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【木曜日】 おばさんもじちゅは

去る土曜の深夜、娘は久々に夜泣きをした。

しかも、なんとこれまで有効だった手段が全て無効化されるという絶望的な夜泣きであり、夫→私→夫、と何度かのパスを経てようやく寝たという状態だった。

あれが開始のゴングだったのだろう。
それ以降、娘のイヤイヤがパワーアップした。

とにかく気難しい。
右から左に物を動かしただけで、「たんまんがしゅるーッッッッッ!!!!!うわァ〜右がよかったあああああ!!!!!うぇ〜、た”ん”ま”ん”がしゅるうううううううわあああああ」と叫び、顔の下半分をぬべんと伸ばし、真っ赤な顔で大粒の涙を流しながら地面を転がる。

切り替えも出来ない。
ぐずぐずぐずぐず、まあ引っ張る引っ張る。

切り替えの早かったあなたは、いったいどこへいったの?

いつもやっていること・自分の計画・自分のペース、が乱されると、とたんに怒りだす。

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そりゃあね?
こっちだって、ルーティンくらいは守ってあげなくもない。

毎朝三つ折りにする布団の中に挟まりにくるのも、正直面倒くさいけど、だけどそれをすっ飛ばして畳んでしまったが最後、「いく、しゅる〜!!!!!!うわああああああん」とこれまた鼻の下を伸ばして泣き、またその不機嫌をズルズル引っ張るので、そうならないように、毎朝「入る?」と聞いてあげる。

それくらいはする。

けどさ。あなたのペース、いくらなんでもおそすぎない?

ご飯、いつからそんなに、ねっちりこっちり食べるようになったの?

ねえ、いつから?

そんなに長いこと口の中に食べ物滞留させて、口で消化でもしてんの?

あなたがそうやってちんたらしてる間に、小林尊はカレーライス26杯食べてるよ。

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けれど本当に問題なのはここからで、お腹がいっぱいなのかなと思って、「じゃあごちそうさまね」って言って皿を下げようとするじゃないですか。

そしたらキレられるの。
「まだしゅるーーーーーッッッッッ!!!」
っていってキレられるの。

で、皿を戻すでしょ。食べないの。

なんなの?????!!!ねえ!!!????


昨日はそれで、こっちもブチギレて大きな声を出してしまい、そしたら娘ももちろんヒートアップするしで、事態は泥沼化。

「もういいよ、一生食べときな。ママは出かけるから」と匙ならぬスプーンを放り出し、夫が「午前はミーティングがないのでたんまん見れるよ」と言うので「出かける。しらん」とだけメールし、財布と鍵と文庫本を持って家出した。

こんなイライラした母親、居ないほうがいい。

それは自虐でもなんでもなく、母親の感情のサンドバックにされ続けた過去のある私にとって、厳然たる事実である。

居ないほうがいい。

その事実に気づき、自分のメンタルも軽く限界がきていることを悟り、近所の公園で保育園生、幼稚園生たちが遊ぶのをぼーっと眺めて涙する。

不甲斐ない。

思えば今日は天気もすごくいいし、早くご飯を済ませて公園にお出かけをしたかったのだ。それなのに、朝から瑣末なことでつまずき、完璧主義な自分が不満をつのらせていた部分もあったのだろう。

ひとしきり、風に吹かれながら考えて、小説を読み、また立ち上がって散歩をし、冷えた身体を温めながら、回り道まわりみちで家に帰った。

「○○ちゃん(私)、かえきた!」

はにかむような、嬉しそうな笑顔の娘に迎えられ、私は、途中で摘んできたぺんぺん草を娘に手渡した。

それから夫に事情を話したが、散歩も小説も、私の心を完全に鎮めることはできなかったのだろう。結局、夫の対応への不満もぐだぐだと吐く始末。

ああもう、自分のこの不機嫌をどう直したらいいんだ…と思ったとき、ふと、つい最近発見した、自分の機嫌の直し方を思い出した。

「…寝る」

娘の昼ごはんはやってあげるよという夫の言葉に甘えて、寝ることにした。そう、私は、寝ればだいたいのことは忘れる。根っからの鳥あたまなので、寝て起きてまで、記憶を保持しておくことが出来ない。

というわけで、仮眠をとって起きたらかなりスッキリした。

夫と娘に礼を言い、娘を昼寝に寝かしつけたら、一人リビングで甘い飲み物と甘いチョコを食べてぼーっとした。

仕事終わりの夫が「今日は宅配で寿司でも取る?」と宣ったので、ありがたく、回転寿司じゃないところの寿司を頼んだ。

もちろん、うちの夫の育児能力が高く、妻のメンタル危機への察知能力が高いことについては言うまでもない。

そんな夫から、更に神の啓示のごとく
「そういえば今週の金曜は仕事休みやで」
との嬉しい知らせが。

ありがとう夫。
ありがとう会社。

木曜だけ頑張れば…
木曜を乗り切れば土日!

…っていうね。
木曜日でした今日。



前置きが長すぎたので、今日の部分は簡単にします(フラグ)。

朝、珍しく娘より早く起きる。

というか、イヤイヤが激しくなってからの娘は起きるのが遅い。脳が発達しているのだろうか、よく寝ている。

そして起きた瞬間、「アンパンマン、ないねえ。こまったねえ」だの、「かえるも、ありがとっ!」だの、「ウインナおいしかった!」だのと唐突に喋りだす。

先日は、起きた瞬間、布団の中で「おじさぁん」と言われたものだから、さすがの私の頭も「???」で埋め尽くされた。

「…おじさん?」
「おじさぁん。ン?」
「…」
「おじさんもじちゅは、おしっこちょっぴりもれたろなんじゃですか。ズボンぬいで、ぱんちゅしゃばくで。なんだしちゅれいな」

そこまで聞いて、ようやく分かった。ヨシタケシンスケの「おしっこちょっぴりもれたろう」の一幕だ。

「おじさんもじつは、おしっこちょっぴりもれたろうなんじゃないですか? スボンをぬいで、パンツを見せてください」
「なんだキミは。しつれいな」

(ヨシタケシンスケ「おしっこちょっぴりもれたろう」)

後で夫に聞いたら、まえの晩、たしかにその箇所を何度も読むようにせがまれてはいたものの、諳んじれるようになっていたのは知らなかったとのこと。

夢の中で暗記していたのだろう。

にしても、なかなかシュールな場面をチョイスしたものだ。本を開いてそのページを読んでやるとケラケラ笑うし、どうやらこれが彼女のツボらしい。ママと一緒だね。

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話がおじさんのパンツにずれてしまった。今日の朝に戻そう。

1万年ぶりに娘より早く起きた私は、洗濯機を回し、最近のマイブーム「オガトレ」をした。

(最近この方の、「肩甲骨ストレッチ」と「ハムストリングスストレッチ」と「骨盤ストレッチ」を風呂上がりに毎日していて、それがとても良い)


優雅かよ。

というのも、昨日、娘のイヤイヤグレードアップに面食らい心の余裕を失ってしまったので、今日は心に余裕を持って、爽やかな気分で娘を迎えようと思ったのだ。

果たして、ほどなくして起きてきた娘は今日も朝ごはんをねっちりこっちり、ゆっくり食べたけれども、心構えが出来ていたぶん、適当に受け流すことができた。

おお、いい感じ、と、今日こそは娘をつれて公園に出かける。

先週、自分ひとりで出来るようになった大きな滑り台を周回する娘。うち一回は、「〇〇ちゃん(私)もしゅる!」と私の手を握り、一緒に来いと言ってきた。

「えー、ママも? 一人でいけるでしょ〜」

と渋々ついていきながらも、指に感じる娘の手の握りの強さを、忘れてなるものかと全神経を集中させ、脳に叩き込むママ3年目なのであった。

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ひとりしきり遊具で遊んだのち、桜と娘の写真を撮りたいという下心から「お花、見にいこう?」と声をかけると「おはなみにいこ」とすんなり応じてくれた。

桜の花を見やすいようにと、肩車をしてウロウロする。顔は見えないが、喜んでくれたらしい。疲れて下ろすとめちゃくちゃ泣いた。

あちゃー、始まっちゃったか。

と思いながら、「おしまい。抱っこじゃなくて、ベビーカーのる?」と説得していたところ、6歳くらいの女の子連れのお母さんに声をかけられた。

「あの、この子が、花びらあげたら元気でるんじゃないかって」

でも恥ずかしがっちゃって、私からですがどうぞ、と、お母さんが私に桜の花びらを一枚差し出す。

見ると、その女の子はビニール袋に桜の花びらを集めていた。花びらで元気が出る、というその発想とその優しさにびっくりしたし、それ以上に私は、花びらを貝殻よろしく集めるという、その行為自体に興味を持った。

ありがとう、それ、集めて持って帰ってどうするの、と尋ねると、うーんと困りながらも女の子は、おばあちゃんにあげる、と答えた。

そう、ありがとうねと応じながら私は考える。

貝殻と違い、桜の花びらは、薄い。
すぐに汚れて茶色くなるだろう。

女の子がそのことを知っているのか知らないのか、それは分からない。けれども、間違いなくその事実を知っているはずのお母さんが、

「綺麗な花びらを見つけるのって楽しいですよ〜」

と笑って、また腰を折り、娘さんと一緒に花びら探しにもどっていく姿は、春とは、母とは、かくあるべしと私に告げているような、なにか、春にだけ現れる精霊のように思われた。

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なるほど地面に落ちている花びらは多くが汚れていて、綺麗なものはかなり少ない。握った拳を開いてお母さんにもらった花びらを見てみると、そこにはもう、私の握った跡がついていた。

「はいこれ、お姉さんがたんまんにくれたんだよ」と言って娘に渡したら、「しない!」と拒否されたので、私は自分のジャケットのポケットにそれをしまった。

きっとこれも、知らぬ間に汚れて、気づかぬうちにどこかへやってしまうのだろう。女の子がおばあちゃんに花びらを渡すころには、花びらはぐっと萎びて汚れてしまっているだろう。

それでも結局、人の心に残るのは、あの淡桃の美しい姿なのだ。そういうものだ。花なのだから。

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押し問答の末、ベビーカーに乗って「おうちかえる」モードになった娘。家について、さあ手を洗ってじいじとばあばに電話をかけよう、という段で、ベビーカーから降りない。

ベルトのガッチャンコする部分を自分でガッチャンコしたいらしく、延々ガチャガチャといじっている。

ほなもう、その状態で義父母と通話しようと玄関でPCを立ち上げたところ、娘の逆鱗に触れてしまった。彼女の「自分のペース」「想定していた順序」を破ってしまったらしい。

一度通話を切って、泣きながら手洗いを拒否する娘に手洗いさせ、床に転がる姿を眺め、だっこをせがまれたので抱っこをし、ようやく機嫌を直したところで、また電話をかける。

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しばらくして、うーん、この位置は光の加減で暗く映るから、こっちに移動しよう、と何気なくPCを移動させたら、

「こっちがいいいいいいいいいいいい」

と、また地雷を踏んだらしい。ハア、とため息をつきながら、PCを元の位置に戻した。そしてまたグズグズ。

そんなことが一日になんども起きる。

そう、イヤイヤ期ならね!!!!!!??!!!



というわけで、唐突だけど疲れてきたので今日はおしまい。

マイペースのペースが遅すぎるし、地雷が多すぎてびっくりするし、警戒心強すぎて偏ったものしか食べてくれないし、このまま融通の効かない子に育ったらどうしようと思うけど、彼女の自我の形成に大切な時期だと言い聞かせて、期待値を下げて、完璧主義をやめて、イラチをやめて、焦らず見守っていくしかないんだろうなと思う。


そういえば今日、桜の写真を撮り忘れた。

でも大丈夫。

そんなことも、今日のイライラも、寝たら忘れるから。たんまんが指を握る、その握力の強さだけを、忘れないように夢に見るはず。



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