだしなみもあまりつくろいすぎ ことばもたくみにつゐしやうらしきは、かへりてあしゝ。たゞ おのづからなる美形びけいありて いつはりなきこそ、千代ちよもあかなきこととぞ。

※ 「つゐしやう」は、追従ついしょう。他人の気に入るような言動をすること。こびへつらうこと。
※ 「かへりて」は、逆に、かえってという意味。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第2巻(花介)


ますう貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

ますう貝
  しほそむる ますうの小貝こがい ひらふとて
     いろのはまとは いふにやあらん

うたの心は、小貝こがいのなにたちて いろのはまとはいふにやと、うたがひたり。みめよき人、わかき人としたしむは、かねてこの心得こゝろへにて、よそにうたわれ、あやしまれぬ。つゝしみあるべし。

※ ますう貝は、真蘇芳貝ますおがい。ますおうがい。
※ 「いろのはま」は、色浜いろはま(福井県敦賀市の敦賀半島東部)。
※ この歌は西行の歌集『山家集』に納められています。(汐そむる ますほの小貝拾ふとて 色の濱とは いふにや有らん)
※ 『日本歌学全書 第8編』の解説によると、「ますほ」は「まそほの転にて、真赭の義なり、赤黄色をいふ」とあります。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第2巻(真蘇枋介)』


むらさき貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

むらさき貝
  むらさきの 貝よる浦の 藤がたは
     波のかゑるぞ はなと見えへける

むらさきといへば ふぢとおもわるゝためし、つねのしなしにて、おもはぬいひかけにもあふことあり。ひと李下りかかんむりのふだんが大事だいじぞとしるべし。

※ 「しなし」は、為做しなし。態度やふるまいのこと。
※ 「李下りかかんむり」は、李下りかかんむりたださず。(瓜田かでんくつれず、李下に冠を正さず)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第1巻(紫介)』


白貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

白貝
  はる/\と しらゝのはまの しらかい
     なつさへふれる ゆきかとぞ見る

しろきをみれば、雪霜ゆきしものあやしみあり。ものをうたがへば、わざはひおこる。なに事もさら/\と、とゞこほるべからず。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第1巻(白介)』


なでしこ貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

なでしこ貝
  ちしほしむ なでしこかいに しくいろは
      大和やまとからにも あらじとぞおもふ

ひとおやくせとして、我子わがこばかりをよしとおもひ、日本やまと 中華からにもあるまじと あまやかすは、おろかのこゝろ。よくてんじて 子はきびしくそだてやしなふべしとなり。


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第4巻(瞿麦介)』

※ 「瞿麦介」の瞿麦くばくは、撫子なでしこ の異名


なみまがしわ

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

なみまがしわ
  難波なにはめが 波間なみまがしわを とるほどに
    もくれ そでに つきぞ やどれる

とやかくするまに、月日つきひのたつはゆめのまぞかし。あさ起出おきいでてより夕ぐれまで、ゆだんなく それ/\のしごとあるべし。

※ 「難波なにはめ」は、難波女なにわめ

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『目八譜 第5巻(波間柏)』


きぬた貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

きぬた貝
  ちぎりおきし ころものうらの あきふけて
    うてるきぬたの かひもなかりき

そのせつは  こころやすくできんとおもふことも、おほくは ときすぎあとへなるものなり。 おんなしごと  はべつして それからそれへ 糸車いとぐるまのまわしをはやふ こころ がくべし。

※ 「跡へ」は、後方あとべ。ここでは、時間が後へおしていくという意味と思われます。
※ 「べつして」は、べっして。特に、とりわけ、ということ。
※ 「こころがく」は、心掛こころかく。気に掛けるということ。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


まくら貝

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『絵本貝歌仙 3巻 [1]

まくら貝
  ふねとむる いその浪路なみぢの まくらがひ
    かひあるゆめに あわざらめやは

こぎこいでとは、おろかのことばなり。いづれは よきしあはせにあふべし、いつまでも かゝるくろうはせまじとて、すへをたのみに 今日こんにちのうさつらさをわすれて、もの退屈たいくつすべからず。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『貝尽浦の錦 2巻 [2]


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『六々貝合和歌


※ 参考:国立国会図書館デジタルコレクション『六々貝合和歌』『小倉百人一首 明治新刻』『貝尽浦の錦 2巻 [1]』『貝尽浦の錦 2巻 [2]』『目八譜15巻【全号まとめ】』『甲介群分品彙【全号まとめ】』『日本介譜 1-5【全号まとめ】

筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖