職人尽歌合 53~61番
五十三番 葛籠造 対 皮籠造
葛籠造
茶つゝらも候 かはせ給へ
皮籠造
此かはごは 人のあつらへものにて候
※ 「葛籠」は、葛藤という植物のつるで編んだ蓋つきの籠のこと。
※ 「皮籠」は、竹や藤で編んだ上に皮をはった蓋《ふた》つきの籠のこと。
※ 「あつらへもの」は、誂え物。注文して作らせる物のこと。
五十四番 矢細工 対 藤細工
矢細工
これはちくのとて 誂られて候
箙 細工
さかづらがなくて 柳箙にする
※ 「箙」は、矢をさし入れて腰に付ける箱形の容納具のこと。
※ 「さかづら」は、逆頬。毛並みをさかさまに立てた毛皮のこと。
※ 「柳箙」は、柳の木で作った箙のこと。
五十五番 蟇目くり 対 むかばき造
蟇目くり
一尺にあまる 御ひきめは
くりにくゝて 道かゆかぬ
むかはき造
あはれ 御むかはきや
毛いろもよし
※ 「蟇目」は、射るものを傷つけないために矢の先につける木製の部品(中は空洞の卵形で、桐や朴の木で作られる)のこと。
※ 「くりにくゝ」は、刳り難く。「刳る」は、道具を使って物の内部や内側をくりぬいて穴をあけること。
※ 「むかはき」は、行縢。騎馬遠行や流鏑馬のときに、袴の上から着用して足を守る皮製の保護具のこと。
五十六番 金ほり 対 汞掘
金ほり
汞堀
※ 「汞」は、水銀のこと。
五十七番 包丁し 対 てうさい
包丁し
てうさい
砂糖まんちう さいまんちう
いつれも よくむして候
※ 「包丁し」は、包丁師。包丁を使って調理する人のこと。包丁人。
※ 「てうさい」は、調菜。料理を作る人のこと。調菜人。
※ 「砂糖まんちう」は、砂糖饅頭。
※ 「さいまんちう」は、菜饅頭。野菜がはいった饅頭のこと。
※ 「いつれもよくむして」は、いずれも良く蒸して。
五十八番 白布うり 対 直垂うり
白布うり
しろ布めせ なう
はたはりも 尺も よく候そ
直垂うり
※ 「はたはり」は、端張。物の横幅のこと。
※ 「尺」は、ここでは長さのこと。
※ 「直垂」は、中世後期から近世にかけて、武家の礼装として用いられた上下一対の衣服のこと。
五十九番 苧売 対 綿うり
苧売
ちかきほとに 又 お舟とをり 候べし
いかほとも めし候へ
綿うり
わためせ わためせ
しのふわた候ぞ
※ 「苧」は、イラクサ科の植物カラムシ(苧)の繊維を紡いで作る糸のこと。
※ 「お舟」は、苧船。苧麻を運ぶための専用船のこと。越後上布(苧麻で織られた生地)を運ぶ船も苧船と呼ばれたようです。
※ 「わためせ」は、綿召せ。
※ 「しのふわた」は、信夫綿で、陸奥国信夫郡(現在の福島県福島市)で産する綿のことではないかと思います。
六十番 薫物うり 対 薬うり
薫物うり
随分 此香とも えり調たれは
此夕くれの しめりに おもしろき
薬うり
御くすり 何か 御用候
人参 かん草 桂心も候 ぢんも候
※ 「薫物」は、沈、白檀、丁字などの香を練り合わせて作った練香のこと。
※ 「えり調たれは」は、選り 調 えたれば。
※ 「此夕くれの」は、この夕暮れの。
※ 「かん草」は、甘草。漢方薬のひとつ。
※ 「桂心」は、肉桂(シナモン)の樹皮から外皮を取り除いたもの。
※ 「ぢん」は、沈香のことと思われます。ジンチョウゲ科の香木で、漢方薬のひとつ。
六十一番 山伏 対 地しや
山伏
是は 出羽のは黒山の 客僧にて候
三のお山に 参詣申候
地しや
あら おんかな おんかな
二所 みしまも 御らんせよ
※ 「山伏」は、修験道の宗教者。
※ 「は黒山」は、羽黒山。
※ 「三のお山」は、出羽三山のこと。月山、羽黒山、湯殿山の総称。
※ 「地しや」は、地者。山伏と同じような行者の一種。
※ 「二所」は、 二所詣。伊豆山権現(伊豆山神社)と箱根権現(箱根神社)に詣でること。
※ 「みしま」は、伊豆の三嶋大社のこと。
筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖