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【小説】 一番星ってだけで、しんどいわ

 人間って、すぐ一番星に祈るやん?
 あれ、俺ほんま嫌い。
 だって、俺が金星で、「一番星みーつけた!」って言われんのは、たいがい俺やから。

 いや、荷が重いわ。しんどい。見つけんといて欲しい。
 何で星が、願い事叶えられると思うん?無理よ。そっちから光って見えるかなんか知らんけど、こっちはただの岩やから。岩に何が出来る?何も出来ひんやん。

 仮に、やで。仮に、俺がほんまに願い事叶えてあげられるとして、そんなにいっぺんにたくさんの願い事叶えて、俺に何の得があるん?ないやん。俺のつるっぱげの大地に、ぺんぺん草生やしてくれるん?くれへんやん。

 せやのに、また今日も人間は。
「宝くじに当たりますように」
1万件。全員当たったら、それはもう宝くじやないやん。
「髪の毛が増えますように」
400件。ぺんぺん草で我慢せえ。
「お母さんの化粧が薄くなりますように」
30件。無理。隠すもん増えるんやから、無理。

 俺は、リストの下方に目を移した。
「お父さんの恋が成就しますように」
1件。お父さんはシングルなんですかね。
「小宮山林蔵さんとキスできますように」
1件。小宮山林蔵っていったら、あの3枚目で髪がふさふさの、舞台俳優やな。
「妻が、小宮山林蔵を諦めてくれますように」
1件。…あ、なるほど、君たちは家族なのね。お父さんの愛しの妻は、林蔵の追っかけってわけか。

 ほお、面白いやん。その願い、叶えたろ。
 俺は、岩の一部を地球に向けて放り投げた。 
 岩は大気圏に突入して燃えながら、流れ星となって、小宮山林蔵のスキャンダルが文春に嗅ぎつけられるようにと、燃え尽きていった。

 よっしゃ、俺の今日の仕事は、これにて終わり。

 

 そして、一週間後。
 流れ星の効果は抜群で、小宮山林蔵のスキャンダルが、文春によってすっぱ抜かれた。
 【東横イン不倫〜小宮山は大宮山に〜】という見出し。ああ、可哀想な小宮山。いや、大宮山。

 これであの奥さんも、林蔵には愛想を尽かして、夫のもとに帰ってくるはずや。
 良いことをして、俺は良い気持ちだった。
 こんなことしても自分の得にはならへんのに、俺はなんて優しいんやろ。そろそろ神様も、この荒野にぺんぺん草を生やしてくれるはずや。

 さて、今日はどんな願い事が俺に届くんかな。
 今日の俺は、いつもより気分が良いで。
「宝くじが当たりますように」
2万件。はいはい。
「髪の毛が生えますように」
1000件。そっかそっか。

 そして俺は、リストの下の方を眺めた。
「お父さんの恋が成就しますように」
1件。ん?
「小宮山林蔵さんと不倫ができますように」
1件。オイ。
「妻が、小宮山林蔵と不倫しませんように」
1件。オイオイオイ。

 不倫報道のせいで、奥さんの願いが加速してるやないかい。
 だから言うたやろ、星に願いが叶えられるわけないって。
 2度と、人間の願いなんか叶えたるか。
 あほ!

(了)
1178文字

【あとがき】
 一応、星好きということもあって、 #1200文字のスペースオペラ  

に参加したかったのですが、自分の色を出そうと思ったら、こんなことに。星も、星新一も、好きなんだけどなあ。おかしいなあ。

いつもありがとうのかたも、はじめましてのかたも、お読みいただきありがとうございます。 数多の情報の中で、大切な時間を割いて読んでくださったこと、とてもとても嬉しいです。 あなたの今日が良い日でありますように!!